(2)
「まじかぁ……」
ごろん、と体を横向きにさせて息を吐く。私、乙女ゲームの世界に転生してしまったの……? 確かによく『二次元に行きたい』とか『このキャラと結婚したい』とか散々言ってはいたけれど、まさか本当にそうなるなんて。
ううん、と唸りながらも私は “指先にキス” について少し考えてみることにした。
舞台は魔法学園。その名も王立オルドフィールド学園。優秀な人材が集まる、全寮制のこの学校にとある事情で転入してきたシルヴィアは、魔法に恋に、その身を置くことになる。
(とある事情というのは魔力の暴走なんだけれどね)
母親と二人、村で暮らしていたシルヴィア。そんなある日村が襲われ、彼女を守るために母親が怪我をする。それを目の当たりにしたシルヴィアは怒りで魔力を暴走させ、強盗達を気絶させる。駆けつけた騎士達にもその力をぶつけようとしたところで力尽き、倒れたシルヴィアを首謀者として捕らえるが誤解であると知り、解放される。そのシルヴィアの魔力の高さから国王陛下は彼女をオルドフィールド学園へ転入させ、そこで知り合った攻略キャラ達と学園生活を謳歌していたが、シルヴィアの力に目をつけた反対勢力と一悶着あって最後はハッピーエンド!
……と、まぁかなり端折ったがそんなところだ。
カーラ、つまり私と同室になって一緒に過ごしていくことになるんだけど、モブであるカーラは挨拶やちょっとした会話でしか登場していなかった。
「って、待って。同室ということは私もオルドフィールド学園に入学するの!?」
あそこは学費が高い。バカ高い。そりゃあ上位貴族が通う王立学園なのだから当たり前だけど、うちからしてみたらそりゃあもう信じられないほどの金額なのだ。
「いやいやいや! 通うなんて絶対無理!」
特待生枠を狙おうかとも一瞬考えたが、すぐに考えるのをやめる。お父様といいお母様といい、魔力は中の中。そんな娘も良くて中の中に決まってる。
学力はどうにか出来るかもしれないが倍率が高い特待生枠を獲得するためには何か突飛なものを持っていないと恐らく目に止まらない。
(ゲームの中で何か言ってたっけ……)
あまりカーラの印象が薄くて所々しか思い出せないけれど。
「そういやカーラって幼馴染みがいたはずよね」
しかし今の私には幼馴染みはいなかった。ただ、ゲームの中のカーラは事ある毎に『幼馴染みが』とか『あの子にもお菓子あげようかな』とか『呼ばれたから行ってくる』とか言っていたような気がする。結局その “幼馴染み” はどのルートでも明かされなかった。
まさか私の知らない隠し攻略キャラが存在している? え、全員攻略したと思ったけど隠しとかあったの? こんなことなら攻略サイトを見ながらでも隅から隅までプレイするんだった!自力でクリアしたいがために一切見なかったのが仇となるなんて!
いや、そもそも男の子ではなくて女の子かもしれない。女の子ならめちゃくちゃ嬉しい。だって今の私には友達と呼べるような女の子はいないんだもの。
「幼馴染みかぁ……」
私はまだ8歳。もしかしたらこれから先 “幼馴染み” と呼べるような人に出会うかもしれないが、全くもって想像がつかなかった。
「そういえばカーラって最後どうなるんだっけ」
襲い来る睡魔と戦いながら、ぼんやりとそんなことを考える。思い出せない。途中までは思い出せるのに、最後彼女がどうなったかまで思い出せない。もしかしたらさらっと文章に出てきたのかもしれない。けれど私はそれを思い出せなかった。
「幸せで、平凡な最後だったらいいなぁ」
まだ本調子ではないのだろう。そこで意識が途切れた私が再び目を覚ますのは翌日の早朝であった。
王立オルドフィールド学園に入学するまで、あと7年。
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