ソロ怪獣ボンボン
ケーエス
🐉
🌎
宇宙のどこかでボクはたたずむ。
宇宙のはじっこ、地球と呼ばれていた星に腰掛けて、ボクはたたずむ。
暇だ……。とんでもなく暇だ。信じられないほど暇だ。
永遠の暗闇の中、時おりとんでくる小惑星を掴んで何もない空間に投げつける。
くだらない。全てがくだらない。
この世界はもう何もない。時間という概念も存在しない。ただこの宇宙に浮かぶ星々をながめること。それしかない。
なぜならボクがこの地球を焼き尽くしたから。このだだっ広い太陽系で唯一知能を持った生命がいる星を焼き尽くしてしまったから。良くも悪くも変化を絶えず起こし続けてくれる存在を消してしまったから。
そもそもボク自身が人間の手によって作られたのだ。
ヤヴェン博士は僕を「世界征服に最適な最強のドラゴン」だと豪語した。
博士は化石から復活したボクを見て毎晩嬉しそうに博士の奥さんと語り合っていた。
世界征服を成し遂げた暁にはハワイを庭にしよう。
そんなことを言ってたっけ。ハワイってどんなところなんだろう。
どっちにしろ今は溶岩だまりだろうけどな……。
⭐
ボクは火星まで飛んで行った。親指ほどの探査機がちょこまか動いている。
人類が残したもので見れるものはこんなぐらいだな。
そういえば博士は変な発明ばっかりしていた。
人の頭がどうにかなるウイルスとか、地面を揺らすロボットとか……。
「すべては世界征服のため」らしいけど、世界征服してなにがいいんだろう?
人類の頂点に立つとか、支配するとか言ってたけどよくわかんないや。
どっちにしろ人類は今いないし。
⭐
ボクは土星までとんでいった。
大きな輪を壊してしまわないようにゆっくり近づく。たくさんの岩石がぐるぐる輪をなして飛んでいる。
時々岩石通しがぶつかって砕け散っていく。
いいなあ。君たちはぶつかる相手がいて……。
永遠のように見えて不変だ。
彼らには始まりがあって終わりがある。ボクには終わりはないんだけど。
⭐
ボクは振り返ってこの周辺で最も輝いている星を見た。
キラキラした活性剤を思い出す。
博士の命令でボクは活性剤を飲み、世界を焼き尽くした。
そんな中、ヒーローが現れた。自分を倒し、博士の野望を止め、人類を救う存在になる存在になるはずの人間だった。
でも勝っちゃった。ヒーローに。
活性剤の力が強すぎてボクはグングン大きくなった。研究所をつぶし、街を踏みつぶし、大陸を平らにした。ついには地球くらいの大きさになってしまった。
ヒーローなんてどこにいるかもわからない。とりあえず火を吐いたら地球が丸焦げになってしまった。世界征服終了。
ボクは世界を征服するために生まれてきた。でもそれを果たした今、ボクはなんのために生きているのだろう?
ヤヴェン博士もその奥さんもいない。ボクを倒すヒーローもいない。ねえボクはどうすればいいの? そうだ、そんなことを相談する相手もいない。
寂しいな……。
☀
太陽の前まできた。熱くて触れたらいけないだろうことはわかってるけど、でも……。もうボクにはこれしか……。
ギュッと太陽を抱きしめた。とても熱い。ポンッと音がして太陽が消えた。
一瞬だった。輝きは失われた。
死にたかったのに。ボクは死ぬことも許されないの?
頬に涙がつたって、どこにもない空間へ落ちることもなく広がっていった。
その時、一筋の光が見えた。彗星だ。
彗星が、70年に一度しか来ないという彗星が目の前を通り過ぎていった。
思い出した。博士の奥さんがあの日の夜、夜空を見上げて歌っていた。
流星をみながら、誰よりも星が好きで歌が好きな奥さんが楽しそうに。
光り 魅かれ 満天の星
私は今日もここにいる
光り 魅かれ 満天の星
君はいづこに帰るのでしょう
そういえば奥さんを真似して歌おうとしたら研究所の屋根が吹き飛んだんだっけ。
あの時はこっぴどくしかられたけど、奥さんは別に悪い顔はしてなかったなあ。
そうだ、もう一度歌おう。もう何も迷惑をかけることはないし。
ソロ怪獣ボンボンは歌いだした。とてつもない衝撃波と騒音で、太陽系の惑星は全て吹き飛んだが、構わず彼は歌い続けた。
光り 魅かれ 満天の星
私は今日もここにいる
光り 魅かれ 満天の星
君はいづこに帰るのでしょう
ソロ怪獣ボンボン ケーエス @ks_bazz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます