39話 VS竜種
青く長い髪を静かに揺らし、特徴的な尻尾をゆらゆらと揺らす男が、街道の真ん中で一人佇んでいる。
イノチは込み上げてくる想いをグッと堪え、そんなウォタに声をかけた。
「ウォ…ウォタ…生きてたのか、お前…」
「……」
だが、ウォタはイノチの問いかけには答えない。
「い…生きてたなら、教えてくれても…よかったのに…。」
「……」
「おい、どうしたんだ…?ウォタ…なんとか言ってくれよ。」
「…………」
一向に言葉すら発さないウォタを訝しげに感じたイノチに対して、フレデリカが後ろから小さく声をかける。
「BOSS…あれはウォタ様だと思われますが…何かがおかしいですわ。」
「お…おかしいって何が…」
「うまくは言えませんが…気配がウォタ様ではないのです。」
フレデリカの言葉がいまいち理解できず、イノチは少しイラ立ちを隠せなかった。
助けに行こうとしていた…大切な仲間。
だが、ウォタは自分の問いかけには答えてくれない。
ーーーもしかして…怒っているのだろうか。
そんな予感が頭をよぎる。
ジパンを守るためとは言え、ゲンサイと共にジプトへ行かされたことに…それで結局、死にかけたことに…
自分に幻滅したのではないか…そう感じて不安が押し寄せてきた。
「ウォタ!怒っているなら謝るよ!俺の過信でお前を危険な目に…最強の竜種にこんなこと言うのはおかしいけど…」
「……」
だが、ウォタはそれでも答えてはくれなかった。
そんな彼の様子を見て肩を落とすイノチは、視線を地面に落とした。
しかし…次の瞬間驚くべきことが起きる。
ゴウッという力強い音と共に、ウォタの体から青いオーラが湧き上がり、突然襲いかかってきたのだ。
「BOSSっ!!」
「イノチさま!!」
フレデリカとアキンドが、危険を察知してイノチを庇うようにウォタの攻撃を回避しようとする目の前に、アレックスが盾を構えて飛び出した。
その表情は普段とは違い、真剣さが浮かんでいる。
ウォタの拳がアレックスの盾とぶつかった瞬間、鈍い音と衝撃波が辺りに広がった。
「ぐぬぬぬぬ…こ…これ…まずいかも…♪」
拳の勢いを盾で受け止めたアレックスは、必死に堪えながらそうつぶやいたが…
横からウォタの尻尾が襲いかかり、なす術なく吹き飛ばされてしまう。
「アレックスッ!!」
吹き飛ばされ、大木に叩きつけられたアレックスの身を案じるイノチであったが、ウォタはイノチの姿を再び捉えて追撃してきた。
「アキンド!BOSSを頼みます!ミコトたちの下へ!」
「御意に!」
抱えていたイノチをアキンドに預け、フレデリカはすぐさま竜化を行うと、向かってくるウォタの前に立ちはだかった。
だが、そんなことはお構いなしに突っ込んでくるウォタ。
「ウォタさま!ここを通りたくば、わたくしを倒してからですわ!」
そう大きく叫ぶと、フレデリカは赤く輝かせた拳をウォタへと放った。
だが…
「なっ…?!」
タイミングを合わせたカウンター。
普通なら、あの体勢からは回避行動しかとれないはずなのに…
ウォタは体を捻って、死角から飛んできたフレデリカの拳を受け止めたのだ。
それも軽々と…
それでも必死に押し込もうとするフレデリカに対し、特に表情も変えずに掴んだ拳をゆっくりと押し返すウォタ。
「ぐぐぐぐ…」
「……」
ウォタが本気を出しているのかすらわからないが、自分の力を上回っていることは確かだった。
ーーーこのままではまずい…
そう感じたフレデリカは、ウォタに向けて大声を上げた。
「ウォタさま!目を覚ましてください!貴方さまは最強の竜種でしょう?!こんな…誰かに操られるようなこと…ウォタさま!!」
「……」
一瞬、ウォタの瞳が煌めいた気がした。
だが、次の瞬間、ウォタは再び青いオーラを発現させ、フレデリカに蹴りを放つ。
「がっ…は…」
鋭い蹴りがフレデリカのみぞおちに深々と突き刺さった。
ヨロヨロと後方に下がっていくフレデリカ。
ウォタは少しだけフレデリカを見据えると、青いオーラを纏った拳を容赦なく彼女へと振るった。
(…ボ…BOSS…ご無事で…)
その瞬間、フレデリカは数キロ先まで吹き飛ばされた。
・
「皆さまぁぁぁ!」
アキンドの声にミコトとメイが振り返った。
彼の横には、どこか弱々しく放心しているイノチの姿がある。
「ど…どうしたんですか?!」
「それが…ウォタさまが襲いかかってきまして!!フレデリカさまとアレックスさまが交戦中ですが…」
アキンドがそこまで告げると、ミコトの懐からゼンが顔を出す。
「やはりか…」
「ゼンちゃん!何か知ってるの?」
ミコトのその問いかけにゼンは目をつむった。
「いや…あくまで推測だったから、皆を不安にしてもと思って言わなかったのだが…奴の雰囲気がおかしいとは思っていたのだ。もしかすると、あれは何かに操られているかもしれん。」
「操られて…?!」
その言葉にミコトもメイも驚いたが、イノチはゆっくりと顔を上げるとゼンを見てこう尋ねる。
「それを解く方法は…」
「わたしには解らん…今のウォタがどういう状態か不明だからな。それに時間ももうない…」
ゼンがそこまで告げると、イノチは背後にウォタの気配を感じた。そして、振り向けば、ゆっくりとこちらに歩いてくる彼の姿がある。
(なんで操られてんだよ…!最強の竜種のくせに…!)
歯を食いしばってウォタを見据えるイノチ。
それを横で見ていたミコトが、小さくつぶやいた。
「イノチくん…私がウォタさんを止めるよ…」
「え…?」
「ミ…ミコト!何を急に!」
驚いているゼンをよそに、ミコトはイノチの目をまっすぐに見つめる。
「ゼンちゃんと私がウォタさんの動きを止める。だから、イノチくんはその間に『ハンドコントローラー』を使って、ウォタさんを助けてあげて…」
「動きを止めるって…ウォタを元に戻せるかどうかわからないんだぞ?」
「でも、ここを切り抜ける方法が他にある?」
イノチはその言葉に押し黙る。
確かにそんな方法はないのだから…
しかし、イノチがミコトを危険な目に合わせることに戸惑ってもいることも確かだった。
そんな二人を見ていたゼンが、小さく息をついて口を開く。
「イノチ…安心しろ。ミコトは私が守る。」
「ゼ…ゼンさん…!」
「その代わり、チャンスは一度だと思え。今のあいつの力は計り知れん。」
ゼンはそう告げるとミコトに視線を送った。ミコトもそれに応えてイノチたちの前に出る。
そして…
「「竜合体(ドラゴニックフォーム)…」」
その言葉と同時に光り輝き出した二人を見て、イノチは驚いたが、気がつけばミコトとゼンは一つの体に融合を遂げていた。
両腕、両脚にはゼンと同じように竜種の鱗を纏い、着ていた服は上から下までゼンの鱗の色と同じ真紅へと変化している。
胸には赤い宝石が妖艶な輝きを放って煌めき、瞳には竜種によく似た綺麗な細長い瞳孔。
そして、臀部から伸び上がった赤く美しい尻尾が揺らめいており、その姿はまるで小さなゼンのようだった。
「ミコト…!それが…」
「うん、新しく手に入れた私とゼンちゃんのスキルだよ。これでウォタさんをなんとか止めて見せるから…」
ミコトはそう言って、ゆっくりと歩いてくるウォタの前に立つと、力強い眼差しを彼に受けてこう告げた。
「ウォタさん!わたしが相手です!!」
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