32話 バイタリティ高め女子


「あのプレイヤー…気づいたようですね。」



サリーと呼ばれた女性が静かにこぼすと、それにタケルが反応した。



「…だね…すごいな。僕らはこんなに早く気づけなかったのに…彼はこの短時間で見破ったのか…」


「やるじゃねぇか…あの坊主!!ハハハハ…どうするよ、BOSS。」



笑っていた男は、少し真面目な顔をしてタケルへ問いかけた。その言葉にタケルは少し考え込むと、静かに口を開く。



「まだだね…見破っただけで、解決はしてない。彼らがどう攻略するか…見極めてからでも遅くはないさ。」





「…くっ…ハァハァ…何なのよ、こいつ…」


「エレナっ!!」



突然声をかけられて、エレナは片膝をついたまま、その方向へと視線を向ける。



「BOSSッ…!?なんで…危ないから離れててよ!!」


「単刀直入に聞く!奴に攻撃が当たる瞬間、違和感があるよね!?」



突然、イノチが寄ってきたことに驚くエレナ。しかし、イノチはそんなことお構いなしに口を開いた。



「いっ…違和感!?」


「そう!何か不自然な…違和感を感じてるんだろ!!…じゃなきゃ、こんなになるまでただ何度も攻撃を繰り返すほど、君は馬鹿じゃないはず!」



イノチの真剣な眼差しに、エレナはグッとうなずいた。



「攻撃があいつの体に当たる前に、何かに阻まれるのよ…最初は結界かと思ったんだけど、これだけの数の攻撃を凌いでいて、一度も壊れない結界なんてあり得ない…」



目の前では、フレデリカがリュカオーンの攻撃をうまく交わしながら、ファングソードで斬りつけ、魔法を浴びせている。



「何度も結界を張り直してるんじゃないのか?」


「破壊されれば、それは可能ね…あたしもそれを狙って何度も同じところを攻撃してるし…でも、あれは一度も壊れていない…ヒビすら入ってないわ!」


「…と言うことは、魔法ではない何かが奴を守ってるのか…わかった!エレナ、ありがとう!!あと、これから言うことをフレデリカにも伝えて…」



リュカオーンを見つめるエレナの目は、まだ死んではいないようだ。現に、ギラついた瞳はイラ立ちの炎をまとっている。


イノチはそんなエレナに少しホッとしつつ、指示を出す。



「…わかったわ…でも、絶対無茶しないでよ!」


「大丈夫!自分の弱さは、自分がわかってるから!」



エレナはそれを聞くと再び駆け出した。


それを見送ったイノチは、リュカオーンの死角になる位置へとゆっくり移動していくのだった。




「ごめん!遅くなったわ!」


「エレナッ!BOSSと何を話していたのです!?」



リュカオーンの右前足の薙ぎ払いを交わして、フレデリカは走ってきたエレナの横に着地する。



「BOSSから伝言よ!」


「伝言…ですの?!」



エレナはイノチからの指示をフレデリカにも伝えた。



「本気で…それをやるんですの?」


「たまにはカッコつけたいのよ!BOSSだって男の子だし…」


「なるほどですわ…ならば、BOSSに怪我をさせないように立ち回るのが、できる部下というものですわ!!」


「わかってんじゃない!!じゃあ、いくわよ!!」



二人はそう言うと、再びリュカオーンに向かって駆け出すのであった。





「彼らは何かするつもりだね…」



タケルはイノチの動きを見て、そうつぶやいた。



「おいおい、大丈夫か?自分でなんかするつもりかよ…プレイヤーが死んだら終わりって、あいつ知らねぇのか!?」


「なにか考えがあるのでしょう…現に彼はリュカオーンの死角に移動しています。」



男はイノチの様子を見て、驚いているようだが、少し怒っているようにも感じられる。



「…彼らの作戦を見極めたら、助けに出るよ!二人とも準備しておいてね…」


「了解だぜ、BOSS。」

「かしこまりました…BOSS。」



三人が見守る中、イノチたちの死闘が始まったのである。





《貴様ら…さっきからちょこまかと…鬱陶しいぞ!》


「あら?それはお互い様よ!はぁぁぁ!」



エレナの斬撃がリュカオーンの右顔を通り過ぎる。しかし、その顔にキズがつくことはない。


自分の後方まで通り過ぎたエレナを、リュカオーンは尻尾で叩き落とした。



「ぐっ…!」



尾の攻撃をダガーで防御しながらも、地面に叩きつけられたエレナ。リュカオーンは続け様に後ろ脚で蹴りを放つ。


吹き飛ばされたエレナは、壁に激突して砂ぼこりを巻き上げた。

 


「こっちですわ…!」



いつのまにか、リュカオーンの頭上に飛んでいたフレデリカは、ファングソードを逆手に持ったまま、リュカオーンの目をめがけて突き立てた。


…が、やはり見えない壁のようなものに阻まれてしまう。



「グググググ…!」


《小賢しいわ!!》


「がぁっ!」



力尽くでこじ開けようと試みていたところに、リュカオーンの右足が繰り出され、フレデリカも吹き飛んでいく。



「こ・れ・で・も…喰らえぇぇぇ!!」



今度は、その間にリュカオーンの頭上に飛び上がっていたエレナが、今度は天井にぶら下がっていた大きな鋭岩を切り落として、リュカオーンめがけて放り投げた。



《無駄だとわからんのか!》



リュカオーンは避けることなく、岩は手前の何かに阻まれて砕け散る。その破片に視界を奪われ、リュカオーンは一瞬、エレナの姿を見失った。


破片の隙間からエレナがスッと顔を出して、リュカオーンの隙をついて、2本のダガーで顔へ連撃を放つ。


ガキンッガキンッと鈍い音が響き渡ったかと思えば、リュカオーンの右手が飛んできて、エレナはまた吹き飛ばされた。



《お前たち…馬鹿なのか?…何度も何度も…効かないとわかっ…!?》


「ぺちゃくちゃとうるさいですわ!」



リュカオーンが話している最中に、フレデリカが上空から顔めがけて炎魔法を放つ。


もちろん、リュカオーン自身には当たっていないが、彼をイラつかせるのには十分であった。


しかし、イラ立ちを見せてはいるが、強者のプライドからなのか…リュカオーンは先ほどから魔法などは一切使わずに、物理的に二人を弾き返していく。


何度も何度も、エレナとフレデリカが交互にリュカオーンへ攻撃を仕掛けていく度に、リュカオーンはハエを払うように手足尾を使って二人を吹き飛ばしていった。



「彼らは何がしたいんだ…」



戦いを見守っていたタケルは、疑問をこぼした。


リュカオーンに挑み続ける二人は、なぜ上からしか攻めないのだろうか。


二人のスピードがあれば、もっと多彩に、多方面から攻撃ができるはずなのに…


まぁだからと言って、あいつの防御を彼らが突破できるとは思わないが…



「わたしには、リュカオーンの注意を上に引いているように見えますね…」


「…上…っ!?そうか!」



サリーの言葉に、タケルは違う場所に視線を移して何かを探し始めた。



「BOSS…急にどうしたんです?何を探して…」


「彼は…ローブの彼はどこへ行った…?」


「ローブって…さっきの坊っちゃんですかい?そう言えば…見当たらないな…」



タケルの疑問に男の方はあまり興味もなさそうであったが、サリーがタケルにそれを示す。



「…あそこ…リュカオーンの腹の下に…」


「なっ…なんだと!?あの坊っちゃん、何を考えて…」


(いつのまに…!しかし、そこからどうするんだ…?見せてみろ!君の力を…!!)



驚く男を尻目に、タケルはイノチの行動をジッと見つめていた。


口元には小さく笑みを浮かべながら。

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