31話 Analytics(解析)
「…やっぱりだ…彼らはリュカオーンに挑むつもりだ…」
イノチたちがリュカオーンとエンカウントした直後、洞窟のある隙間からイノチたちを見つめる視線があった。
「タケル様…いかがいたしますか?」
「いかがもなにも、奴ら無謀だぜ…たった3人で挑むたぁ、死にに行くようなもんじゃねぇか!ハッハハハ!」
その後ろから、タケルと呼ぶ人物に話しかける影も二つ。
「…まずは様子を見ようと思う。彼らがどれほどやれるのか気になるしね…」
二人はタケルの言葉に頷くと、男の方が口を開いた。
「しかしよ、あの桜色の姉ちゃんは『UR』か…さっきの炎魔法はえげつなかったなぁ。」
「…ふふふ、確かにチート級だね…でも茶髪の子もかなり強いよ…彼女、本当に『R』なのかな…『SR』の君といい勝負だよね、サリー。」
サリーと呼ばれた女性は特に何も答えず、無言のまま目をつむっている。
タケルは再び視線をイノチたちへと戻す。
そのタイミングで、リュカオーンの咆哮がビリビリと伝わってきた。
◆
討伐対象モンスター名:リュカオーン
属性:闇
攻撃パターン:オール不明
詳細:ドラゴンに並ぶユニークモンスター
一般的に伝説では、元々人間であり、邪悪な所業により神ゼウスの怒りを買って狼に変えられたとされている。
イノチは携帯でモンスターの情報画面を開き、目の前のリュカオーンについて確認していた。
これはアクアドラゴンから依頼を受けた後に、討伐モンスターの情報を確認できないか調べていて気づいた機能だ。
しかし… それも徒労に終わる。
「これだけじゃ、なんもわかんねぇ!」
フレデリカが放った雷系の魔法が、リュカオーンに直撃し、その爆撃による風がイノチのところまで届いてきた。
気づけばエレナが目の前にいる。
「BOSS…ちょっとまずいかもしれないわ…」
「やっぱり…?」
「もっと下がっていて…決して近づかないこと…わかった!?」
エレナがそこまで言うと、晴れゆく煙の間から、リュカオーンの身体が徐々に姿を現していく。
《その程度か…?》
真っ黒な毛皮には特に傷はなく、ダメージを受けた形跡は見当たらない。
「毛皮の硬さじゃないわね…!」
「確かに…雷も効いてないですわ…」
エレナとフレデリカは悔しげにそうこぼした。
《その程度で、俺に挑もうと思ったのか?ヘビ野郎にそそのかされたか?カハハハ!》
尻尾をふらふらと動かし、まるで戦いを楽しむかのように、馬鹿にしているかのようにリュカオーンは笑っている。
「やっぱムカつくわね…」
「えぇ、マジで本気でいくですわ。」
エレナとフレデリカが青筋を立ててリュカオーンを見据えていると、リュカオーンはニヤリと笑みをこぼした。
《今度は俺からだ…我が影よ、彼の者を惑わせん…イリュージョン。》
そう唱えたリュカオーンの周りに、狼型の小さな影が3体現れ、こちらに向かって唸りながらよだれを垂らしている。
《貴様たちにはこいつらで十分だ…やれ。》
リュカオーンの言葉に、影たちはキバをむき出しにして襲いかかってきた。
「エッ…エレナ!きっ…きたぞ!」
「わかってるわ…フレデリカ!そっちの1体はまかせるわ!」
「了解ですわ!」
エレナはそう言うと、右から襲い来る影の狼2体に向かって駆け出した。フレデリカはファングソードを抜剣して、残りの1体を迎え撃つべく身構える。
イノチはゆっくりと後退りしながら、二人の戦いを見守った。
2体の影を迎え撃つエレナは、足に力を込める。
「行くわよぉぉぉ!はぁぁぁぁぁ!!」
エレナは先頭の影の横を疾風の如く駆け抜け、すり抜けると同時にグレンダガーで2連撃を叩き込んだ。
切られた影はそのまま光の粒子となって消えていく。
その勢いのまま、2体目の影の横まで駆け抜けると、同時にステップを踏んで方向を急変更する。
突然、真横にエレナが現れたことに驚く影だったが、反応できぬままエレナのダガーの餌食になった。
《…ほう。》
リュカオーンがすこし驚いた表情を浮かべる中、今度はフレデリカが向かい来る影に対して応戦する。
唸り声を上げて飛びかかる影のキバを、フレデリカはファングソードできれいにパリィすると、右手にまとっていた白い光の円から黄色い閃光を放った。
「駆けろ!!」
バリバリッと数本の雷が影に襲いかかり、影は光の粒子となり消えていった。
そこにイノチが駆け寄ってくる。
「フッ…フレデリカ!今、無詠唱で魔法使わなかったか!?」
「えぇ…使いましたわ!」
「…じゃ、今までのは…?詠唱してたじゃん?!」
驚いた表情で問いかけるイノチに、フレデリカは笑いながら答えた。
「だってその方がかっこいいですわ!」
「え…それが理由…?」
「魔法など無詠唱でできて当たり前。詠唱など、凡人のすることですわよ。」
「なんじゃ、その天才発言は!!」
あきれたように叫ぶイノチと、腕を組んで高笑いするフレデリカ。
そこにエレナがやってきて喝を入れる。
「遊んでる場合じゃないでしょ!」
「そっ…そうだった!」
三人がリュカオーンへと視線を向けると、奴は相変わらず見下すような視線を向けてくる。
そして、イノチたちの視線を確認すると、笑いながら話しかけてきた。
《…ふむ、貴様らなかなかやるな…奴の目も確かに腐ってはおらんようだ…しかしその程度では…なぁ…》
口を大きく歪めて、醜悪な笑みをこぼすリュカオーン。
それに対して、エレナとフレデリカはイラ立ちを隠せないでいる。
エレナはダガーをクルクルと手元で回してつかみ直すと、そのまま駆け出した。
フレデリカもファングソードを構えて、エレナを追うように走り出す。
「おっ…おい!二人とも!!」
心配するイノチをよそに、二人は再びリュカオーンへ戦いを挑むのであった。
・
・
目の前で起こる戦い。
ファンタジーなバトルが繰り広げられており、イノチはそれに目を奪われていた。
エレナもフレデリカも、リュカオーンに飛びかかっては跳ね除けられ、壁に激突することを繰り返している。
そうしてまた立ち上がると、再び挑んでいくのだ。
徐々にキズだらけになっていく二人の姿を、イノチは固唾を飲んで見守っている。
しかし、リュカオーンの毛皮は相当硬いようだ。エレナは何度も同じところを切りつけているようだが、まったく刃を通す様子がない。
フレデリカも、雷系と炎系の魔法を駆使して戦っているが、一向にその効果は見えないのが現状だ。
「あいつの体…なんかおかしくないか…?」
イノチはいつしか、リュカオーンの防御力に疑問を持ち始めていた。
確かに力の差があるのは事実だが、いっさい効果がないというのはおかしくないだろうか。
それにエレナの行動…
ビッグベア戦の時、エレナは言っていた。相手に攻撃が通らない時はすぐわかると…だからこそすぐに『グレンダガー(SR)』を要求したのだ。
なのになぜ、今回は攻撃が通らないとわかっているのに、何度も立ち向かうのだろう…
単に負けたくないだけで、何度も挑むだろうか…
イノチはエレナたちの攻撃が、リュカオーンに当たる瞬間を目を凝らして観察し始める。
(何かヒントを…奴を攻略する術を探せ…)
必死に戦いを観察することで、イノチは無意識に目に力を入れていた。
そうしてイノチが気づかないまま、いつしか彼の眼にはスキルが発動していたのである。
目の中に出現した小さな魔法陣が、リュカオーンの体を分析していく。
エレナの斬撃が当たり、ガキンッという乾いた音がすると火花が飛ぶ。
フレデリカの魔法がリュカオーンの体を直撃し、白い光が一瞬だけ光る。
(白い光…?)
それを見て、ある推測がイノチの頭をよぎった。
そして、再びエレナの斬撃が当たった時、それは確証へと変わる。
(…ダガーの火花でわかりにくかったけど、一瞬白い光が…魔法の時と同じだ…)
その考えに至った時、イノチは吹き飛ばされていくエレナの元へと駆け出したのであった。
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