28話 エンカウント
コウモリ型のモンスターがドロップしたアイテムを回収し終え、イノチたち一行は数度目の休憩をとっていた。
廃坑道に潜って、かれこれ2時間ほどになる。銅や鈴、鉄などの鉱石は幾分か見つかったのだが、目的の『ダリア』は未だにその姿を発見できずにいた。
「さて…そろそろ奥へ進もうか。」
「そうですわね。早く『ダリア』を見つけて帰りたいですわ。」
イノチが立ち上がると、フレデリカは虫をはらう仕草をしながら、それに同意する。
マジックポーションの瓶を回収して、イノチはアイテムボックスへとしまい込んだ。
とその時、フロアを見回っていたエレナが声を上げてイノチたちに呼びかけてきた。
「二人とも!こっちに来てくれる!?」
「なんだ…?エレナのやつ、なんか見つけたのかな?」
イノチとフレデリカが、声のする方に歩いていくと、エレナは身をかがめて何かを確認しているようだ。
「どうしたんだ?なんかあったのか?」
「これを見て…崩れててわかりにくいけど、この先に通路があるのよ。」
見れば、確かに通路があるようだ。
天井からの崩落で埋まってはいるが、明らかに人為的な造り方をされた形跡が見てわかる。
「この崩落は自然に起きたものではないですわね…何かに…破壊されたような…」
フレデリカは全体を見渡しながら、分析してくれている。
「必要なくなったから閉じた…とか?」
「いえ…そうならば爆薬の跡などがあっても良いのですが、これは何か…大きなもので叩かれたような跡ですわ。」
「げぇ…やめてくれよ。大型モンスターがいるとか、そんなの俺やだよ…」
「だいぶ古い跡ですから、近くにいるわけではないかと思いますわ。」
それを聞いてか、イノチは安堵のため息をついた。
「とりあえず…この先に行ってみましょう…何かにおうのよ。」
「無理に入らなくてもいいんじゃ…」
「この先に『ダリア』があるかもしれないわよ?」
「…まぁ…確かに…」
イノチは少し悩みつつも、小さくため息をついて、気持ちを切り替える。
「わかったよ…しかし、どうやって通るんだ…?こんなに狭いと誰も通れないじゃん。」
「確かにそうね…う〜ん…」
「フフフ…ここはわたくしにお任せください、ですわ。」
イノチとエレナがどうしようかと考えていると、後ろにいたフレデリカが腕を組んで自慢げに高笑いを始めたのだ。
「わたくしの土魔法が役に立ちますわね!」
「マジかよ…雷、炎ときて、土魔法まで使えるのか…フレデリカって、もう規格外な気がする…」
「そうね…URって聞いて羨ましかったけど、私の中でも、すでにそういう対象から切り離されたわ…」
高笑いし続けるフレデリカを、イノチとエレナはあきれたように見つめていると、フレデリカは腕を鳴らして、通路を塞ぐ岩へと近づいていく。
「さて、ではいきますわよ!…重き地を司る深淵の者よ、我の行手を開き給へ…」
そう言ってフレデリカが右手を掲げると、目の前の岩の壁がサラサラと砂に変わり、人が通れるほどのスペースが現れた。
「いっ…意外に繊細な魔法だ…」
「BOSS…わたくしをなんだと思ってるのですわ?錬金術師は土魔法を操らねば、なることはできません…こんなの、基礎中の基礎ですわ!」
「ごめんごめん…今までとのギャップが大き過ぎてさ…ハハハ」
プンスカと怒るフレデリカをなだめつつ、イノチは通路の先を見据える。
生暖かい風がゆっくりとイノチの横を通り過ぎていく。
「よし…じゃあ、行こうか!」
蛇が出るか鬼が出るか。
イノチたち一行は、暗く狭い通路を進んでいく。
・
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少し進むと、崩落の切れ目が見えた。
そこまで抜けると、三人は広い通路へと出る。
別れ道などなく、まっすぐな通路。
その先には、青白い光が小さく見えている。
「あの光は…なんだろう…」
「ん…いい予感がするわね…」
エレナはそう言ってスタスタと歩き始め、フレデリカもその後を楽しげに追っていく。
相変わらずだなと思いながら、イノチもその後を追うが、エレナのいい予感というものは信用できない。
だって…戦闘狂(バトルジャンキー)なんだもん…
そのまま進むと、泉のある空間に出た。
青白い光の正体はその泉。
水中に見える鉱石がキラキラと輝いており、それが水面から綺麗な蒼色を放っている。
「うわぁー!すげぇ〜な!!めちゃくちゃきれいじゃん!!」
「まさに、"幻想的"とはこの事ですわね!」
「…そうね。」
高揚するイノチとは反対に、エレナは少し残念そうだった。おおかた、モンスターがいなかったことが原因だろう。
そんなエレナはおいておき、イノチは泉へと歩みを進める。そして、水際まで来ると膝をついて光り輝く鉱石を水中から拾い上げた。
大きさはビー玉くらいで、少し丸みがかったフォルムと、透き通ったような蒼色は、ダイヤモンドやエメラルドなどを連想させるほど、美しいものである。
「フレデリカ…これってさ…」
「『ダリア』…ですわね!」
アキルドからもらった依頼書にある『ダリア』の絵と見比べながら、フレデリカはイノチの疑問を肯定した。
「マジかよ…こんなにたくさん…資金面はこれでクリアだな…」
泉へと視線を戻せば、至るところに同じように輝く『ダリア』が沈んでいる。
茫然と立ち尽くしたまま、イノチは驚きとともにそうこぼした。
「まっ…これで依頼はクリアか…もっと強い敵がいてくれたらよかったんだけど…こんだけの量の『ダリア』を見つけたんだから、今回は我慢するわ。」
「そうですわ!欲張りすぎても良いことないですからね…さっそく回収を始めましょう。」
エレナが仕方なさそうにつぶやくと、フレデリカもそれに同意する。
「よし、じゃあとりあえず、回収できるものは全部もらっていこう!!」
イノチがそう二人に指示を出しながら靴を脱ぎ、ズボンの裾をまくり上げているその時であった。
ゴゴゴゴゴッ
突然の地鳴りとともに、泉の水面が震え出したのだ。
「なっ…!なんだ!?」
「BOSS!後ろに下がって…!!」
「グェッ!!」
エレナは水際に立っていたイノチの襟を引っ張り、後ろへと放り投げる。
そして、そのままダガーを抜くと、フレデリカとともに臨戦態勢に入った。
目の前では、揺れる水面から巨大な何かが姿を現していく。
「こっ…こいつは!!」
「フレデリカ…知ってるのか?!」
驚愕が混ざっているフレデリカの声に、イノチが反応する。
「漂う気品と蒼い鱗…間違いない…こいつは…」
フレデリカの言葉に、エレナとイノチは目の前の巨大な生物から目を逸らさず耳を傾ける。
「"アクアドラゴン"ですわ!!」
フレデリカの叫びが、洞窟内に響き渡るのであった。
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