27話 戦闘狂(バトルジャンキー)2


「はぁぁぁぁぁ!!」



エレナのダガーによる横薙ぎが、コウモリ型のモンスターを真っ二つに切り裂いて、光の粒子となり消えていく。



「いちおう強化薬はたくさん持ってきたけど、使う必要なさそうだな。」



ダガーを振り下ろすエレナを見ながら、イノチは声をかける。



「ここにはあんまり強いモンスターは居ないみたいですわ。」


「そうね、さっきからこいつらみたいなザコばっかり…もっと骨のあるやつはいないのかしら!」


「俺としては、あんまり強いモンスターは来てほしくないけどな…」



つまらなさそうに話す二人とは対象に、イノチは小さくため息をつく。


三人が鉱山道を進み始めて、約1時間が経過しようとしていた。


洞窟内はどこから吹くのか、生暖かい風がゆっくりと吹き抜けている。

壁はゴツゴツした岩で覆われ、足元にはトロッコを走らせるためのレールがところどころに敷かれたままになっている。



「ここは本当に破棄された坑道なんだな…はぁ…先へ進もうか。」



ほとんどサビで覆われたレールを見ながら、イノチはそうこぼした。


そのまま一行は洞窟の奥へと歩みを進めていく。



「しかしなぁ、まさかアキンドさんにお兄さんがいたとは…しかも商人ギルドのギルマスって…あの一族、実はすごかったんだな…」


「ほんとよね〜カルモウ一族って、この国じゃものすごい権力を持ってるらしいわよ。ジパン国王御用達の商人らしいわ。」


「なんでお前、そんなこと知ってんだ?」


「メイが教えてくれたのよ。」


「なるほどな…だけど、あの人たちにはお世話になりっぱなしだな。命を助けたとは言え、館を安く貸してくれたり、本来受けられない依頼も、受けられるようにしてくれたし。」



イノチはしみじみと思い返す。



「メイも、館でのお世話を引き続きしてくれるらしいですわ!」


「メイさんか…彼女にもほんと感謝しないとな。本来の仕事とは関係ない俺らの世話をしてくれてるんだもんな。」



フレデリカの言葉に、イノチはうんうんとうなずいた。



「ところで、その『ダリア』って鉱石だけど、本当に見つかるのかしらね。アキルドの話だと、ここ数年見つかってないみたいじゃない。」


「確かにな…放棄された坑道で見つかりやすいって話だから、ここを選んだんだけど、それでもあるかどうかわからないらしいからな…」


「『ダリア』という鉱石は、別名『ルデラの気品』と呼ばれているようですわ。ルデラとはこの山のこと…その気品たり得るものがそれなのでしょう…すこしはヒントになりそうなのだけれど…」



エレナの疑問に、いつ調べたのかと思わせるほどの知識を披露しながら、フレデリカは悩ましげに首を傾げた。



「ルデラの…気品…か。こういうとこで言う気品って、岩場に咲く"一輪の花"的なイメージだよな。」


「そうね…だけど今回は植物じゃなくて鉱石だからね。普通じゃ、ありえない場所を探してみるしかないかしらね…」



アキルドから依頼された鉱石『ダリア』について、ありそうな場所の考察を互いに重ね合いながら、三人は洞窟を奥へと進んでいく。


その時である。



「…っ!?」


「エレナ…?急にどうした?」



突然、後ろを振り向いたエレナに、イノチが問いかけるが、エレナは少しの間だけ振り向いた方向を睨みつけ、すぐに前を向き直した。



「いえ…なにか気配を感じたんだけど…気のせいだったみたい…先に進みましょう。」



こういう時のエレナの感は当たる。

前回のこともあるし、警戒は怠らないようにしよう。


イノチは気を引き締め直し、エレナの後に続くのであった。





三人がほどなく進むと、少し広い空間が姿を現した。


ダンジョンの広間に比べれば、その空間はだいぶ広さがあるように感じる。


先ほどまでのゴツゴツした岩は少なくなり、平な場所が多く、細めの岩の柱がところどころに立っている。


天井を見上げれば、鍾乳石が何本もぶら下がり、そこには赤く輝くいくつかの視線がぶら下がっているのが確認できた。



「また、あいつらがいるわね。」



エレナが見上げながら、鼻をクンクンさせて、ダガーを抜刀する。しかし、そこでフレデリカが口を開いた。



「エレナ…今度はわたくしに譲ってもらえないかしら…」


「え…でも…」


「あなたには、先ほどまで全てのモンスターを譲って差し上げたのですわ。ここはわたくしに譲ってくれてもバチは当たりませんことよ。」



二人の会話を聞いていたイノチは、あることに気づいてしまった。


エレナと話すフレデリカの視線。


それは、ホブゴブリンやビッグベアを前にした時のエレナのそれと同じであったのだ。



(もしかして、フレデリカもそっち系…?マジかよ…)



二人のやりとりを見ながら、げんなりとしているイノチを尻目に、エレナとフレデリカの間では、折り合いがついたようである。



「わかったわよ…ここは譲るわ。」


「そうこなくっちゃ、ですわ!」



フレデリカは喜びながら、天井を見上げた。エレナはゆっくりとイノチの横まで歩いてくる。



「譲ったのか?」


「えぇ…」


「珍しいじゃん。俺としては仲良くしてくれて嬉しいけどな。」


「ボッ…BOSSのためじゃないわよ!?たまにはよ、たまには!」



これが世に言う"ツンデレ"ってやつかと、一人納得しながら、イノチはフレデリカに視線を向ける。


イノチの態度に納得がいかないと言ったように、横でエレナがぶつぶつ言っているが、聞かないふりをしてフレデリカの様子を見守ることにした。



「腕がなりますわ。さてと…何でいこうかしらね…」



フレデリカは顎に手を置いて、少し悩む素振りを見せたが、すぐに思いついたように指を鳴らした。



「こう広いエリアでは、あれですわね!」



そうつぶやいて、フレデリカは目を閉じると、両手を腰の高さの位置で広げた。


すると、彼女の周りを白く光る円が囲い始め、着ている服や桜色の髪がゆらゆらと揺らめき始めたのだ。



「魔法を間近で見れるのは、ファンタジーの醍醐味なんだがな…」



喜びつつも、どこか引き気味につぶやくイノチ。そんなことは知らずに、フレデリカは詠唱を始める。



「紅き炎を司りし豪炎の主よ、その力を持って、我らに仇なすものを灰塵に帰せ!」



そこまで言うと、フレデリカは目をカッと開いた。そして、右手を天井へと掲げ、左手を添えながら、最後に締めの言葉をつづる。



「インフェルノ・フレア!!」



言葉と同時に、右手からは強大な炎が放たれた。


頭上高くを駆け抜けるそれは、天井に当たるとそのまま壁を這うように広範囲へ広がっていく。


天井にぶら下がっていたコウモリ型のモンスターたちは、思いもよらない炎の渦にその身を焼かれ、苦しみに満ちた悲鳴を上げながら、バサバサと落下してくる。


その様子は地獄絵図のようだ。

炎が通った場所には残り火が揺めき、当たりを明るく照らし続けている。



「かっこいいんだけど、フレデリカの魔法は威力がハンパないんだよな…えげつないほどに…」



線香花火の火花のように儚く散っていくコウモリたちを、少し気の毒に感じつつ、イノチはその様子を静かに見ているのであった。

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