3話 チュートリアル
「チュートリアルね…定番だよね。」
イノチがそう呟いていると、真っ白な空間が突如として宇宙空間へと変貌する。
「うっ…うわぁ!落ちる!?」
突然の浮遊感に驚き、ジタバタするイノチにアリエルが声をかける。
「驚かれましたか…フフフ。安心してください、これは立体映像ですから落ちませんよ。。」
そう言いながら、アリエルがある方向を示すと、そこには地球に似た美しい星が浮かんでいる。
まさに宇宙飛行士のように、一つの星を宇宙から俯瞰して眺めているように錯覚してしまうほどだ。
新鮮な体験に落ち着きを取り戻すも、あいも変わらずキョロキョロとしているイノチに向かって、アリエルが説明を始める。
「この星はバシレイアと呼ばれており、大きさはあなたの住む地球と同じくらいです。リシア帝国、島国ジパン、ジプト法国、北の国ノルデンといった大国から、その他の小さな国まで、数多くの国が存在しており、初めは国を一つ選択してもらい、そこから冒険を始めていただきます。」
アリエルの説明に沿って、紹介された国に順番に赤い光の点が灯っていく。
「選択する国はどれでもいいの?」
「もちろんです。あとで選ぶときにそれぞれの国の詳細が見れますので、参考にしてください。」
「なるほど…わかりました。」
うなずくイノチを確認すると、アリエルは説明を続ける。
「各国、各都市には商人ギルドや冒険者ギルドがあります。プレイヤーレベルが上がれば、そういったギルドでのクエストも受注可能になりますので、頑張ってレベルを上げてくださいね。では、次にいきましょう…。」
アリエルがそういうと、今度は広い草原へと移り変わった。感じていた浮遊感もなくなり、ちゃんと地面に立っているようだ。
「…おぉぉ…」
感嘆の声をあげながら辺りを見渡せば、地平線がはっきりと確認できるほどの壮大な草原が広がっていた。
上を見れば空には巨大な太陽が煌めいており、ときおり優しい心地よい風が、体の間を吹き抜けていく。
「次にご自身についてです。」
アリエルはそういってイノチの方に向き直る。
「まずはレベルです。基本的には魔物を倒すことで得られる経験値により、ご自身のレベルを上げていきます。」
アリエルがそこまでいうと、イノチの目の前に狼のような魔物が現れる。
「おわっ!!!」
いきなり唸り声をあげる魔物が目の前に現れたことで、イノチは驚いて尻餅をついてしまう。
「ご安心を…これは襲いません。」
アリエルがそういうと魔物は光の粒となり、その一部は尻餅をついているイノチの中に吸い込まれ、それ以外は消えてしまった。
あとには、細い瓶に入った青色の液体と数枚の貨幣、そして爪のようなものが残っている。
「この液体は強化薬といいます。使い方は後ほど…このように魔物を倒すとプレイヤーには経験値が蓄積され、一定のゴールドと魔物特有の素材がドロップされます。」
「なるほどね…理解しました。」
イノチは立ち上がりながら、そう言って自分のお尻をはたいている。
「プレイヤーのレベルが上がれば、先ほど伝えたギルドクエストを含め、いろいろな機能が開放されます。今はここまでですが、解放時に説明がありますので、詳しくはその時に。」
「それも了解です。」
おしりをはたき終えたイノチは、アリエルの言葉に理解を示した。
「また、装備品については、購入と製作の二つの入手方法があります。基本的には購入である程度そろえることができます。制作については特殊なスキルが必要ですが、レアリティの高い装備を作ることが可能です。」
「なるほど…その…製作のためのスキルっていうのは…?」
「例えば、後ほど選んでいただく職業で"鍛治職人"というものがあります。」
「あっ…そういうことですね!了解です。…ちなみに"例えば"っておっしゃいましたけど、他に何があるんですか?」
「各都市にも鍛冶屋はいますし、他に錬金術師という職業もありますね。」
「アルケミストとか…マジで男心をくすぐるぜ、こりゃあ。」
イノチはキザっぽく鼻で笑うが、アリエルは何に触れることもなく、説明を続ける。
「さて、基本チュートリアルは次で最後です。」
アリエルはそう言うと、エメラルドカットが施された黄金に輝く宝石がいくつか入った小袋を、イノチへと手渡した。
「こっ…これはもしや…」
小袋を持つ手が小刻みに震え出す。
この感じ…覚えがある…今までやってきたソシャゲのほとんどで、共通して経験してきたある行為のことだ。
やばい…嬉しさが…止まらない。
フルダイブ型のVRだけでも楽しめそうなのに、そこにその要素が加わってしまうなんて。
イノチは言葉にできず、視線だけでアリエルに訴えかけると、アリエルはニコリと頷いてイノチが期待していたとおりの言葉を発したのだ。
「それでガチャを引いていただきます。この世界では…」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
イノチが大声で喜びの叫びをあげる。
イノチの大声を予想していなかったアリエルはビクッと体を震わせて、ズッコケてしまった。
そんなことはお構いなしに小躍りするイノチに対して、アリエルはゆっくり起き上がると、手をパンパンとはたきながら疑問を投げかける。
「そっ…そんなにガチャが嬉しいんですか?」
その問いかけに、小躍りを止めてイノチはアリエルに顔を向けると、ニンマリとした笑顔を浮かべる。
アリエルはその笑顔に少々引き気味だ。
「ガチャは…俺の全てです!」
「はっ…はぁ…そうですか。」
言っている意味がよくわからないといった表情を浮かべ、アリエルはズレた眼鏡をかけ直すと、気を取り直して説明を再開する。
「コホンッ…この世界ではプレイヤーのみが使える魔法が準備されています。その名を"ガチャガチャ"と言って、ガチャを引くための魔法です。」
「うんうん!!」
ものすごい勢いで頭を縦に振りながら、煌つかせた視線を送りつけてくるイノチ。それにやりにくさを感じつつ、アリエルは説明を続ける。
「この魔法を行使すると、プレイヤーの目の前にガチャウィンドウが現れます。ガチャからはキャラクターや装備品などのアイテムがランダムに排出されますので、頑張ってキャラを引き当て、仲間にしてください。ガチャには1連、5連、10連の3種類のガチャがあり、先ほど渡した黄金石の個数によって回せる回数が変わります。ガチャを回すための黄金石は、世界に点在するダンジョンやイベントをクリアすることで、報酬として受け取れます。ちなみに、黄金石はゴールドで買うこともできますが、効率的に集めるにはダンジョンやイベントがおすすめですね。」
アリエルはその内容を一気に説明していった。少し早口で話すその内容は、初心者には少し聞き取りにくいだろうが、イノチはまったく意に介した様子はない。
逆に今の話を聞いて浮かんだ疑問を、アリエルに投げかけた。
「黄金石の必要個数は…?」
アリエルは淡々と回答する。
「5個で1連、10個で5連、20個で10連が可能です。」
「…ふむ。」
その内容を聞いて、イノチは少し考えを巡らせる。
(必要数はそんなに多くないな…ということは、イベントなどから回収できる黄金石のレア度も高いということだ…キャラ以外にアイテムも出るということは、キャラを引ける確率はグッと下がるな…効率良く黄金石を集めて回していかないと…それには…)
「あの…いいですか?イノチさん…説明を進めても?」
「…え?あぁ…すみません。ちょっと考え事を…」
考え込むイノチに、アリエルは少しあきれたように声をかける。
「あとキャラクターには結晶欠石というものがあって、規定数を集めると結晶石となります。それでキャラクターを獲得することもできますので…ここまでで他に質問はありますか?」
「……う〜ん、大丈夫です!」
「それは良かった。では、さっそくですがガチャを引いてみましょうか。」
その瞬間、イノチの目が輝いた。
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