だーてぃ・じゃんけん

めぞうなぎ

だーてぃ・じゃんけん

「おれはな、じゃんけんなんて別にグーチョキパーじゃなくてもいいと思ってるんだ」

「どうして?」

「要素が3つあって、それぞれの優劣関係さえはっきりしていれば、なんでも用足りるということさ」

「そう言われてみると、そんな気がしてきたよ」

「だから、おれは、『うんこ』『しっこ』『ちんこ』でじゃんけんをしたい」

「えっ、ちょっと下品じゃないかい」

「そう思うだろう、けれど、おれの話を聞いてみろ。そうすれば、お前もうんこしっこちんこじゃんけんをしたくなるに違いない」

「ほんとうかなあ」

「ほんとうだとも。いいか、まず、うんこしっこちんこ案を採用すると、三要素に統一感が生まれるんだ」

「統一感?」

「そう、統一感だ。オリジナルの『グー』『チョキ』『パー』を考えてみると、同じ文字が入っているでもなし、共通点を見つけようとすれば、せいぜい、グーとパーに長音が含まれている程度だろう」

「確かにそうだ」

「英語だと、“rock, paper, scissors”と言うそうだが、これにしたって同じ母音があるとか、そういう共通点でしかないのだ」

「なるほどねえ」

「しかし、うんこしっこちんこシステムを採用すると、三要素全てが三音で、さらに語尾が『こ』で終わるという、音声上の統一もとれて美しいわけだな」

「美しいという形容詞はさておき、うなずけるところはあるよ」

「なので、うんこしっこちんこじゃんけんシステムを一緒に考えてもらいたい」

「えっ、ぼくがかい」

「そうとも、お前は物事に対して深慮がある。そこを評価してのことだ」

「そこまで言うなら、付き合ってあげた方がいいのかなあ」

「では、まず、手の形から考えよう」

「名称だけでなく、表象もいちから考案するんだね」

「新しいシステムを考えるというのは、そういうことだ。おれの方で、ちんことしっこに関してはもう考えてある」

「えっ、早いなあ」

「まず、ちんこはこうだ」

「ええと、握りこぶしから人差し指と中指を揃えてまっすぐ突き出すんだね」

「そう、これがちんこだ」

「じゃあ、しっこは?」

「しっこはこうだ」

「ふん、しっこは、ちんこと違って、突き出すのが人差し指だけなのか」

「そうだ。ちんこの手の形は、そのまま、ちんこを表している。そして、しっこはちんこの太さより太く出てくることはないので、指の数を半分に減らして、ちんこを踏襲しつつ、しっこを表現しているわけだな」

「うまく説明されると、納得してしまいそうになるよ」

「しかし、うんこについては上手いことアイディアが浮かばないのだ」

「ちんこやしっこより、うんこは難しいかしら?」

「うん、そうなのだ。例えば握りこぶしで表現しようとした場合、これは固くてころころしたうんこを示しているわけだが、必ずしもうんこの状態が一定とは限らない。体調や食べたものによって、水分の多いびちびちなやつとか、長くてするりと出てくるやつとかがあるわけだからな。つまり、一意にうんこを表すというのは、文字でうんことでも書かない限り困難なのだ」

「うぅん、それを聞くと難しそうだね」

「困った、煮詰まってしまった。便秘だ!」

「あっ、では、こうするのはどうだろう」

「むむ、どういうことだ」

「こうするんだよ」

「人差し指と親指で、丸を作っているのか」

「そう、こうして丸を作ることで、肛門を表現すればいいんじゃないかと思うんだ」

「なるほど! 出てくるうんこの状態はさまざまだが、それらのうんこが出てくる肛門というものは一定だな! これは素晴らしいアイディアだ。脱糞、いやさ脱帽ものだ」

「そんなに褒めないくれよ」

「やはり、お前に相談してよかった。これで、手の形は決まったな。では、それぞれの優劣関係を決めよう。そうすればもうこれはじゃんけんだ」

「うんこ、しっこ、ちんこかあ。五十音順で決めるのでは、芸がないものね」

「うん、だから、分かりやすいちんことしっこの関係性から決めようと思う」

「どっちが強いの?」

「ちんことしっこで強いのは、ちんこだ。これは、ちんこからしっこが排泄されるという、一種の主従関係から推測されるルールだが」

「他にきっかけがないのなら、それでもいいんじゃないかしら」

「では、『ちんこ>しっこ』ということにしよう。やや、すると、うんことの関係も簡単に決まるわけだな」

「そういうことになるね」

「つまり、『ちんこ>しっこ>うんこ>ちんこ』というわけか」

「ははぁ、納得できるところはあるよ」

「ちんこはしっこを排泄し、しっこはその水流でうんこを抉るわけだな。えー、うんこはというと」

「尿道がうんこを通すのは難しいだろうから、『うんこ>ちんこ』というのに無理はないと言えると思うのだけど」

「なるほど、スマートな解釈だ。やはりお前に相談したのは膀胱、もとい僥倖だった」

「これで、ルールはできたのかな」

「うんうん、うんこしっこちんこじゃんけんの完成だ」

「よかったね」

「やや、ちょっと待て。まだおれたちには考えなければいけないことがひとつ残っていたぞ!」

「まだあるのかい?」

「そうだ、掛け声だ」

「掛け声」

「『じゃんけんぽん』に類するような、ゲームの開始を示すあれだ。せっかく新しいシステムを考案したというのに、掛け声が従来と同じではつまらない」

「なかなかの凝り性だね」

「これについては、リズミカルでテンポよく、口ずさみたくなるようなものがいいだろう。欲を言えば、各モチーフも盛り込みたいところだ」

「欲張るなあ」

「『だーいべん、しょーうべん、おっちんっちん』というのはどうだろう」

「調子だけで言えば、結構いいんじゃないかな」

「『ぶりっ、じょー、びんっ、ホイ!』はどうだ」

「ちょっと直接的過ぎる気もするね」

「それぞれの頭文字を取って、『うっしっち』というのは」

「悪くないけれど、インパクトには欠ける気もするな」

「うーん、お前はどれがいいと思う」

「意味内容はともかくとして、最初のやつが一番それらしいんじゃないかと思うよ」

「そうか。では、『だーいべん、しょーうべん、おっちんっちん』を掛け声としよう」

「あはは」

「これにて完成だ、『うんこしっこちんこじゃんけん』」

「よかった……ね?」

「お前は一番の功労者だ、ぜひ、お前と一番最初にこのじゃんけんをしたい」

「ぼくでいいのかい」

「うん、お前がいいのだ」

「そうかい。なら、付き合うよ。仕方がないからね」

「では、いくぞ」

「いくよ」


『だーいべん、しょーうべん、おっちんっちん!』

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だーてぃ・じゃんけん めぞうなぎ @mezounagi

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