第3話 朝風呂ハプニングと買い物デート その1

 悪夢にうなされた上に、隣で日本一可愛い女子高生が可愛いモコモコのパジャマでスヤスヤと寝息を立てて気持ちよさそうに寝ていたおかげで二度寝は熟睡まで至らなかった。

 寝不足で頭が重い。こういう時は熱い湯船にかってリフレッシュするに限る。

 追いきをセット。準備が出来るまでの時間を利用して俺は自宅から持ち出して来たゲーム機を取り出してテレビにつないでいく。我が家にあった安い物と違ってこれは最新の4K有機ELテレビ。これでゲームをやったら間違いなく造り込まれた世界がより美しくなる。動きも滑らかになることだろうから目にも優しい。最高だ。

「でも……はぁ……出来ないよなぁ」

 ケーブルを接続しながら俺はため息をついた。プレイしている俺は楽しいが、それを見ているひとつさんはどんな気持ちになるだろう。

 同じ空間にいるのに同棲相手にほったらかしにされたら。きっと俺なら寂しくなる。一葉さんもそういう気持ちになるかもしれない、と考えるのは俺の傲慢か。

「まぁ一葉さんがいない時にやればいいかな……」

 とはいえ、部活をしているので中々時間は取れないだろう。となれば彼女が寝た後だな。朝からゲームをする気にはなれない。

 まだおが沸くまで時間がある。朝ごはんは何を食べようか、と考えたところでこの家には食料が何もないことを思い出した。そもそもこの家、冷蔵庫がないじゃないか。どうすんだ朝飯。

「おはようございます、よしずみ様」

「うわっ!? っえ、みやもとさん!? なんで!? どこから出てきたの!?」

 さも初めからそこにいるのが当然のように運転手の宮本さんが立っていた。その手にはMでおなじみのハンバーガーチェーンの袋が二つ握られていた。えっ、もしかして何もないから届けてくれたの?

「はい。お二人のために朝食をお持ち致しました」

 宮本さんにさえ俺の考えが読まれている、だと!? というかなんで朝からハンバーガーなんだよ。胃に優しくないだろう?

かえで様のリクエストでございます。朝マ〇クというものを食べてみたいからよろしくと、昨晩連絡がありました」

 一葉さんの要望かよ! 昨日のピザといい今朝の朝マ〇クといい、意外とジャンクフード好きなのか!? 別に俺も嫌いじゃないからいいけどさ。でも昨日言っていた手料理をふるまうって言葉がなんだか不安になってきたぞ。

「そこはご安心ください。楓様の料理は少々癖が強いですが味は私が保証致します。せっかくですので冷めないうちに食べていただきたいところではありますが、まずはお風呂に入られては?」

 追い焚きが終了したことを告げるメロディーが流れる。出来ることならまだ寝ている一葉さんを起こして冷めないうちに食べたいのだが、そうなると湯が冷めて沸かしなおす羽目になってガス代がもったいない。

「大丈夫です。楓様は朝弱いのでまだ起きてはこないでしょう。ですからササッと湯あみを済ませてから起こして差し上げればよろしいかと」

「俺が起こすのは確定なんすね。まぁそこは要検討ということで。わざわざありがとうございます、宮本さん」

「いえいえ。これも仕事の内ですから。それに今日はお出かけですよね? お供しますのでどうぞよろしくお願い致します」

 丁寧にお辞儀をして、宮本さんは家を出て行った。あの口振りからするに今日一日のお買い物という名のデートは運転手付きということになるのか。なんともぜいたくな話だ。

 しかし。今はそんなことよりも風呂だ。宮本さんの登場ですっかり頭はえたがそれでも入る! 彼の話では一葉さんは休日の朝は弱くてまだ起きて来ないって話だから大丈夫だろう。気兼ねなくゆっくり浸かるとしよう。

 熱いシャワーを浴びて冷えた身体からだをしっかり温めてから大きな浴槽にダイブ。あぁ、極楽極楽。両足伸ばしても余裕があるお風呂に毎日浸かれるなんて最高かよ。はぁ、気持ちいいなぁ。

「もしも日本一可愛い女子高生とそんな大きなお風呂に一緒に入れたらどんな気持ちになりますか?」

「そりゃもちろん最高だよ。一葉さんと一緒にお風呂に入れたら俺の人生の運はその瞬間に使い切ったも同然だよ」

「フフッ。それならその幸運は一生続くから安心してください。だってこれからずっと一緒ですから」

「えぇ? 毎日一葉さんとお風呂に入れるのぉ? 最高かよ───って、なんでだよぉ!」

 ガチャリ、と風呂の扉が開いたその瞬間、俺は無意識のうちになんてことを口走っていたんだと後悔すると同時に世界がとてもゆっくりに見えた。

 どや顔にも見えないこともない女神の微笑を浮かべた一葉さんが、身体からだにバスタオルをしっかり巻いて俺の優雅な朝風呂タイムをぶち壊しにやってきた。

 タオルで覆っていてもはっきりわかる、雄を刺激する二つの爆弾に視線を奪われないように俺は全力で明後日あさっての方角を見る。平静を保つべく心の中で素数を数える。

「あれれ、どうしたんですかゆう君。耳まで真っ赤ですよぉ?」

 おいおい、この子ったらあおってくるんですけどぉ!?

「なんで入ってきたの、一葉さん!? 俺が入っているの知ってたよね!? 確信犯だよね!?」

「それはもちろん、目が覚めたら隣にいるはずの勇也君が居なくて寂しくて寂しくて。この悲しみを一分一秒でも早くいやしてもらわないとって思ったからなんですが……ダメでしたか?」

 もちろんダメです。俺の理性が一瞬で蒸発してしまいます。

「でも昨日はがっちり閉めていたお風呂の鍵を今朝は開けておくなんて……一日も経たずに陥落したと思ってもいいですか? ねぇ、どうして顔を隠しているんですか?」

「だ、だだ……だって一葉さん、い……いいいいま、裸だよね!?」

 バスタオルを巻いていても新雪のような肌とかすらりと高校生離れした肢体とか、むしろ裸でないことでエロさが限界突破している。見たらダメだ見たらダメだ見たらダメだ!

「フフッ。意外に初心うぶなんですね。男の子ならここは万歳三唱で女体を見たがるんじゃないんですか? 私はむしろ見てほしいんですけど……?」

 そりゃ見たいさ! 見たいけど見てしまったらなんか終わる気がするんだよ。きっともう彼女でしか色々致せなくなる確信があるというかあぁなし! 今のなし! 大丈夫、俺なら大丈夫だ! 何が大丈夫かはわからないけどな!

「安心してください、勇也君。しっかりタオルも巻いていますし、さすがに私もいきなり裸はまだ恥ずかしいですし。だから……こっちを向いてください」

 最後の方はかすれるような小声で一葉さんは言った。俺は照れながら発せられたその言葉を信じて恐る恐る楓さんに視線を向けた。

「ねっ? 大丈夫ですよね。裸だけど裸じゃないですよね?」

「うん。うんん?? 大丈夫なのか? いや、やっぱり大丈夫じゃない気がするんだけど……」

 冷静に考えろ。状況にまれるな。風呂に入ることには変わりないしそのバスタオルだってシャワー浴びたりすれば外れるかもしれないし、湯船に浸かったらうっかり外れるかもしれない。そこで俺はふと一つの可能性に思い至った。

「あぁ、そっか! その下には水着を着ているってオチだな! 俺をドキドキさせてハラリとそのタオルを取ったら、残念水着着てましたぁ! がっかりしたぁ? ってお約束をする気だな! そうだな!」

「……フフッ。さすが勇也君。よくぞその答えに辿たどり着きました、と褒めてあげたいところですが残念でした。私はその上を行きます。だって───」

 一葉さんは不敵な笑みを浮かべていた。まさか───!?

「───何も着ていないですもん。ほら」

 パサッとバスタオルをめくる一葉さん。俺は女神の裸像を幻視して、お約束を破る彼女に思わず絶叫を浴びせた。れいだけどね! 日差しを浴びているのかと不安になるほど健康的で新雪のような柔肌。解放された豊かに実った二つの果実がぷるんとはじけるのを生で見られるのは男の夢が叶った瞬間だ。触って感触を味わってこそだと思っていたが、ただそこにあるのを眺めているだけでも幸福な気持ちになれる。じゃなくて!

「どうしてそこはお約束を破るんだよぉ馬鹿野郎────!!」

「だ、だって……分かり合うには裸の付き合いが一番じゃないですか?」

「裸の付き合いならまずは夜のベッドが俺はいいかなっ!?」

「あら。ならそこは『フフ、今夜は寝かせないぜ子猫ちゃん』とか言ってほしいです。ゴロニャン」

 わいいが過ぎるんだよちくしょうめぇ! 俺は心の中で叫びながらから飛び出た。ああっ! と切ない一葉さんの声が聞こえるが無視だ。このまま一緒に入ったら確実にちる。

「もう……勇也君のいけず」

 舌なめずりとともに一葉さんの小悪魔的な台詞せりふが聞こえた気がした。

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