両親の借金を肩代わりしてもらう条件は 日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。2
第1話 いつもの朝
「───や君。───
誰かに名前を呼ばれながらそっと肩を揺らされて、俺の意識はまどろみの中から浮上した。重たい
「おはようございます、勇也君。今日は随分とお寝坊さんですね」
「あぁ……おはよう、
スマホの時計を確認すると時刻は朝の7時前。普段より1時間程遅い起床だ。寝る直前に抱きしめはしたがその後はちゃんと離れてから寝たはずだ。それなのにどうして俺は彼女に腕枕をしているんだ?
「勇也君が中々起きてくれなくて寂しかったのでつい……てへっ」
舌をペロッと出して出来心を謝罪する楓さん。普通ならここは
頭を撫でられて
「えへへ。勇也君に頭を撫でてもらうの好きです。でも、おはようの朝にして欲しいことが他にあるんですけど……わかりますか?」
可愛らしい笑みから一転して
「ねぇ、勇也君。おはようのチュー、しましょう?」
静かに耳元で
「───痛っ! ちょっと勇也君! どうしてチョップするんですか!? そこは愛を込めてチューをするところだと思うんですが! 思うんですが!?」
キスをするふりをして優しく手刀を落とした。当然のように楓さんは抗議の声を上げるが俺は全部聞こえないふりをしてベッドから
もうすぐ3月になるがそれでも朝はまだ冷える。このまま熱い湯に
「うぅ……勇也君のいけず。薄情者。照れ屋さん。毎日おはようとおやすみのチューはしましょうって約束したじゃないですかぁ」
楓さんが
「それはそうですよ。だって約束したのは私の夢の中に出てきた勇也君とですから。てへっ」
「……それじゃその約束はなかったということで。それにゆっくりしている時間はないよ。準備しないと学校に間に合わなくなる」
「そんな
顔を手で覆って泣き
「嫌ですぅ! 勇也君がチューしてくれないと起き上がれません! なんならこのまま二度寝して眠り姫になります! いいんですか!?」
「それはまた新しい脅しの仕方だね……」
駄々をこねる子供のように手足をじたばたとして暴れる楓さん。このまま放っておいて一人で準備することもできるが、そんなことをすれば本格的に楓さんが拗ねかねない。フグのようにぷくぅと頰を膨らませる楓さんも可愛いんだよなぁ。って、今はそんなことを考えている場合ではない。
「まったく……仕方がないなぁ……」
「───へ? ちょ、勇也君!?」
わざとらしくため息をつきながら、俺は楓さんの頭の横に手をついて覆いかぶさる。頰をさすり、アゴをクイッと持ち上げてそのまま優しくキスをした。
「フフッ。どうしたの、楓さん? 顔が真っ赤だよ?」
「うぅ……それは勇也君がいきなりチューをするからです。責任取ってお嫁に
「はい、それはもう喜んで! と言いたいところだけど、どちらかと言えば貰われるのは俺の方なんだけどね」
「そうでした! 高校卒業したら勇也君は私のお婿さんになるんでした! 新婚旅行はどこがいいですか? 定番のハワイですか? それともニューヨーク? 水の都のようなオシャレな国も捨てがたいですね!」
俺の首に腕を回して抱き寄せながら、明るく幸せな将来の話をする楓さん。普通ではありえない話だが、俺達に限っては約束された未来だ。
海外に逃亡したクソッタレな父さんが
「ウユニ塩湖とかどうですか? あ、一度でいいからオーロラを生で
新婚旅行をどこ行こうか
「か、楓さん……そろそろ離してくれると助かるというかなんというか……」
「? どうしたんですか? もしかしてぎゅぅするの嫌なんですか?」
「いや! そうじゃない! そうじゃないんだけど……その、当たっているんだよね」
恥ずかしいからみなまで言わせないでくれ。楓さんは夜は着けない派───何をとは聞くな───なのでパジャマ越しにダイレクトに伝わってくるのだ。たわわに実った豊潤な果実の柔らかさが。どんな枕よりもクッションよりも俺をダメにするまさに極上の逸品。
「フフッ。間違っていますよ、勇也君。当たっているのではありません。でも当てているわけでもありません。勇也君に押し付けているんです」
えい、と楓さんは俺の頭をがっちりと
「悪ふざけはいい加減にしてくれ、楓さん! これ以上されたら俺の身が持たない!」
わずかに残された理性を総動員して女神様の拘束を打ち破り、俺は逃げるようにベッドから降りる。だが当の女神様には反省した様子は見られず、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべていた。
「フフッ。顔を真っ赤にして照れる勇也君、すごく可愛いです。写真に撮っていいですか? 答えは聞いていません!」
どこから取り出したのか、いつの間にか楓さんの手にはスマホが握られておりパシャパシャと写真を撮られた。
うん、楽しそうなのはいいけどこのままだと遅刻するからね?
*****
「勇也君、時間はまだ大丈夫ですか!? 歯磨きするくらいの余裕はありますよね!?」
寝室でパジャマから制服に着替えている楓さんの叫び声が洗面所にいる俺のもとに届いた。
「ん……まだ大丈夫! でも急いだほうがいいよ!」
鏡で寝ぐせをチェックしながら俺も声を張り上げて答える。それからすぐに、ドタバタと足音が聞こえてきた。
「ハァ……ハァ……ハァ……! お待たせ……しました!」
確かにパジャマから制服に着替えている。だがそれで本当に着替えが終わっているかと言えば答えは否である。
スカートのファスナーは中途
「そんな格好だと風邪ひくよ? ちゃんとボタン留めないと」
肩をすくめながら楓さんに歯ブラシを渡してから胸元のボタンを閉めていく。手のかかる子供を持つ親の気持ちが分かった気がした瞬間だった。
「も、もう……勇也君は妹思いのお兄ちゃんですか? だらしのない妹の世話をする優しいお兄ちゃん……いいですね。勇也お兄ちゃん、大好き!」
「うん、何を言っているかさっぱりわからないよ。ほら、スカートは自分でちゃんと履いて。時間もないから急がないと!」
はい! と元気良く返事をする楓さんと並んで歯を磨く。肩がピッタリつきそうなくらいの距離で仲良く歯磨きする姿を鏡で見るとなんだか不思議な気分になる。これじゃまるで───
「まるで新婚さんみたいですね、私達」
「あぁ……そうだね」
楓さんが生まれて初めて両親にしたわがままによって一緒に暮らし始め、わかったことがいつくかある。
日本一
同棲初日から一緒に寝ましょう、お
簡単には
楓さんだけが俺の努力を認めて、褒めてくれて、頑張れって応援してくれた。一番欲しかった言葉をくれた。
色々問題の多い両親とはいえ一緒にいるのが当たり前だったのに、それが突然消えていなくなることへの恐怖が俺の中に巣くっていた。そんな闇の中に光を差し伸べてくれて包んでくれたのも楓さんだ。この人ならどこにも行かない。きっとそばにいてくれる。そう思えたから課外合宿の日、満天の星の下で告白した。
でも、だからこそ今のままではいけないと俺は思っている。
今の俺の状況は楓さんのご両親に養われている、いわゆるヒモ男状態だ。お小遣いももらっているという情けない立場だ。なるべくそれには手を付けず、夏にバイトで稼いだお金でやりくりしているがいずれ限界が来る。
学費や生活費の面を楓さんがどう考えているかはわからないが、男として何から何まで楓さんに頼りたくない。クソッタレな父さんの背中を見てきたからこそ、大切な家族を支えられるようになりたいのだ。
そのためにまず俺がやれることは勉強だと思う。いずれ楓さんのお父さんの後を継いで一葉電機の社長に就任してもらうと言われた以上、しっかり大学は出ておきたい。社長令嬢に気に入られただけの男と周囲から言われたくない。
4月になれば高校二年生になる。進路をどうするか考えなければいけない大切な一年間になるだろう。そのときになって慌てるのではなく今から計画を立てておくことが大切だ。楓さんと幸せな未来を築くために頑張らないと。
「勇也君、今日も一日頑張りましょう! 学期末試験も近いですし、勉強もしっかりやらないとですね!」
再来週に迫った期末試験。俺が倒さなければならない敵が目の前にあった。
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