第2話

 ¶王¶


 1


 入学式が終わり、指示通り教室に向かう。

 一年東国だから東棟の三階。遠い、ジャンプして窓から入りたい。

 さっきそれやろうとしたら昇降口は必ず通れって言われたし。

「あ、早乙女さおとめ君っ!」

 呼ばれたので振り返ると遠西とおにしが友達を二人つれてこちらに手を振っていた。

 立ち止まり合流する。

「あ、ほらさっき言ってた桜花おうかりん

「ホントに友達だったんだ」

「失礼なこと言わない」

 ビシッと俺の頭に遠西のチョップが飛んできた。

干支君えときみ桜花。お互い死なないように頑張りましょう?」

「お、おう」

 紫髪ロングの女子がそう自己紹介をした。なんというかこいつ俺のこと殺しそうな目をしてるんですけど。

「はいっ、私は結城ゆうき凛。仲良くしてね~」

 白髪ショートの女子が右手を挙げて自己紹介をする。こっちはまともそう!

「早乙女れい。こっちこそよろし…」

 すっ、と結城が俺の髪を撫でる。

「ちょっと凛ッ!?」

 遠西が声をかけるが構わず結城は俺の髪をくるくるしたり手櫛をかけたりする。

 俺は初対面の子に一体何をされてるんだろう。

 

「変な色の髪してるんだね、早乙女君。ゴマプリンみたい」

「なんだそれ」

「ちゃんと染め直したら?白似合うと思うけど」

「染めるっていうかコレ地毛なんだけど」

「「「え?」」」

 三人が驚愕する。

「え……」

「いや普通頭そんなことにならないよ?」

 あ。

 やらかした、こんなこと聞かれると思ってなかった。

「えっと、魔法使うと髪の色変わったりするんだー。なんか魔力流れて」

 棒読みで自分でもわけのわからないことを口走る。

 でも、魔法使って髪の色変わることはホントにあるけど。

「あ、そういうことなら早く言ってよ。焦るじゃん」

「なんか昇降口でやってるみたいじゃない?行ってみよ~」

 遠西と結城がそう言う。馬鹿で助かった。

 俺たちが昇降口に着くと、そこでは生徒が一人ずつ魔法をかけられていた。

 見る感じ怪しいわけではなさそうだけど。

「なんの魔法か聞いてもいいですか?」

 近くにいた学校関係者に質問してみる。

「ああ、これは精神関与系統の魔法の『信義』だ。名前の通り、裏切り行為を固く禁止するんだ。魔導士は同じ東国の連中だから安心していいぜ」

 “魔法”ね。

「なるほど、ほかの国でもやってるんですか?」

「ああ、逆にコレをやらないと不利になるかもしれないからな」

 確かに。でもこれで裏切りはないと考えてよさそうだな。

 俺は礼を言うと列にもどり、聞いたことを干支君たちに報告する。

「裏切りはないのね。裏切りが可能だと、どうしても潜伏系統に長けている魔法を使える生徒が有利になるし。でもひとまずこれはだと思うわ」

 こいつ意外と頭がキレるな。俺もちょっとアピールしとこ。

ってのは俺も同感、もしうちの国にそういった魔法持ちのやつがいたとしてもこの時期からお互い信頼もないのに敵国に送り出すのはリスクがある。二重スパイとかされそうだし。俺たちは小人数が顔見知りってだけだけど、敵国は既に信頼関係が築けている可能性がある、そうなるとめちゃくちゃ不利になる、って考えであってるか?」

 そう言うと干支君は少し驚いたような顔をした。

 どんなもんですか!

 その後、遠西のアホな話で時間を潰しながら順番を待ち、無事に魔法をかけてもらったあと教室に向かった。

 途中で女子がトイレに行くと言ったので先に行こうと思ったが「道に迷ったらどうするの?!」って遠西に怒鳴られた。直後、「なら、お寝坊なアナタは明日からどうやって一人で学校に来るの?」と干支君からカウンターをくらった遠西は言い返すことができず、とりあえず俺をひっぱたいて結城を連れてトイレに行った。「先に行ったら泣いちゃうからね!」と言い残して。

 もう俺、帰っていいかな。

 そう嘆いて腰を下ろすと少し視界がぼやけた。

「干支君、結城とはいつから知り合いだ?」

「中学からね。それは結も変わらないわ。それがどうかしたの?」

「時期にわかるよ、お前は」

 段々目が冴えてくると遠西たちがこっちに向かってきていた。

「おまたせ~、ちゃんと待ってって偉いぞ」

「馬鹿にしてんのか」

 立ち上がろうとするが少しふらつく。

「大丈夫?」

「うん、立ちくらみかな」

「じゃ、教室いこ……」

「ごめ、私ちょっとトイレ行ってくる」

 結城が言いかけたところで干支君が遮りトイレに走っていった。

 あいつにはあとで話があるな。

「アンタら人待たせすぎだろ」

「今回たまたま長かっただけだから!」

 もうこの人たち嫌だ!

 それから干支君が戻りようやく教室に着いた。

 黒板に「三十分後戻る」と担任から書かれてあるのを確認した干支君はいきなり教壇へ上がる。

 こいつは一体何をやらかしてくれるのだろう。

 会長の言葉でみんな怖がってるから余計なことを言うべきじゃないだろ。話しかけるべきでもない。

 遠西とか結城がおかしいだけだ。

「先生が帰ってくるまで自己紹介でもしましょう」

 干支君はそう全く笑えないことを開口一番口走った。


 2


「おい、みんなそんな気分じゃないだろ」

 俺から一応注意しておく。が、すぐにカウンターを食らう。

「ならアナタは気分じゃないからって戦場で相手と戦うことをやめるの?」

「それとは状況が違う」

「違わないわ。状況なんてただの背景でしょう?いつだってそこにいるのは自分と相手よ。それだけは揺るがない。気分、やる気、調子、そんなもの何一つ行動を制限する理由にはならない」

 う、怖っ!

 俺は一度ため息をつく。

「口挟んで悪かった。続けてくれ」

 干支君は俺を一瞥し顎を引く。

「他に異論がある人がいないなら始めたいのだけれど」

 みんなは周りを見渡す。ビビってるのがすぐにわかる。

 そこで一人、大柄な男が手を上げる。

「俺はそこのチビと同意見だぜ。自己紹介なんてやってられねぇ。馴れ合いをしに来たわけじゃないからな」

 金髪モヒカンって不良かよ。イマドキいるんだな。

 というかこいつ今、俺のことチビって言った?

「先に断っておくけれど私も馴れ合いをしに来たわけじゃない。お互いどんな戦闘スタイルをするかの確認は必要でしょ?」

「あ?っせーな。俺がやめろって言ってんだから引けよ。俺は女は殴りたくないんだよ」

は全く意味が違うのだけれど、先に言っておくと貴方は後者よ?」

 パンッと。不良男が椅子を蹴り、こちらに飛ばしてきた。

 干支君直撃コースだな。

 仕方なく俺は魔法を展開する。

「必要ないわ」

 干支君はそう言って俺の肩を叩き、前に飛び出し向かってくる椅子を真っ二つにした。

 その後、高速で不良男まで距離を詰めてさっき椅子を真っ二つにした道具を不良男の首にあてる。

 そう、定規を。

 いやどうやって定規で椅子を真っ二つにしたんだろ、コイツ。

「私の使う魔法は『王』。あらゆる物質の基本的なエネルギーあるいはステータスを最大で5倍ほどまで上昇させる。魔法についてはこのくらい」

  なるほど、定規の強度と自分の腕の筋力にバフをかけて椅子を真っ二つか。かなり恐ろしいな。

 干支君は不良男から離れて、再び口を開く。

「私の名前は干支君桜花。この国の王になる者よ。以後、従いなさい」

 そう言って自称未来の王様は微笑んだ。

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