黒にひかれる運命は。
琴塚ミミ
第1話
¶執筆¶
◆◆◆
目の前で赤の鮮血が散る。
俺の足元に動かなくなった仲間の身体が転がり、奥では腹部に風穴を開けられた魔王が下品に笑う。
「『
俺はその隙に魔力を絞り出し、足裏に発生させた爆風を利用して魔王に急接近する。
魔王が魔法を展開し迎撃しようとするが、俺も同時に魔法を展開してそれらの魔法を消滅させる。
距離一メートルほどまで接近すると、俺は空中で握りなおした愛刀の
「仲間の死くらい悲しんだらどうだ?
魔王が笑いながらそう言った、と思う。
よく聞こえなかった。もう体力は限界で本当に四肢がついているかも、自分の髪の色もわからない。
でも一つ確かなのは、俺は
「アンタに道徳を説かれたくねぇな、死ねよ」
刀の切っ先に爆発を生み、それを利用した速度で魔王の首を刎ねる。
「『
最後の最後まで下品に笑う魔王の首は地に落ちた。
◆◆◆
きっとこれが最短で最善なはず。
俺はその道を選択し意識を覚醒させる。
この道の過程で死体は山のようになるかもしれない。
だが構わない。俺は
さっき死んだ仲間が気になるけど多分これから出会えるハズ。
俺はそう考えをまとめるとベンチを立ち、体育館へ向かう。
「あ」
俺の今の考えはその瞬間決定的になり、少しゾッとする。
「余命四年、なんちゃって」
そう呟くと体育館に向かう足を進めた。
1
ここ
学校の敷地内なら買い物や娯楽施設の使用は無償で一般の高校生からしたら夢のような世界だろう。
だが、実際は各国の生徒が集い、殺し合いをする地獄のような場所。そして今日が俺たち、第4期生の入学式だ。
体育館に入るとそこには、似たようなローブを纏った生徒たち同士で列を造っていた。
国ごとに分かれて列になっているのか。
全部で四種類あるうち自分と同じ赤色のローブを纏っている生徒の列の最後尾に着く。
さっきの生徒も見つけた。共闘していたから当然同じ国か。
すると後ろからトントンと。振り返り相手を確認する。
「あの~、この列が東国であってますか?」
茶髪のセミロングの女子が俺にそう尋ねてきた。一度頷き口を開く。
「俺も東国。同じローブだからここが東国の列で合ってると思うよ」
「そっか~、よかった~。敵国だったらフクロだったもんね」
「ん?何の袋?」
すると手を立てて左右に振る、それも笑顔で。
「あはは、何言ってんの?ボコボコの方だよ」
よし、何も聞かなかったことにしよう。
俺が心の中でそう呪文を唱えているのをよそにその子が距離を詰めてくる。
「あ、隣いい?名前なんて言うの?」
「
「早乙女くんね、私は
「遠西……、西って付くのはあんまり良くないんじゃなかった?」
今の各国のいがみ具合は半端じゃない。名前からの差別、偏見も当然ある。
「いや、西から一番遠いって意味だから!大丈夫だと、思い、ます……」
だんだん声が小さくなっていく。バツが悪くなったのかすぐに話題を変えてきた。
「ま、まぁそんなことより!寮スゴくなかった?なんか設備とか!」
確かに大きなベッドとかキッチンとかお風呂とか、高校生に与えるレベルの部屋ではなかったかな。
「ホテルみたいな感じだった気がする」
それを聞いた遠西はさっきの復讐と言わんばかりに赤くした顔を寄せてくる。
「へぇ、HOTELとか詳しいの?大人なんですねぇ」
なぜ英語表記になるのかは知らんが、変な誤解はされたくないので素直に話す。
「安心しろ。ひょっとしなくても俺は童貞です」
「ぶッ!」
隣で遠西が吹き出す。コイツ馬鹿にしてんのか。
「マジな顔で何言ってんの!ちょー面白いんですけど!あとで
もう二度とコイツと話さないと固く誓おうと思ったが少し質問してみる。
「桜花達?知り合いいるの?」
「あ、うん。ほらあの二人」
遠西は俺たちより五つほど前に並ぶ女子二人を指差した。
ほう。
「左の白髪ショートの子が
「え、なんで一緒に並ばないの?嫌われてるの?」
「ちぃがいまーす!私が寝坊しただけだから。ていうかホントに嫌われてたら今の泣いちゃうやつだよ?!」
今の泣いちゃうやつなのか。いいことを知った。
「悪かった。そういえば遠西はどんな魔法使うの?」
「あ、魔法?」
そう言うと遠西は右手を上にかざす。すると半透明の小さな盾のようなものが出てきた。
「見ての通り『盾』。強度ならダイヤモンドと同じくらいだけど」
「無詠唱で魔法使えるんだ、すご」
「でしょー?早乙女君は音読ピーポーですかぁ?」
からかうように遠西がそういう、ドヤ顔腹立つな。
「いや、必要ないけど」
「なぁッ?!」
「だましたなー!」と言いながら遠西は俺の襟元を握ってゆすってくる。
でも強度がダイヤモンド並みってすごいな。使い方次第でかなりの戦力になる。
「その魔法、剣とかは作れないの?」
それを聞いた遠西は俺の襟を放し首を横に振った。
「無理、出せるのはこの形で決まってるの。大きさとか数しか調整できない」
なるほど、それでも実用性はある。詠唱なしでこの様子なら量もかなり出せるだろ。
「じゃ、早乙女君の魔法は?」
「んっと……」
刹那、ピリっと。
比喩でもなんでもなく今、体に電流が通った。
するとさっきまでざわついていた会場は収まり、前のステージへ注目がいく。
俺達もつられて視線を動かすと白髪の男が一人優雅にそこに立っていた。
そして、右手にマイクを持ったその男は口を開く。
「私は第二期生徒会会長、並びに三学年南国『ヒンメル』団長。一ノ
白髪の男はそう言うと、不気味に目を細めた。
2
生徒会長ってことは実質的にこの学校で一番強いのか。
「それでは皆さん、まずは入学おめでとうございます。これから軽くこの学校の説明をさせていただきます。あまり気負いすぎずリラックスしてご清聴下さい。」
そう司会の手本のような挨拶から切り出した一ノ瀬会長は前の巨大モニタの画面を切り替えた。
魔法科特別戦(行事)
四月……入学式/監督生付属の学校見学期間
五月……体育祭
六月……『東国vs南国』/『西国vs北国』
七月……球技大会
八月……夏休み/クラス合宿
九月……『東国vs西国』/『南国vs北国』
十月……特殊戦目
十一月……文化祭
十二月……『東国vs北国』/『南国vs西国』
一月……特殊戦目
二月……林間学校
三月……全面戦争/卒業式
「前の画面が予定になります。今月の学校見学というのは同じ国の二年生が皆さん一年生にマンツーマンの監督を担い、一か月かけてこの学校を把握してもらうというものです。その他の特別戦の詳しい話は一か月前には担任の先生から告知されるのでそこで確認をお願いします」
思ってたよりまともじゃないな。高校生がこんだけ戦うか、普通。
「それでは皆さんある程度存じていると思いますが、この学校の説明を私から軽くさせていただきます。まず、基本ですがこの世界には三大勢力と呼ばれる三つの大きなグループがあります。一つ目はあなたたち人類。二つ目は魔王軍。そして三つ目に女神様率いる天使部隊。そして天使部隊と魔王軍は古より対立状態にあり現在も至るところで交戦をしております。人類は天使部隊と協力関係にあり天使部隊の力を借りて今まで平和に過ごせてこれました」
ああ、そのとおりだ。ところが。
「ところが二年前。当時、一国に統一されていた我が国の予言術師の全てがある予言をしました」
一ノ瀬会長は一拍置く。
「『五年後に行われる天空戦で今まで保たれていた均衡が致命的に魔王軍に傾いてしまう』と。勿論、国は混乱し国民は不安を積もらせます。そして、その混乱に乗じて内乱が起こり現在のように四つの国に分担されてしまった。しかし五年後に対戦を控えている今、内輪揉めなんてしている場合ではないので国の統一は必須。しかし、そのために兵を削ることは極力さけたい。そこで若い高校生たちに国の統一のために戦ってもらうということになった」
兵を削りたくないから大人の参加は避ける、そしてあまり若すぎるのも国を背負わすことはできない。高校生がピッタリだったってわけ。まったく迷惑な話だ。
「この式で皆さんに伝えなければいけないことが二点あります。まず一点目は他生徒及び教師、学校関係者への暴力は禁じます。お互い同意のもと戦うのであれば生徒会を通して決闘という形で戦ってもらいます。脅しによる不正な集団暴行などを防ぐため生徒会が同席しますのでご理解をお願いいたします。勿論お互いが強い意志のもと命を懸けるのであればどちらかが死ぬまでこちらは干渉しません」
プライベートの決戦で殺せるのか、一クラス三十人で三年間足りるのか?
「二点目は、他生徒とのシェアハウス及び同棲は許可します」
会場がざわつく。今日で十件は告白イベントあるな、コレ。
俺とは無縁だが。自分で言いつつ少し泣きそうなのはこの際黙っておく。
「以上二点を伝えました。一点目を違反すると国にペナルティ又は当事者の処刑又はその両方が課せられます。くれぐれもご注意ください」
すると一ノ瀬会長は一拍あけて空気を変える。
「私たちは馬鹿な大人の馬鹿な考えで
まぁそうだな、あんた達は勝手に未来を決められた被害者だ。
「私は殺しが嫌いだし、争いが嫌いだ」
は?
会場がザワつく。手練というのは肌で感じる。
だが、この人はそんな子供みたいな平和主義を掲げて生徒会長になれたのか?
もしそうなら、期待外れだ。
「みんなにも殺しなんて辛い思いはしてほしくない」
一ノ瀬会長は一拍置くと狂気じみた笑みへと顔を一変させる。
またさっきのように身体に電気が流れた。
前言を撤回しよう、期待以上だ。
「だから私はみんなが殺さないといけない全ての敵を殲滅しよう。こんなに辛いのは私だけで十分だ」
殺気立たせて会場を睨む会長を受けて周りに緊張が走る。
俺もこれはさすがに動揺する。そして確信する。この人、手合わせしなくてもわかる。魔王軍幹部レベル、いやそれ以上。しかもかなりイカれてる。
「今年の一年生は炎の年と聞いた。だが私の相手にはならないだろう。そして一年後の全面戦争で私は全ての敵を殲滅する。だから皆さんも本気で私を殺しに来てくださいね」
そう言って最後に一ノ瀬会長は微笑んだ。
周りを見るとほとんどの生徒の足が震えてる。遠西は……、話聞いてないな。
「では少し早くなりましたが、以上を持って第四期生生徒入学式を終わります。この後はクラスでミーティングをして十二時三十分解散を目途にお願いします。東国から順に校舎へ移動してください」
一ノ瀬会長のその爽やかな終わりの言葉で、俺たちの地獄の高校生活が始まった。
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