第6話 強い彼、弱い彼

「よっと」


 グレイルはシャロールちゃんを背中に乗せて、歩き出す。


 歩き始めてから、私達の間にしばらく気まずい空気が漂っている。

 それを払うように、私は口を開いた。


「人狼は……本当はめったに他種族と関わらないのよ」


「……」


「今回は、特別」


「……」


 返事がない。

 聞いてないの?


「村で変なことをしてみろ、噛み殺すぞ」


 グレイルが脅すように言い捨てる。

 ちょっと怖い。


「……は、はい」


 やっと返事をしてくれた。

 やっぱり聞いてるみたい。

 けれど、その後再び沈黙が訪れた。


――――――――――――――――――――


「シャロールちゃんは……って誰だい!? 人間じゃないか!?」

「それに、シャロールちゃんどうしたんだい!?」


 マザーは私達を見て驚いた。


「この人はシャロールちゃんのお知り合い……?」


「はじめまして」


 私が紹介すると、人間は頭を下げた。


「グレイルが……飛び出しちゃって……」

「シャロールちゃんが……止めに入って」


「早くベッドに寝かせてやりなさい」


 私の説明を最後まで聞かずに、マザーは中に入っていった。

 私達も急いで中に入る。


――――――――――――――――――――


「シャロールちゃん……」


 早く目を覚まして……。

 見たところ、怪我はしていないみたいだから。


「ううん……」


 私が心配しながらも、その隣で裁縫を始めたときだった。

 彼女のうめき声が聞こえた。


「佐藤……」


 誰かを呼んでいるみたい。


「シャロールちゃん……」


 安心させようと思い、手を握るとシャロールちゃんは目を開けた。


「レティ……リエ……?」


「よかった、起きたのね」


「佐藤は?」


 まだボーッとした目で彼女は尋ねる。


「佐藤って……さっきの?」


 あの人間?


「大丈夫かな?」


「彼はなんともないわ」


「よかった……」


 シャロールちゃんの顔が緩んだ。

 どうしてシャロールちゃんはこんなに彼を気にかけているの?


「シャロールちゃん、彼って……」


 なんて訊いたらいいんだろう。

 わからない。


「私の……大切な人……かな?」


 シャロールちゃんははにかみながら、そう言った。


 大切な人……。


 シャロールちゃんがそう思うってことは……。


「彼って強いの?」


 グレイルみたいに強かったら……。


「ふふっ、そんなわけないじゃん」


 私の問いかけはシャロールちゃんに笑い飛ばされてしまった。


「でなきゃ、私が守ったりしないよ」


「それじゃあ、どうして?」


 強くもない人を……大切にするの?

 やっぱりわからない。


「そこが好きなんだ」


「そこって……?」


「強くもないのに、私を守ろうとしてくれるところが」


「……」


 私はシャロールちゃんの言葉に衝撃を受けた。

 私達には信じられないことをこの少女は考えている。

 しかし、その思いを正直に伝えてしまえば彼女は傷ついてしまう。

 幼い彼女のために、慎重に言葉を探す。


「それって……」


「変だよ」


 私が迷っているうちに、あっけらかんと答えたシャロールちゃんに、言葉を失った。


 シャロールちゃんもそう思ってるんだ。


「変だから……ス」


「レティリエ、大変よ!」


 マザーが部屋に駆け込んで来て、シャロールちゃんの言葉は遮られた。

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