第2話


 休日に会う大学生の彼が、頼りなく幼く見えた。後で思えば仕方がない事なのだ。学生なのだから。彼も社会に出て、やがて大人の男になっていく。そんな当たり前の事に考えが及ばない。そう――自分もまた幼かった。


 それに気付かない私は、段々と大人のある男に惹かれていった―――。



 いつも目で追ってしまっていた。7歳上の先輩だった。

 ある日、その人に食事に誘われた。実にスマートに。

 ただの食事だから……と、なぜか自分に言い訳するように、胸の高鳴りに気付かないふりをして付き合った。


 食事中、何度か大学生の彼の顔がよぎった。


 その度なにもやましい事なんてない……、と自分に言い聞かせた。

 それは心のどこかで、何かしらやましさを感じていたからではなかったか。

 たとえ今夜が食事だけでも、先々に何かが起こる……そんな何かを期待する気持ちは微塵もないといえただろうか。


 時間とともに食事は頻繁になっていった。


 そして、その時は、やはりきた。

 求められ拒みきれずに、抱かれた―――。恋人がいるままに――。




 罪悪感が当然ながら押し寄せた。しかし大人の男との新しい逢瀬に自分を止めることができなかった。心も肉体も、大人の男を激しく求めていた。背徳感とあいまって自分が少しだけ大人になったように思えた。


 

 次第に大学生の彼との日々の電話や週末のデートに、おざなりな態度を隠せなくなり、会うたび険悪なムードが漂った。

 わかっている、原因は自分にある。裏切っているのは自分だ。彼には何の落ち度も罪もない。



 変わりゆく私にとまどいと苛立ちを感じたであろう彼は、それでもやさしかった。理由も言わないまま不機嫌そうに黙り込む私のそばに寄り添ってくれた。


 やがてその状態に、その彼のやさしさに、自分が耐えられなくなった。

 

 だから、ある日のデートの帰り際、ぽつりと言った。

 「ごめん……好きな人ができたの。もう会えない……」と――。

 

 

「納得できない、俺は別れたくない」という彼に、何も言えず泣いた。つくづく卑怯だと思いながら泣いた。泣きたいのは彼の方だったろう。



 何度も彼から電話がかかってきた。出なかった。


 一度だけ、会社帰りに待ち伏せされた事があった。

「ちゃんと話そう」と言う彼に、ついに私は抜き身の刃のような言葉を投げつけた。

「……私は、寝たの……もう何度も」



 立ち尽くす彼を置き去りにして、足早に歩いた。罪悪感と自己嫌悪から逃れるように――。



 彼は追ってはこなかった――。


 電話がかかってくる事も、二度となかった――。



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