第1話


 ―――男とは高校の同級生だった。女は懐かしむように思い返す。



 共に周囲から「付き合ってるんでしょ、付き合いなよ」と囃し立てられる微妙な関係が長く続いた。憎からず想い合っているのは互いにわかっていた。


 抑えきれない想いが形になったのは、卒業も間近に控えたころだった。周りは「今ごろか」と、笑いながらも祝福してくれた。


 彼は大学に、私は短大に進んだ。

 

 微妙な関係をとっぱらい、晴れて恋人となった私たちは、それまでの時間を取り返すかのように、いつも一緒にいた。

 もう好きという気持ちを隠す必要も、会うための理由を探す必要もなかった。

 好きな人に会いたいから会おうと言える――それが何より、うれしかった。



 心が通い合ったなら、やがて若さのままに互いの体を求め合った。どこからどこまでが自分の体なのか、その境界線があいまいになってしまうほどに溶け合った。


 大人ではなく子供でもない――そんな人生のほんの僅かなあいだ持ち得る幻のような時を――二人で慈しむように分け合った。


 二年の歳月が瞬くまに過ぎ、私は短大を卒業し彼より一足早く社会に出た。



 


 ―――周りは急に大人の男だらけになった。入社して間もない頃、まるであいさつのように上司や先輩たちに「恋人はいるの?」と聞かれた。

 まだそんな軽口が普通に受け入れられている時代だった。


 「います。大学生です」と臆することなく答えた。彼との恋は自分の誇りだったから。

 

 なのに皆、口をそろえるように「ああ……それは別れるね」と言った。

 なぜ皆がそう言うのか、わからなかった。この胸から手にとって確かめられると思うほどに熱いかたまりが揺ぎ無く存在しているのに……と、ひとり不服に思った。



 右も左もわからない日々は、慌しく過ぎていった――。

 


 その中で、熱いかたまりの温度が微かに下がり、時折ゆらりと揺れているかもしれないと思ったのは、半年ほど経った頃だった――。

 





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