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 予想通り、公園の一角はテレビでよく見るような青いブルーシートで封鎖されていた。見張り番の警察官が何故か見当たらないので、僕は堂々とシャッターを切る。レアショットだ。

 数日ぶりにベンチに座り、水筒のお茶を飲もうとしたとき、ブルーシートの前に佇む人影に気づいた。

 それは男だった。30代くらいで、何故か白衣を着ている。その横顔には見覚えがあり、首を傾げた。ここ数年くらい、あんなオジサンと触れ合った機会がないんだけれどな、僕。

 僕が彼に気づいたのと同時に、彼もこちらを認識したらしい。僕に目線を寄越すと、ほんの少し目を見開いて……げっ。こちらへ歩いてくる。精悍な顔立ちには、やはり見覚えがあった。


「……えっと、どうも」


 とりあえず、無難に挨拶をしておく。もしかしたら、ご近所さんだったのかもしれない。姉みたいにいい子な人間ではないけれど、挨拶ぐらいはしておかなければ、僕の評判はさらに地に落ちてしまう。


「どうも。君は……この間、母の葬儀に来てくれた子だね」

「……ああ」


 その言葉で、僕は彼が誰なのか思い出した。駄菓子屋のお婆ちゃんのお葬式のときに、喪主を務めていた人だ。


「この度は、ご愁傷様でした」

「いやいや……」


 困ったように首を振る彼に、そういえば僕も、この言葉を言われまくる日が来るのだろうな、と思った。ご愁傷様、だなんて。聞き飽きて聞き飽きて、タコになってしまいそうだ。


「あなたは、どうしてここへ?」

「いや、ここで白骨遺体が発見されたと聞いてね。君はこの辺の子かな。誰の遺体だったか知っているかい?」


 柔和な笑みがどこか花依さんに似ているな、と思いつつ、僕は知らない、と答えた。嘘だ。遺体は僕が発見したし、それが誰だったのかも知っている。


「そっか……ありがとう」


 一瞬眉を顰めた彼だったけれども、またすぐに笑顔に戻った。まるで、笑うことを強制されているかのようだった。


「僕、もう行きますね。家で母が待っているので」


 なんだか僕は今日、嘘しか言っていないような気がするなぁ、と思いつつも、ベンチから立ち上がった。


「ところであなたのお名前は何ですか?」


 こんな時間からこんな場所にいるということは、もしかしたら彼は犯人なのかもしれない。後で警察なんかに事情聴取されたときなんかに困るので、僕は彼の名前を聞いておくことにした。


「俺? 俺の名前は、金村 賢木」


 そうですかではさよなら、と踵を返し、僕は歩き出す。

 金村 賢木、かねむら さかき、かね さか、金、魚。


「嗚呼、なるほど。金魚か」


 後ろから息を呑むような音が聞こえたけれど、僕は振り返らず、公園を出る。彼は追いかけては来なかった。

 人魚、雨蛙、金魚。かっこ空蝉、かっことじる。

 彼もまた、6年前に関わっているのだろうか。僕はそれを知りたいとも思うし、知りたくないとも思う。

 何故ならば、真実は酷くうつくしく、ときに酷くおそろしいものであるからだ。

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