7
予想通り、公園の一角はテレビでよく見るような青いブルーシートで封鎖されていた。見張り番の警察官が何故か見当たらないので、僕は堂々とシャッターを切る。レアショットだ。
数日ぶりにベンチに座り、水筒のお茶を飲もうとしたとき、ブルーシートの前に佇む人影に気づいた。
それは男だった。30代くらいで、何故か白衣を着ている。その横顔には見覚えがあり、首を傾げた。ここ数年くらい、あんなオジサンと触れ合った機会がないんだけれどな、僕。
僕が彼に気づいたのと同時に、彼もこちらを認識したらしい。僕に目線を寄越すと、ほんの少し目を見開いて……げっ。こちらへ歩いてくる。精悍な顔立ちには、やはり見覚えがあった。
「……えっと、どうも」
とりあえず、無難に挨拶をしておく。もしかしたら、ご近所さんだったのかもしれない。姉みたいにいい子な人間ではないけれど、挨拶ぐらいはしておかなければ、僕の評判はさらに地に落ちてしまう。
「どうも。君は……この間、母の葬儀に来てくれた子だね」
「……ああ」
その言葉で、僕は彼が誰なのか思い出した。駄菓子屋のお婆ちゃんのお葬式のときに、喪主を務めていた人だ。
「この度は、ご愁傷様でした」
「いやいや……」
困ったように首を振る彼に、そういえば僕も、この言葉を言われまくる日が来るのだろうな、と思った。ご愁傷様、だなんて。聞き飽きて聞き飽きて、タコになってしまいそうだ。
「あなたは、どうしてここへ?」
「いや、ここで白骨遺体が発見されたと聞いてね。君はこの辺の子かな。誰の遺体だったか知っているかい?」
柔和な笑みがどこか花依さんに似ているな、と思いつつ、僕は知らない、と答えた。嘘だ。遺体は僕が発見したし、それが誰だったのかも知っている。
「そっか……ありがとう」
一瞬眉を顰めた彼だったけれども、またすぐに笑顔に戻った。まるで、笑うことを強制されているかのようだった。
「僕、もう行きますね。家で母が待っているので」
なんだか僕は今日、嘘しか言っていないような気がするなぁ、と思いつつも、ベンチから立ち上がった。
「ところであなたのお名前は何ですか?」
こんな時間からこんな場所にいるということは、もしかしたら彼は犯人なのかもしれない。後で警察なんかに事情聴取されたときなんかに困るので、僕は彼の名前を聞いておくことにした。
「俺? 俺の名前は、金村 賢木」
そうですかではさよなら、と踵を返し、僕は歩き出す。
金村 賢木、かねむら さかき、かね さか、金、魚。
「嗚呼、なるほど。金魚か」
後ろから息を呑むような音が聞こえたけれど、僕は振り返らず、公園を出る。彼は追いかけては来なかった。
人魚、雨蛙、金魚。かっこ空蝉、かっことじる。
彼もまた、6年前に関わっているのだろうか。僕はそれを知りたいとも思うし、知りたくないとも思う。
何故ならば、真実は酷くうつくしく、ときに酷くおそろしいものであるからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます