尾行
『お母さん・・・・お母さん!いないの?!も~・・・・』
翌日、ユミちゃんがやって来たが、生憎、お義母さんは出かけていた。
『しょうがないか。』
呟いて、ユミちゃんが出ていく気配がした。
私もあわてて、ユミちゃんの後を追う。
気付かれないように、距離をおいて。
もし、浮気だったら・・・・
そう考えると、ユミちゃんと一緒に行く気にはなれなかったから。
ケイタさんの単身赴任先は、電車で2時間ほどの所。
隔週ごとには私も通っていたから、行き方はよくわかっている。
偶に、ケイタさんがバイクでお迎えに来てくれたこともあったけど、最近は仕事が忙しいせいか、久しくお迎えには来てくれていない。ここずっと、私は専ら電車で通っていた。
「ユミ!」
駅に着くと、ケイタさんがユミちゃんを迎えに来ていた。
どうやら、ユミちゃんは事前にケイタさんに連絡を入れていたらしい。
「お兄ちゃんっ。」
ユミちゃんが、慌てたようにあたりを見回しながら、ケイタさんに駆け寄る。
「恥ずかしいから、大声で名前呼ばないで!」
ごめんごめん、と。
それほど悪びれた様子もなく謝りながら、ケイタさんは言った。
「本当はバイクで迎えに来ようと思ったんだけど、おかしいんだよ。契約してた駐車場に、知らないバイクがあってさ。管理会社に連絡したら、契約は解除されてるって。俺のバイク、どこ行ったんだろう?」
盗難届出さないとな。
独り言のように呟いたケイタさんを、ユミちゃんは悲しそうな顔で見ていた。
無理もない。
ユミちゃんは、ケイタさんのバイクの後ろに乗るのが大好きだったから。
今日もきっと、楽しみにしていたんだと思う。
「だから、悪いな。今日は歩きだ。」
「うん。」
悲しい目をしたまま、それでもユミちゃんは頷いて笑った。
『お兄ちゃんっ、玄関の靴整理した方がいいって言ったのに、全然やってないじゃんっ!』
距離をおきながらケイタさんとユミちゃんの後をつけて行き、玄関前に着いた時、中からそんな声が聞こえてきた。
少しだけ風水をかじっていたユミちゃん曰く
【玄関には、住んでいる人の人数以上の靴を置いてはいけない】
そうだ。
玄関から2人の気配が消えたのを確認し、静かに中に入ると、そこにはケイタさんの靴が2足と、私が来た時用のサンダルが1足置いてある。
ユミちゃんが言っているのは、ケイタさんの靴のことだろう。
【使っていない靴は、ちゃんとしまいなさい】と。
なかなか厳しい妹だ。
感心しながら、私はそっと家の中へ足を踏み入れた。
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