第2話 接触
「ドランク……?」
「ああ、酔っ払いってのが名前だ。おもしれえだろう」
そう言うと、男、ドランクはニヤッと笑った。
だが詩子は、何を言ってるのといった顔。
「で、翔太くん。ちょっとお願いがあるんだがいいかな」
向き直り翔太に話しかけるドランク。
大きな身体で見下ろされ、翔太は怯えた表情をみせた。
「実はな、おじさんの夢を叶えるのに翔太くんが必要なんだ。一緒についてきてくれ」
声だけ聞くと大雑把で陽気なおじさんのセリフだが、その目の奥は威圧的な何かがあった。
「い、いやだよ……」
少々震えながらも、はっきりと断る翔太。
「ああ、そうかそうか。分かってくれたか。さすが男の子だ。早速、行こう」
聞こえてなかったのかと疑いたくなることを言いながら、ドランクは翔太の手を掴んだ。
「ちょっと、何を言って────」
阻止しようとする詩子の手を阻止する手があった。
詩子にぶつかった、スーツ姿の女だった。
後ろから抱きしめるような形で、詩子を拘束し、口を塞いだ。
「……!」
「姉ちゃん」
握っていた詩子の手がすり抜け、翔太はドランクに引き寄せられた。
「なーに、恐いと思うのは今だけだ。あとは眠り続けてればいい」
そう言って左側のロングコートを開くと、そのままそこへ翔太を入れようとした。
「ダメ!」
もがき叫ぶと同時に、詩子は右足を勢い良く振ってスニーカーを飛ばした。
「が……」
強烈な一撃はドランクの顔面にヒット。
思わず被弾部に手を当てる。
詩子はその足を女の足に絡ませ、一緒に転倒。
その拘束から逃れた。
女は倒れたままだが、詩子は素早く起き上がった。
「翔太!」
「姉ちゃん!」
呼び合い、翔太に駆け寄る詩子。
だが、その接近を阻む大きな壁が現れた。
「だー、本当は手荒な事はしたかなかったんだが────」
するとドランクは詩子の頭を鷲づかみにすると、そのまま放り投げた。
手足をだらりと下げた力ない人形のような格好で、詩子は三メートルほど先のビルに叩きつけられた。
当然、ビルはコンクリート製であり、その強度は人間を上回る。
詩子は頭から激しく打ちつけ、跳ね返されるようにして路面に倒れた。
うつぶせになったまま、ピクリとも動かず、頭から真っ赤な血が流れていく。
「ね、姉ちゃん! 姉ちゃん!」
助けに行こうとする翔太。
しかしドランクの手がそれを許さない。
「大丈夫、死にやしねえって」
「姉ちゃん!」
「いいから、お前は俺とくるんだ」
グイッと引き寄せ、半泣きの翔太に向かって言うドランク。
「いやだよ、離せよ、姉ちゃん!」
だが、翔太は必死に抵抗し、姉の元へ行こうとした。
「はいはい。お前は────」
言いかけて、ドランクは大きな力の高まりを感じた。
そちらを見やると、そこには詩子がいた。
変わらぬ姿勢の詩子。
だが、うっすらと黒いオーラのようなものがあった。
意識と無意識の狭間。
そのなかにあって、詩子は情報空間にある人類の記憶に触れていた。
それも戦いに関する記憶を。
有史以前より人類が行ってきた戦いの全てが詩子の魂に入っていく。
拳を振って殴り、足を振って蹴る。
木の棒を持って振り回し打つ。
剣を持って斬り、槍を持って突く。
弓を持って矢を射る。
小刀で裂き、刺す。
関節を固め、折る。
火薬、砲弾、撃つ、
時代とともに道具を使い、技術が向上していく。
戦うのに人種や時代は関係ない。
記憶のなかにある人々の表情には覚悟があった。
何かを得るために、誰かを守るために。
そのために人類は戦ってきた!
「離し……、なさい……」
かすかに聞き取れる程度の小さな声。
そして詩子は、ゆっくと立ち上がった
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