一人
瀬川
一人
「どーもー。こんにちは。ゆーゆー心霊チャンネルへようこそ。さっそくなんですけど、今日は日本最恐の心霊スポットに来ていまーす。しかもですね……俺一人で!」
俺は自撮り棒の先にあるスマホのカメラに向かって、大げさに話始める。
こちら側に画面が向いているスマホには、この放送を見てくれている人からのコメントが流れていた。
大体が挨拶か気にする必要のないものばかりなので、反応は返さずさらに話を続けた。
心霊系の動画配信チャンネルを開設してから半年が経ち、すでに何本か動画も投稿しているのだけど、未だに再生数もチャンネル登録者数も伸びていない。
仕事が全く長続きせず、これで楽に稼ごうと思っていただけに、完全に切羽詰まっていた。
このままじゃ収入にならない。
そう思って考えに考えて、生放送をすることにした。
有名な心霊スポットでソロ肝試し。
ここで何かが起きれば、話題をかっさらうことが出来る。
俺には勝算があった。
「ここはですね。昔に軍の実験施設があったみたいで、人が山ほど死んだらしいんですよ! だから恨みを持った霊が、夜な夜なここに来た人を仲間に引きずりこもうとしているという噂です! 今日、俺もその仲間になるかも!」
中に入る前に軽く紹介をして、そして早速肝試しを開始する。
明かりは懐中電灯一つで、廃墟となった建物の中を照らせば、だいぶ雰囲気があった。
床にあるガラス片を踏まないように気をつけながら、俺は廊下を進んでいった。
「中はだいぶ寒いですね。埃っぽいし。そして何よりも、落ちているものがヤバくないですか!? これとかメスですよね! 怖すぎ!」
所々に落ちているものをカメラで撮り、そのまま歩いているとコメント欄が急に多くなった。
流れるコメントを読めば、俺の後ろに誰かが通ったとか、人影が見えるとか、そういった内容のものばかりだった。
「人影? そんなものいるわけないですよ! 誰もいないし、音もまーったく聞こえません! 俺を怖がらせようとしたって、そうはいかないですから!」
コメントの帰った方がいいという忠告を無視して進み、俺はお目当ての場所で止まった。
「ここ、ここで実験が行われていたみたいなので、入ってみようと思います」
軋むような音を立てて空いた扉の先には、ベッドが何台も置かれている。
ゆっくりと部屋の真ん中まで行くと、俺は画面を見た。
「どうですか? 何もいないでしょ」
すでにコメントは、同じ言葉で埋まっている。
後ろに何かいる
俺は視聴者数を見て、そしてもう耐えられなくなってしまった。
「後ろに何かいるって言っている人達、ネタばらししまーす! 実は今日、色々な人に協力してもらって、幽霊のフリをしてもらっていたんですよ! 驚かせちゃってごめんなさいねー。な、みんな」
俺の言葉を合図にして、周りに協力者が集まる。
今日の放送では、最初から仕込みをするつもりだった。
炎上するかもしれないけど、逆にそうすれば俺の動画を見る人が増える。
俺の思惑通り、いつも以上にたくさんの人が見てくれた。
ネタばらしを終えた俺は、罵倒の言葉で埋まっているだろう画面をもう一度見る。
「……は?」
しかしそこには、俺が思っていたのとは全く違う言葉で溢れていた。
誰もいない
俺はずっと一人で映っている、と。
そんなことはありえない。
それなら、今俺の周りにいる大勢の人間はなんだと言うのか。
俺は画面を見つめながら、顔を動かすことが出来なかった。
「誰か……」
肩に置かれた手は、驚くぐらい温度を感じられない。
そして、放送は暗転して終わった。
一人 瀬川 @segawa08
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