第十九話 新たな戦友

 ーー、ヤバい、心臓に刺さる。

 

 彼がナイフによる死を覚悟しかけた時のこと、予想外の出来事が起きた。なんと、ジェボールの方に飛んできたナイフを、誰かが掴んだのである。その手は、綺麗な手をしていた。

 澄んだ肌の色をしているから、二次元的理論でいくときっと美しい顔面の人なんだろうなーーそんな期待を込めて、ジェボールは、その人の顔を見た。

 その人は、女の人だった。目に涙を浮かべるまいと、必死に耐えていた。ナイフの肢を掴んで、手からぽたぽたと血を滴らせていた。赤い血が、痛々しく彼の目に突き刺さった。


「あああああああ、ありがとうございます。だけど、痛い目にあってでも、俺を助けてくれるなんてどうしてそんなことをするんですか?」


「あたしのことを話している暇なんてない。あのいかれた野郎をあたしと一緒にどうにかしましょう。わかりましたか」


 女の人は、血の流れた痛みに耐えるように深呼吸をたくさんした。しかし、そのザマが他のたくさんのものに対する恐怖を表しているように感じられた。

 女の人は、ナイフの刃を痛そうに持った。


「あたしの名前はスイリューム。戦える女の子。ーーこれだけででいいのよ、さぁ戦いましょう。あいつを倒す」


 スイリュームは、ナイフをその手から話した。ナイフは彼女の真下に爽やかな金属音を立てながら落下した。

 スイリュームの手は、なおも痛々しい血が滴っており、それが見るたびにジェボールにダメージを与えた。スイリュームは手を口元に持ってきた。と思うと、その短い舌でぺろり、とその血を舐めた。幸い血の流れは止まり、ジェボールにもいいようにはなった。

 スイリュームは、ニィッとした笑顔で、ジェボールの顔を見た。


「あたしは、あんたを殺す。殺さなきゃ、みんな解放されない。あなたが生きている限り、みんな催眠が自然とかかって、あなたの奴隷とか下僕として生きていくしかないんだから。だから、みんなを解放するために」


「バカ言うな。僕を殺すのは、この男だって躊躇ったんだ。さっきはキャッチできていたとしても、次はそのナイフでしっかりと死ぬ。だから諦めろ」


 ケルセウスは持っていたナイフの刃先をジェボールからスイリュームの方へと変えていく。ナイフは、鈍く日光に反射し、眩しい。

 スイリュームは、ナイフを受けるために手のひらを開く。


「やめて!」


 ジェボールは必死に叫んで、スイリュームがナイフをキャッチしようとするのを防ごうとした。しかし、ダメだった。

「て」と言った瞬間、容赦無くナイフがスイリュームの方へ飛んでくる。開いた手のひらは、ナイフの肢が飛んでくるであろう位置に体ごと移動し、キャッチする。手のひらを再び開くと、今度は痛々しい血は見られなかった。

 ケルセウスは、ナイフを握ると、次々とたくさんのナイフを投げ続ける。キャッチし切れないと判断したのか、スイリュームはひたすら飛んだり移動したするなどして避けた。ナイフは、それでも無限に無情に襲いかかってくる。

 スイリュームは、ナイフを避け続けたが、避け切れないものは手でキャッチする。そして、ナイフを投げ返した。


 ーー俺も。


 きゅうんと、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。一生懸命戦ってくれているスイリュームの姿が、目に焼き付いたからだ。


 ーー俺も、やらなくちゃ。


「加勢するよ!」


 勇気を振り絞って、言った。とてつもない戦いになるだろう。だからこそ、スイリュームを一人にさせたくない。

 手のひらを上に向け、炎を生み出す。


「電炎 出でよ」


 と唱えると、いかづちの炎が手のひらに現れる。炎はいきなり青い高温の炎だった。とそしてその高温の炎をしばらく手の上で生成し続けた。

 一秒、二秒、三秒……。時だ立つほどに肥大化しゆく熱い赤き球体は、手のひらのサイズを超えても、なおも大きくなり続ける。

 やがて大きな青い炎の玉が完成する。ジェボールは、ケルセウスに照準を合わせようとするが、ダメだった。浮いているし、ふらふらと規則性のある揺れを刻み込んでいるので、襲撃は難しいだろう。こんなに大きくした球を、無駄打ちにしたくはなかった。

 無駄打ちにしない方法。一つだけが、ジェボールの頭に浮かんだ。それは、自分で高くジャンプして、近づき、直接奴に打ち込む。

 早速実践するために、ケルセウスの真下に行き、飛ぶ。思いのほか高く飛べたが、ギリギリ心臓には届いていない。


「関係ない。どうだ!」


 火球に包まれた手で、日のパンチをお見舞いするジェボール。どちらかというと、相手はその気迫に驚いたような反応をした。

 今度は確かにケルセウスの小指に着火させることができたことを確認すると、滞空中ずっと火球を放ち、ケルセウスを焦げクズにしようと目論む。

 ケルセウスの顔色が、少し曇った。


「あなたたちはいい関係になりましたね、早いものです。熱い球といえど、打撃といえど、言うことなしですよ」


「はぁ? 俺は別にテメェに教わったことなんざ微塵子たりともねぇよ。なに自分の教え子を見るような目で見てんだよ」


 ジェボールも必死に煽った。


「でももう一人は例外ですよ、スイリューム」


 は? どういうこと?

 頭が混乱しそうだ。そして横では、


「嫌だやめて怖い殺される死にたくない殺したくないイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ……」


 スイイリュームが呪文のように呟いていた。

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