第十四話 ケルセウスとジェボール

 ジェボールは、そこそこカジノとか賭け事が上手い方だと思っていた。なぜなら、前世の多敷修太だった際も、母方の実家にあった麻雀台でした麻雀で実際にお金をかけたことが何度かあったが、参加した皆の掛け金を全てにおいて独占した思い出が存在するからである。勝負運も強いと思っているのも、この出来事が起因している。


 彼はその持ち前の強い勝負運(?)をフル活用させ、さらに互換も働かせて、首謀者のいる場所を探しながらひたすら歩き続けていた。戦禍の中。とても色々な音があって、冷静になれるとは言えない。特に先程避けたナイフが、あの男の腹に刺さったこと。

 生きていることと死んでいることの二択がある。

 もし死んでいたら、ジェボールが殺してしまったと言うことにも、実質的にはなりかねない。


 ジェホールは、ここでも勝負運の強さの自覚により、生きているに賭けた。賭け金は、俺の命。ーーそんなところで、まあいいだろう。


 しばらく歩いていると、静かな場所に着いた。先程の舞台不死鳥の間とは大違いの静寂を持っている。

 彼はそこに一人の男性の姿を認めた。ナイフを握っていて、金色の綺麗な髪をしている。


「あの、こんにちは」


 こいつの気に障らないように、恐る恐る優しめに声をかけてみる。すると、相手の方も、


「はい。こんにちは」


 なんと気に障っているどころか、笑顔でこちらに返してきたのである。金色の透き通るように輝く神が、振り返ったり移動したりするたびに揺れる。

 今度は、相手から話しかけてきた。


「いや、今日は僕たちにとっていい日になりそうですよ。なぜなら、今日があなたの命日、僕にとっては強敵ジェボール王子殺害記念日になりますからね」


「てことは、殺す気ですか。俺のことを殺して、どうする?」


 怒りをあらわにした顔で、男に迫りゆくジェボール。ジェボールに胸ぐらを掴まれると、彼はゆっくりと優しく手でジェボールを制した。

 優しくも力強い。やんわり笑顔なのが、また不気味だ。


「まぁまぁ落ち着いて。あなたの名を、僕だけが知っているのは不公平です。ですから、僕も名乗らせていただきますね」


 言葉を止め、深呼吸すると、口を開いて言った。


「僕の名前はケルセウス・テリミウムです。暫しよろしくね。まぁ戦うことぐらいしか一緒に付き合うことはないけれどね」


「ご親切にありがとよ」


 ジェボールはムズムズし続けながらその話を聞いていた。

 そして、話が終わったとわかる途端、ケルセウスと名乗った男の方へ歩み寄り、彼の腕(限りなく型に近い位置)を両手で握り、背負うような体制を取った。

 柔道の経験も生前にあった。しかし、しばらくやっていなかった。なので、あの頃のように上手いこと行くかわからないが。それでも、せめてもの一撃を奴に食らわせようとする。

 ーー背負い投げっっ……!


 投げようという体制を取った時、


「ちょっと待ってくださいよ。僕ら、初対面ですよ。なのにそれは……」


「初対面にして殺意をあらわにしたのはどっちだった」


 その勢いにやられ、流石に言い返す言葉を無くしたケルセウスは、指を一本立てて、提案した。


「明日、お互いがタイマンで戦う、というのはどうですか。そしたら、条件も公平だと言えるでしょうし、もっと力強く戦えるでしょう」


「あんたを殺すのは」


「構いませんよ、別に」


 ケルセウスは、微笑みを浮かべた。そして、手を前へ出す。


「変に警戒しなくってもいいですよ。あなたを殺すのは、明日ですから、今日くらいはのほほんと過ごしておいてください。まぁできるかはわかんないけど」


 狂気じみた言葉に、心臓が異常な鼓動を返した。

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