第十三話 戦禍

「俺は、やるべきことを決めたよ」


「やるべきこと、ですと」


 ジェボールは戦果の中大いなる決断をし、一同は戦禍の中、驚きをあらわにした。

 ジェボールは驚いているその面々を見回しながら、言った。


「この事件には、首謀者がいる。その首謀者にあって、これ以上無駄な争いをやめろ、という感じに平和的に話し合いで解決する。ーーこれは理想論だけど」


 尚も戦いは行われている。カルデアと、承認を得ていないヴォレリアが、敵の盗賊たちを次々と迎え撃つ。ヴォレリアの剣技に、敵は魅了されているようにも見えた。

 ジェボールは、戦いの中でつぶやく。


「じゃあね、また」


 向こうへ行こうとしたその時ーー


 ヒュン!


 という空気を盛んと言わんばかりに鋭い音が彼の耳元で響いた。つづいて、何かの生生しい音が、大きく鳴った。

 向こう側には、腹部にナイフが刺さっている男性が見えた。


「このナイフーー」


「あんたが避けたものよ。生きてはいるけれど、いつ死ぬかわからない、っていうそんなところかしら」


 ミネルバの、いつもは明るい言葉の調子が、今日はやや落ち込んでいるように感じられた。そして、向こうにいた男性を殺しかけてしまったという罪悪感も、重くのしかかった。

 シェボールは、冷静さを失いかけて、叫んだ。


「ミネルバさん、この男性を緊急で治療することはできるか。できるなら死なないくらいまで回復させてくれ。死んだら俺の責任なんだ」


 そしてクルリと迎撃を続けているカルデアたちにも告げた。


「二人は、市民たちを狙わせないように、殺さない程度に痛みつけておいてくれ。せいぜい諦めて『覚えてろ〜』ってなるくらいまでがいい」


「承知いたしました」


 カルデアは、戦いながらもなおも頭を使っていた。どのように人々を非難させるか、とかどのようにこいつらを峰打ちにしてやろうか、とか色々なことを考えるのに。

 一方ヴォレリアは戦うことで精一杯である。幼い頃には剣技の天才と謳われたのだが、昔の話である。今はもっと上手い奴がいるだろう。

 王子が立ち去り、ミネルバが男性の治療に向かった後も、攻撃は続く。迎え撃ちながらも、話す余裕は二人にはあった。


「なぁヴォレリア、こいつらは、王子も狙ってるかもなんだぜ」


 カルデアはその余裕を活用し、作戦会議の時間みたいにしよう、と目論んでいた。ヴォレリアにもわかっていたようである。

 ヴォレリアは口を開いた。


「カルデアさん、あなたが先ほど言ったこと。『王子を狙ってるかも』って、どういうことなのかを教えてください」


「さっきナイフが飛んできて、ミネルバさんが治療している男の腹にナイフが刺さったのが見えたと思う。この男の腹に刺さったナイフは、王子が避けたものなんだよ」


 峰打ちしながら、会話というのは、あながち簡単ではない。手加減して攻撃しているのだが、それでも何度も言う通り手加減しつつもそれなりに痛みつけなければならないのだ。会話にも神経を使うので、集中力を分散させる。これにより、相手に与えるダメージも減少してしまう。

 ヴォレリアは、剣技はあるものの、下手したら殺しかねないことを恐れていた。なので、会話をするので一杯一杯だ。

 ヴォレリアは伝えた。


「あの、カルデアさん。これからは、思考伝導術テレパスで話させていただきます」


「いいよ」


 剣技をしながらでも、思考にならいくらでも巡らすことができる。そう考えて導き出した上での結論なのである。

 ヴォレリアは思考を進める。


『詳しく教えてください』


「うむ、私は見てたよ。王子の方にナイフが飛んできたのを。だからね、王子を人殺しにしないように、ミネルバさんは頑張ってくれている」


『僕らには何が出来ますかね』


 カルデアは考え込む。

 

「そうだな、あれはどうだ」


『あれって、なんですか』


 素朴に、問うた。

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