第十二話 未曾有の天変地異
「王子、なんで食料の配給とかできるかわかんないことを今ここで発表するんですか。無責任な発言で、上は怒っています」
会見の後。
宮殿内に戻ってから、もう嫌というほどに聞かされるセリフである。ジェボールは、歩き回るたびにこのことを問われるので、はっきり言ってうんざりしていた。
そしてそのたびに、てのヒラをひらひら振って、こう答えてきた。
「俺の意見ではありません。王室のヴォレリアの意見を俺が採用しただけですよ」
しかし、こう答えるのもだんだん不味くなってきた。なぜなら、そう答えていることがヴォレリア本人の耳にも入ってしまったからである。
多分さんざん責められるに違いない。
「とりあえず、俺がああいうふうに言った以上、あれを実行しなければならなくなってしまった。協力して、周辺の農家の方々に、見込み以上の農作物があれば分けていただく、とかそういう感じのことをしなきゃなぁ」
自責の念に、押しつぶされそうになっていた。うん、そうだ。確かにヴォレリアの意見をベースにしてアレンジを加えているから、あながち俺の言ったことは間違いではないのだろう、とジェボールは自己暗示をかけ続けた。
しかし、自己暗示というものはかけて了えばかけて了うほど、逆効果というものへと変貌もしてゆくものである。自責の念は消えるどころか、むしろ内心ではその心情が空気ポンプで膨らませている巨大な風船の如く一層大きく膨らみ出す。
どうしよう。この五文字で、彼の脳内は埋め尽くされた。
何度かヤジに聞かれながらも、無事王宮内の自室に戻ることができた。そして、戻ったは戻ったで、とてつもない責任感を背負うことになってしまった。
「はぁ。……どうやってヴォレリアに言い逃れしようかーー」
ドーンと大きくため息を盛大についた。ある意味、これも未曾有の天変地異の一つと言って良いだろう。ソファーは柔らかい。しかし、気持ちを紛らわすほどではなかった。
ともかく、考え事にはこの場所が向いている。それだけは紛れもない事実だ。
「入っていいですか」
ふと、ドアからそんな声が聞こえた。よく聞き分けてみると、この声は、ヴォレリアの声だということがわかった。
ジェボールは、声の主がヴォレリアだとわかった途端、応対する気さえ失せてしまった。言い逃れについて考えていたのに、なんというバッドタイミングだろう。
★
外は、凄惨なことになっていた。盗賊が荒らし回り、殺しまでしようとしている。さっきまで王子初の自発的声明発表現場だった応急前は、今は恐ろしい戦場のようになるという恐るべき変貌を遂げていた。盗賊と人々が入り混じっている。
カルデアは淡々と盗賊を殺さぬ程度に痛みつけている。見つかったら、王子にこっぴどく言われるだろうから。
「殺しまではやめろ。殺しをしたら、私もお前たちを殺してしまうかもしれないんだ。殺されたくないなら、今すぐ退け」
しかし、そう言いながらも痛みつける。ヤイバは、だんだんとカルデアの方に向いているように感じられるようになる。すると、なんとか市民から注意を逸らすことはできたようである。カルデアは、なんとかまた殺さないように迎撃を続ける。
ジェボールは、その場所についた。ミネルバ、ヴォレリアもいた。
「どういう事態だ。変わり樣がイかれていやがる」
「ミネルバさん、ヴォレリア、王子っ……」
迎撃を続けながらも、振り向いてつぶやく。
そのようすをみて、ジェボールは驚いて叫んだ。
「殺してはいないか」
「殺してはいません、全て峰打ちで済ませております」
淡々と述べ続けるカルデア。その大変そうなことを見て、ヴォレリアは言い出した。
「僕も加勢しましょうか」
「いいや、いい。最近はこういう争い事が起きてなくて、私の腕と私の愛刀はもう非常に退屈していましてね。久しぶりですよ、こういう私が活躍できるような楽しい事態はねぇ。運動不足の私にとってはおそらく、いい運動になりますよ、そう思いませんか」
と言いつつも、とても楽しんでいるようには見えない。峰打ちなので、狩っても狩っても襲いかかってくる敵。それをまた峰打ちで返すのだ。殺さないのいうのは、いかに辛いのか。
「でもまあ、市民から注意はそらせた。俺は、やるべきことを決めたよ」
「やるべきこと、ですと」
戦禍の中で、皆は言った。
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