第十一話 声明発出

 会議直後。王都の国民は、皆心を揺らしながら、正午を心待ちにしていた。その時間から、滅多に会見など自ら行わないジェボール王子が、王都全国民に向けて会見を行うことを発表したからである。

 その時を目前にして、ジェボールは王宮外広間不死鳥の間の舞台の裏で、深呼吸をひたすらしていた。スースースースーしてて落ち着かない。セリフの読む練習などもせず、ひたすら息を吸い吐き、吸い吐きしたりするのみである。


「ミネルバさん、どうしようか」


 ジェボールは焦りを大露わにして言った。しかし、時間はこの世界でも、止まることなど断じてないと言って良いであろう。

 ミネルバは余裕の笑みを、その傍で頬に浮かべている。もう彼女は彼女の台本を、すっかり暗記してしまったようである。何もしないで、ただ見ているだけなのだ。

 笑ってみる。ジェボールは煽られたような感覚に陥って、余計脳でタイムリミットの近さあせりというものを感じてしまう。怒りと焦りの入り混じった。

 こうして、(何も特にこれと言ったことは二人ともしないで)午前十一時五十七分三十七秒(現地時間で)がやってくる。あと二分二十三秒で顔出し声明の時間が来ると考えると、その重圧プレッシャーの量は、だんだん尋常ではないものになっていった。

 そして、二分二十三秒というのも短い時間である。王宮内の正午を告げる鐘の音がゴーンゴーンと鈍く響く音を奏でた。つまり、ジェボールの発表の時間はもう始まっているということになるのである。

 舞台裏から、ガチガチに硬く硬直したジェボールが出てくる。


「ジェボール様だよ、」

「あ、王子が出てきた」

「わぁお」


 ジェボールは、マイクの前に立った。


「あー、あー、あー、飴坊赤いなアイウエオ」


 舞台袖から、ミネルバの「テスト済み」という合図が見える。


「えーえー、これは王子からの皆さんへのお願いです。皆さんの家の中に備蓄品がなければ、これから配布いたし、いた、いたs……ぃます」

 

 声は小さくなっていく。しかしマイクは小さな声すら逃さず、ロックオン。拾われた恥ずかしいもぞもぞ声は、国民にまるっきり伝われてしまう。


「わっはははははははははははハハハハハはwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「すすいません。もう一度言います」


 小本という咳払いをして、気合を入れ直す。そして、マイクに向かって、大声を出した。


「皆さんの家に備蓄品がなければ、これから配布いたします。私共王室が、配給いたします。これから未曾有の天変地異の災害が起こる可能性があるかもしれないからです」


「おお〜」

「すげぇよ、王子がしゃべった。話した」

「ヤッベェよ」


 皆、どちらかというとジェボールが喋ったこと自体に驚いたようである。ともあれ、ことがうまくいってよかった、と思った。

   ★


「ニュアンスは一緒だけどさ、俺と一言一句一緒にしてくれよ」


 舞台袖で見ていたヴォレリアは嘆いた。



 食料の配給以前に、天変地異がやってくるとは、まだ皆は知らない。

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