第十話 どんな声明を出すべきか
その会議は、ひっそりと行われた。限られたメンバーのみで、トップシークレット的扱いのものとなっていた。その限られたメンバーというのが、なかなか個性的なのだが。
ジェボール、ミネルバ、カルデア、数人の守衛、そしてヴォレリア。合わせてみても、十人にも足らないような少ないメンバーであった。前の会議に来ていた王室記録隊の方々は、今日はいないようである。
そんな個性派なメンバーの会議だが、今回の司会もヴォレリアがやってくれるらしい。その点について、ジェボールは抱え切れないほどの安心感を覚えた。
「よろしくお願いします。本日の会議は、決して王室外に一言たりとも漏らさないでください。その点を、よろしくお願いします」
というヴォレリアの極めて丁寧な強制によって、トップシークレット会議の幕は開かれたのである。優しさの奥に、どこか不思議な迫力がある。
強制された感じがするのだ。いい感じはしない。言い方は優しいのだが。あくまで。
「今回、われわれを招集して、どのようなことを話そうとしているのでしょうか。まずその点を簡潔にお話いただけますか?」
カルデアが、ヴォレリアのセリフを取った。ヴォレリアはじろりと生ぬるい目でカルデアの方を睨んだ。
そんなのを尻目に、こほんと小さく一つ咳払いしてから、ジェボールはゆっくりと口を開き、ことを言い出そうとしていた。
彼は、周りを一周見回す。
「単刀直入に言わせていただきます。今回、本格的に王都への襲撃を開始するという狼煙が上がりました。それは、確認できる最後の盗賊たちの襲撃の際に上がった狼煙でです」
「なんと……」
その場にいた、ミネルバ以外のものは皆、驚きを表した。その眼にはおそろしいことのようだと言わんばかりに意外性が宿ってあった。
これから話すことを聞いたら、さらにビビるだろう。そんな感じに笑ってみた。
「このことは、実は王都の皆には直前まで伏せておくことにしたいと思います」
「ナンデ、ナンデ、エ?」
「なぜ伏せておくのですか。タチの悪いドッキリとは違うんですよ、このおそろしい事態は。直球で言った方が良いと……」
一人の守衛が、驚きを隠しきれているとはとても言えないような表情で意義を申し出てきた。
ジェボールは、少し腹が立ってきた。伏せていることを、タチの悪いドッキリだと勘違いされたからだ。タチの悪いまではいいものの、ドッキリとまでボロクソに言われると流石に少々の怒りが込み上げてくるものである。
ジェボールは、怒りを隠して、言った。
「詳しい理由をミネルバ氏が話してくれます」
怒っている精神状態ではいつやりかねないかが分からずやばいので、違和感のないように自然とミネルバにここから話すことを託したのである。
ミネルバは予想外の状況に対してジェボールに目をやってから、起立した。そして、その話を始めようとする。
ーーなんで、私に?
不思議そうな表情を話術で覆うことに決めたので、いよいよ話し出す。
「はい。では、タチの悪いドッキリではなく、王都の国民のパニックを防ぐために、あえて伏せているんです、と言ったら怒っちゃいますかね」
怒っちゃいますかね、と言った時、皆は怒りを露わにした。露わにしなくてもいいのに、とジェボールはその傍で何処と無く微笑む。
ミネルバは続ける。
「そこでご相談なんですけれども、国民に対してどのように伝えたら良いと思いますか。なるべく過激ではないものを考えてください」
「あんたらは考えたんですか」
そこでジェボールは立ち上がった。
「僕らが考えても思い浮かばなかったからなんですよ、言えないのは。皆さんを呼んだのは」
その一言の重圧に、皆が真剣に手を組み、考えるポーズを取り出した。
もちろんシェボールとミネルバも考えている。傍観するというのではダメだと、二人は判断したので、自分もなるべく考えてみる。
「では、いいですか」
ふと突然に、ヴォレリアは挙手した。
「ヴォレリア、言ってください」
「では、言います。決して賊徒がいるというわけではなく、災害が起こった時のために、食料を備蓄しておいてほしいです、というのは」
ジェボールは終始無表情で聞いていたが、本心ではとてもこの意見を気に入っていた。その意見が終わった時、ジェボールは叫んだ。
「いいです。決して賊徒がいるというわけではなく、という部分を省けば採用させていただきます」
こうして、ジェボール(精神は2世)の二度目となる会議は幕を閉じた。
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