第八話 虫の知らせ
翌日。慌ただしい音とともに迎えられた、朝。
しかしジェボールは自分の部屋というものを持っているため、そういうのは関係がなかった。外界の音どもをほとんどシャットアウトし、気の向くままに起きることができる。普段の王子とはそういうものなのではないか。
ーーしかし、そんな彼の想像は裏切られる。
「なんだなんだ」
ジェボールは慌ただしい音を聞いて、流石に目が覚めてしまった。ガヤガヤざわざわ、ありとあらゆる声や音が慌てふためいている。
ジェボールは不安であった。
「ねえ何があったの」
ジェボールは近くを通りかかった男に訊ねた。
「ミネルバ様が、ある予感を感じ取ってしまったのですよ、王子」
「ある予感?」
ジェボールはキョトンとした声で言った。
男は続ける。
「ミネルバ様曰く、王室に危険が迫りゆくそうなんだ。どのような危険かは、知らないけれど」
男は淡々と述べると、方角をスラリと変えて、歩いていった。スタスタスタスタと、見捨てられた気分がなぜだろうか感じられる。
ジェボールは男をじっくりと観察した。
ーーあそこは、確か、ミネルバさんの部屋の方向だな。
そして、人並みをうまく利用して、男の後についていくことにした。どのようなことが起きているのかを、調べるためである。
なるべく体を小さくかがめる。そして、ぶつかっても知らんぷりをしておく。
ーーへぇ、カルデアも来てやがらぁ。
しばらく歩いているとカルデアを見つけた。カルデアは何やら焦っているかのような感じである。ミネルバの部屋に立ちはだかり、何かを叫んでいる。
あの顔を見ていると憎たらしくなってくる。
ふと衝動的に、落ちていた小石を手に取ってみた。前世とは違うような感覚である。そしてその小石を、カルデアの頭に向けて投げた。
見事命中。
「いてて、いてぇ」
カルデアは頭を押さえ、よろめくかのような動作をとった。
「危険とは、どういうものですか」
「どう対策すればいいんでしょう」
「俺たちが勝つにはどうしたら?」
「危険というものは、いつくるんですか」
「その規模はどれくらいですか」
いろいろな質問で、聞こえない。ジェボールは、ゆっくりとミネルバの部屋の人混みを避けるように歩くことにした。
そうするために、
「王子が通る」
と叫んでみせた。
すると、皆するすると道を開けていくではないか。
ジェボールは、とんでもない優越感に浸れた。
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