第五話 強面

 コーンスープは美味しかった。美味しさのあまり、量はそんなに食べてはいないものの腹はそれなりに膨れたような感じがした。


「食べましたね。ーーにしても、あんた食に偏りがあるでしょ」


 ぽつりと何気ないかのようにミネルバは言った。


「何、なんであんたが知ってんの、俺の好みのグルメを。もしかして前世がストーカーだったりしたとかぁ」


「違うわよ。まストーカーという点では一緒ね。あんたを殺すためにずぅっと見守っていたもの。でも、なんでチェグロスの作ったものが食べれるのかしら?」


 彼女の顔は、驚くほど単純と言って良かった。言っている内容はやや狂気に満ちていると言っても過言ではなかったのだが、まるで、「なんで飛行機が空を飛ぶの?」かを近くの大人に問う幼稚園児のように、無垢な目をしていた。ただ内容はそんなに単純とはなかったが、自然と怒りは出なかった。

 コーンスープの入った器をベッドの近くにジェボールがおいたのを確認してから、ミネルバは


「では行きましょうか。皆王子を待っている会議室へ」



 会議室を訪れると、不思議な違和感を最初に覚えてしまった。ここは異世界の王都であろう。それなのに、ジェボールが前世を過ごした人間の世界とそう変わらぬ容姿の顔ぶれがずらりと並んでいる。ざっくりいうと、人みたいな姿が、いくつもあるのだ。


「嘘だろ」


「何が嘘ですか。王子。王子の席はこちらですよ」


 あれは確かに不自然極まりない言動だったのかもしれない。この世界で、この世界なりに生活をしている彼らにとっては、あれが普通なのだ。

 文化の違い、というものは、相変わらず恐ろしいものである。あちら側の世界で前世の多敷修太が長いこと経験していた、当たり前という名の常識。それは、この国では通用しないのである。こっちの世界の、常識ではないのだ。


「王子。私たちはあなたを待っていました。あなたがいつ来るかいつ来るかと待ちつつ、会議の内容を考えていました。しかも、王子に対する怒りをじっくりと心の奥へとしまいながら、でそういうことをしていたんですよ。君にはそういうことが想像できるのですか」


「でっ……できませんけど。す……すいませんっ」


 それはまるで、国の王子とは縁のなさそうな尻込みした動作だった。堂々とあるべき人とはイメージし難いポーズだったのである。

 先程の男性は、少し苛立ちを孕んだ表情を見せた。


 ーーなんだよ。俺の境遇を分かってからそういう感じのうざっテェ顔をしろよ。理解してみろよ。それから睨めよ。


 不安と怒りとが、複雑に巧妙に絡み合って、恐ろしい謎の感覚が誕生した。

 男性はジェボールのそれを察してか察してないかなのか、


「とりあえず座ってください。早くことを片付けましょう」


 さっきより優しく声をかけてきてくれた。でも鬱陶しさや苛立ちの匂いは消し切れてはいなかった。


「はい」


 普通に返事をしてから、彼の隣にジェボールは座った。

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