第28会 狂い酒の力と天使の嫉妬

 リーフェが何か紫に輝くラメの入った液体の入った瓶を持っている。


 「リーフェ、何でそんなものを持っているんですか。」


 「ミカエル様は呑んだことありましたよね?」


 ニコニコしながら答えるリーフェにミカエルが渋い顔をする。


 「……もう呑みませんよ、私は。」


 「まぁ、そうでしょうねぇ、とびっきり美味しいですけど副作用がねー。」


 「副作用って?」


 「その人の本音が出ちゃうお酒なのだ!」


 「呑みたくない。」


 「私は呑みた……!」


 その言葉にミカエルが驚いてエクスを引っ張っていく。


 「貴女が呑むようなお酒ではありません!」


 「二十歳過ぎてるのにー! 呑むー!」


 バタン。


 回廊からエクスが引っ張り出されてしまった。


 「ウリエル様は? 呑めます?」


 「何かキラキラしてるラメっぽいのあるけど、何入ってるの?」


 「スピリタスの結晶と思ってもらえれば。」


 「スピリタスって96%のお酒だよね? 辛いの?」


 「逆です、とってもフルーティーで甘いお酒です。

 本当に狂っちゃいそうになるくらい。」


 「騙したらタダじゃ済まないわよ? リーフェ。」


 「本当の事しか言ってませんけど。」


 「ウリエル様、呑まない方が……!」


 「うるさいなぁ、あなたは呑めないんでしょう?

 ヘタレは黙って見てろ。」


 「あー、マジかー……。」


 「クスクス。」


 コクリ。


 ウリエルがコップに注がれた薄紫の液体に口をつける。


 「あっ、甘ーい!

 これ美味しい!

 何よ、アルコール度数殆どないじゃない。

 ところどころピリッとするけど、スピリタスのラメね?」


 「そうですね。」


 「こんなもんで本音が出る?

 バッカみたい!」




 5分後。




 「……ウリエル様?

 何かボーっとしてませんか?」


 「うへへへへ。」


 「ぶっ。

 リーフェ、呑ませたの一杯だけだよね?」


 「そう、一杯だけ。

 このお酒、本当に強いからね。」


 「変な薬入って無いでしょうな?」


 「薬用魔法酒だよ、これ滅茶苦茶高いんだから!」


 「因みにおいくら?」


 「一本で家建つよ。」


 「家……?」


 「しゅらいざりゅ!」


 「噛んでるし。」


 「ひょっと付き合え!」


 「何でございましょ。」


 「空飛べたっけ?」


 「星空のローブありますんで、飛べますね?」


 「せいそーけんまで来い。」


 「はい、リーフェ行ってくる。」


 「いってらっしゃい。」


 キューンと飛んでいくウリエルを追いかける。


 高度が上がったころ、ウリエルが止まる。


 その姿を確認して自分も止まる。


 「うぇぇぇん。」


 「ウリエル様、どうして泣くんですか。」


 「ひょっほみららけでわかっらよ!」


 「ちょっと見ただけで分かったよ?」


 「えくすかりばーに好かれてるれひょ!」


 「エクスですか? 好意は持ってくれてますね。」


 「えくすかりばー、いいなぁ。」


 「ウリエル様?」


 「ねぇ、私ってかわいいと思う?」


 「どうしたんですか、急に。」


 「答えろ! かわいいか、かわいくないか!」


 「可愛い上に美人だと思いますよ?」


 「ほんとー?」


 「エクスはまだ幼いところがありますけど、ウリエル様は大人ですよね?」


 「えっへっへー、そうかぁ、そうかぁ。」


 「これ、ミカエル様が狼狽したって事は覚えてるんだよね……。

 ぶっ殺されないかしら、後で。」


 「そんなことしないわよ。

 ロンギヌスだって元々本気じゃ無かったし。」


 「え? す、すいません! 僕本気で撃っちゃいました。」


 「んー? かっこよかったよー?」

 

 「そ、そうですか?」


 「うんー、うへへへへ。」


 「ウリエル様、ベロンベロンじゃないですか。」


 「だから二人になったんでしょーが、鈍いなぁ。

 ほら、頭撫でろー。」


 「後悔しません?」


 「はーやーくー!」


 「はい、なでりなでり。」


 「えっへっへー、こりゃいいやぁ。」


 「冷徹なウリエル様がここまで乱れるって相当なお酒だな。

 恐ろしい……。

 もしかしてウリエル様がツンデレとかいう奴なだけ?」


 「ほぇ?」


 「いや、ないな。」


 「ねーねー。」


 「はい?」


 「えくすかりばーとはどこまでいったの?」


 「どこも行きませんよ?」


 「場所の事とか思ってない?」


 「そこまでバカじゃありません。

 私、妻帯者ですよ?」


 「夢くらい好きにしてやろーとか思わないの?」


 「好きに出来る夢だからこそ節度を守りたいですね。」


 「かーっ! クソ真面目! つまんねぇなぁ、おい!」


 「酔いすぎですよ、ウリエル様。

 もうちょっと節度を守ってください。」


 「……あっ。」


 「どうしました?」


 「あ、あぅぅ……。 酔いが急に覚めた。」


 「覚えていらっしゃるんですね?」


 「ごめんなさい! 私すっごいはしたなかったよね!?」


 「可愛らしかったですよ?」


 「やーめーろー!」


 「いて、いててて。」


 顔を真っ赤にしながらぺしぺし叩いてくるウリエル様。


 ツンデレだな、うん。


 「降下します? ウリエル様。」


 「あ、あの一つだけ。」


 「なんでしょう?」


 「エクスって言ってたっけ、あの子。」


 「愛称みたいなものです。」


 「……あのさ、率直に聞くんだけど。

 一回しか言わないからよく聞きなさい。」


 「はい。」


 「私とエクスカリバーどっちがスタイルいい?」


 「は!?」


 「リーフェやミカエル様に言ったら殺す。」


 「そうですねー……、どちらも衣装が派手で分からないのが正直な感想ですかね。」


 「あ、そっか。 わたし天使衣装だからスタイル分からないか。」


 「どちらにもどちらの良さがあると思いますよ。

 エクスカリバーは幼さがあってかわいいでしょうし、

 ウリエル様は女性って感じがしますし。

 まぁ妻が一番好きですがね。」


 「ふーん。」


 「ふーんって……。」


 「いいや、リーフェのところに帰ろ。

 殺してやる、リーフェ。」


 「やめてください。

 そもそもお酒の効能は聞かされていたんでしょう。

 理不尽すぎます。」


 「……。」


 「どうしました、ウリエル様。」


 「やっさしーねぇ。」


 「そうですか?」


 「わかった、なんもしない。

 紅茶飲んで帰ろ。」


 「お、そうですか。」


 降下してリーフェに少し文句は言ったけど

 おとなしく紅茶を飲んでいるウリエル様。


 女性の心って難しいね。

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