第41会 明晰夢免許皆伝試験
奥に薄暗い書斎が見える。
お、いるいる。
最近本当におんなじ夢ばかり見るね。
「おーい、リー……っ!」
声をかけようと思ったらそこにいた人が
とんでもない勢いと速度で殴りかかってきた。
片手で受け止める。
「リーフェ!?」
「うーん、今のに反応するかぁ。
気が進まないわねぇ。」
「なになに?」
背を向けた人がキラキラと輝く。
眩しい光が収まると衣装チェンジ。
チャイナドレスだ。
「それ、動きやすい服だよね。」
「そろそろいいと思うのよ。
あなたを弟子にしてしばらく経ったけど
免許皆伝試験をやろうと思ってね。」
「グダグダしてるのはダメなのかい。」
「それもいいんだけど、天界に興味あるんでしょ。
天使に敵視されたら割と厄介よ。」
「その時は逃げればいいのでは。」
「逃げられないと思うわよ?
次元が違うから。」
「夢遮断してここから始めなおすとか。」
「あー、その手があったわね。
まぁいいわ。
一回あなたと手合わせしたかった理由もあるし。」
「最奥の草原に?」
「頑張ったらよもぎ餅出してあげる。」
「あいおー。」
僕はパジャマなのにリーフェはチャイナドレス。
割にこれだけでも不利だと思うんだけどね……。
草原に出た。
「どこまで?」
「出せる全力全部。」
「……うす。」
「じゃ、行くわよ。」
チャイナドレスを着た少女がトントンと右足のつま先を地面にたたくと
目の前から姿が消える。
「後ろ……、正面!」
ガードは間に合った。
しかし攻撃力がありすぎて吹っ飛ぶ。
「よーい……、しょっと!」
「わっ!」
バランスをとって着地した地面をさらに蹴って思いっきり後方に回避。
少女が拳を思いっきり振り抜く。
ヴァン!と大きな風切り音。
その後にバン!と空気が破裂音を奏でて波紋が広がる。
「フェーパ!?」
「今日は殺すわよ!」
「ま、待って待って!」
「あー、もう。」
不服そうな顔をしながらも止まってくれるリーフェ。
「戦いで待ってくれる人なんていないのよ?」
「そもそもリーフェに勝てる要素がない。
やるだけ無駄だと思わないかい。」
「じゃ、最高のヒントを上げましょう。」
「ヒント?」
「リンクルシア・ラブ・ハート。」
「それ、最近完結した僕の小説だけど……、何?」
「如月瞬は誰だっけ!?」
言い切らないうちにリーフェが飛び出す。
成程、やるか。
「六閃、天青(てんせい)。」
拳を振り上げる。
ドーン!と音が走り地響きがする。
当のリーフェは振り下ろしていたようだ。
「威力が浅い!
ウリエル様を喜ばせたほどの威力を出してごらん!」
「非公開設定、ヴァルナーディア!」
「む。」
扇状に広がる鎖の山を見てリーフェが後方へ回避する。
「見えた!
鎖捕縛(ジェイルロック)!」
金属音とともにリーフェが鎖の檻に閉じ込められる。
「……まだ本気じゃないわね。
脱獄(ジェイルブレイク)。」
金属の鎖が割れる。
簡単に逃げられてしまった。
「攻撃が甘い!
死にたいの!?」
「死にたくはないねー。」
「あなたねぇ!」
「……隙あり。」
「きゃっ!」
重苦しい音を立てて後方にいたリーフェに一撃。
「地球人が見えてるはずは……!」
「裏四閃。」
「確か、原作では飛粋(ひすい)だったわね。
威力が低い一撃何て舐められたものだわ!」
「原作通りにすると思ったかい。」
「へ?」
「よいしょー。」
握った拳を思い切り振り抜く。
「四斬、姫粋(ひすい)。」
「っ! 速っ……!」
遠慮なくリーフェにぶち当てると少女が吹っ飛ぶ。
ここで追撃を止める。
「痛ぅっ……! くっ。」
立ち上がったリーフェが膝を曲げる。
と、ここで僕は膝を落とす。
分かっていたとばかりにリーフェがふらふら歩み寄る。
「フェーパを、超速の姫粋で
それも離れていた私に飛粋で飛ばす。
難点は明晰夢がセットじゃないと放てないことかしら。」
「きっつ……!
くらくらする。」
「敵意のある天使に出くわしたらどうするのよ。
一体は相手に出来るでしょうけど数で来られたら無理よ?」
「その時は逃げる。
頑張ったんだよ、リーフェに攻撃を当てるのは辛いんだから。」
「……。」
「リーフェ?」
「うーん。
頑張ったのは間違いないんだけど、そこは褒めてあげられる。
ただ、個人的には天界に行ってほしくないかな。
まぁ……、私の予想が当たるなら
多分あなた、精神的に苦労するわよ。」
「どういう苦労?」
「言わないでおくわ。
やめなさいって言っても興味が勝るでしょうし。」
「待って。
リーフェがそこまで言うなら逆に気になる。
行かないでおこうかな。」
「そう?」
「興味はあるけど……、精神的なっていう部分が引っ掛かった。
身体能力面じゃないって言うのが、一番僕に危険な気がする。」
「……勘ががいいわね。」
「行かなかったら教えてくれる?」
「気持ちが傾いたわね。
じゃあ話しましょう。
あなた、天使に知り合いはいる?」
「え?
ミカエル様とウリエル様。」
「あなたに敵意を向けている天使は?」
「いない……んじゃなかな。」
「そこ。」
「どこ?」
「自覚無いのねぇ。
あなた、不思議と他人を寄せる力があるっぽいのよ。
男女構わず天使が好意を持ったらどうするって思わなかった?」
「あっ……!」
「バカねぇ。」
「やめとく。
ただでさえ天使好きが出てるのに、ここ夢でしょ。
絶対まずい。」
「懸命。」
リーフェがキラキラしたと思うと服をチェンジしてティーセットを出した。
「お。」
「はい、よもぎ餅。」
「まゆーん、まゆーん。
良くのびるお餅です。
好物です。」
「美味しそうに食べるわねぇ……。」
呆れ顔のリーフェ。
試験はどうなんだろうか。
「免許皆伝試験は?」
「不合格。」
「お、そうかぁ。」
「というよりはあなた戦いに向いてないわ。
攻撃を当てるとき、視線が危なくないところを探してる。
優しすぎるんでしょうね。
結果、僅かな遅れが生じて相手に付け入る隙を与えてる。」
「残念とも思わない。
リーフェには見えてたんだね。」
「当たったら当たったで、あっ!って顔してるし。
そもそも戦いの才能がないんでしょうね。
如月瞬はあんなに好戦的だったのに。」
「生き残れない性格だなぁ。」
「だったら、ウリエル様は惹かれないんじゃない?
あの方も結構好戦的な性格をされているからね。
あなたのそこも含めて全部見えてたんじゃない?」
「なるほど……。」
お餅を伸ばしながら、紅茶をいただく太陽の下。
性格が幾重にも災いしていることに気付いた今日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます