第39会 フェイル・プラネイト・アンチグレデネーゼ
奥に薄暗い書斎が見える。
さすがにチャイナドレスじゃ……ん。
どうしたの。
「ん? 来た?」
「どうしてチャイナドレス?」
「あなたの好みじゃない?
いつぞやには制服にしてくれたわね。」
「言うな、言うな。」
「まぁ、理由は分かってるんだけど。
覚えてる?
フェーパ。」
「リーフェクラスだと星が粉々になる
フェイル・プラネイト・アンチグレデネーゼだね。」
「わかってるんでしょ。
私がこういう話題を振るって言うこと。」
「教えてくれるんだ?」
「あなたはいい魔法使いになれると思うからね。」
「嬉しいね。」
「最奥の草原に行きましょ?」
「はいな。」
背のちまっこいリーフェに続いて記憶の回廊を歩んでいく。
奥の扉を開くと、草原だ。
「さて。」
「どきどき。」
「あなたは感覚が鋭敏だから口頭説明でも出来そうね。」
「そう?」
「えぇ。
拳を作って、それを鋼鉄塊と思うこと。
振り抜くときに叩き壊すよりも、内部よりを破裂させることを意識すること。」
「……それだけ?」
「口で言うだけなら簡単よ。
これだけじゃ普通は出来ないんだからね。
あとは、そうね。
ミカエル様にやったみたいに魔力1000倍の明晰夢力を発揮したら
私を吹っ飛ばせるかも、ね。」
「ははぁ。
僕って感情に左右されるからあの時は
彷徨うエシェンディアに感情が触れて出来るかどうか……。
ん?
リーフェに向かって撃つの!?」
「そうよ?」
「星が吹っ飛ぶんでしょ!?」
「1000倍が出ればやっと私を吹っ飛ばせるかも、よ?
あなたには力こそあるけど、使い方がわかってないからね。
正拳突きだってただ真っ直ぐ放てばいいものじゃないのと一緒。
練度が圧倒的に低いのよ。
とはいえ、とはいえよ?
単純に振り回したら暴力では済まないくらいの力はあるの。
ま、あなたは優しいから人間らしい部分しかで試さないんでしょうけど。」
「よくわかってるなぁ。」
「何年付き合ってると思ってるのよ。」
「そうだね。」
「でも簡単に1000倍の魔力なんて出るものじゃないことくらい
私にだってわかってるわ。」
「やってみる。」
「手助けはあって邪魔じゃないでしょう?」
「手助けって……。」
ゆっくりとリーフェの身長が伸びる。
なるほど、エシェンディアを出すのか。
「あ。」
「ん?」
「いけない……、苦しい……!」
「え!?」
苦悶の表情を浮かべるエシェンディア。
「ちょ、ちょうどいいわ。
フェーパで私ごとエシェンディア概念を吹っ飛ばしてくれない?」
「よく考えたね?」
膝をつくエシェンディア。
「早くして……!
昇華したエシェンディアを呼んだのがまずかったかも……!」
「あ。」
悩んでる暇はない。
「はあああああっ!」
草原がざわめき、拳に風が収束していく。
「まだ……、まだ足りない!」
力をためるのに時間がかかっている。
そうこうしているうちにエシェンディアの頬に汗が流れる。
「一発だけだ……。
ぶっつけ本番!
リーフェ、今助ける!
フェイル……、プラネイト……、アンチグレデネーゼェェェ!」
拳をエシェンディアに振り抜く。
思ったより手ごたえがある。
「はっ!」
目の前にいたエシェンディアがいない。
「リーフェ!」
「はぁい。」
「うわっ!?」
後ろから声がして驚いた。
「いたたた……、女の子に手を上げるんだ。
ひどいわねぇ……。」
「ご、ごめん!」
「……そういえばあなたは冗談を真に受ける人だったわね。」
「よかった、エシェンディアは飛んだみたいだね。」
「……疑わなかったの?」
「あんまり疑ってなかった。
ただちょっと焦ったかな。
うん?
嘘だったの!?」
「天界のエシェンディアを呼んだから無理は出たのは事実よ。
ただ、自分でもなんとかは出来たかな?」
「あら。」
「でも1000倍には全然届かなかったわね。
100倍くらい。
さっきのでも出ないとなると、結構難しいのかもしれない。
まぁ、あることが分かってるから提案はしてみたんだけど
そもそも本来人間が出せる力ではないんだけどね。」
「どの辺が通常?」
「さっきの100倍でも大概化け物クラスね。
見てごらん?」
上着をめくるリーフェ。
「ちょっと!?」
「肌なわけないでしょ、えっち。」
「夢だから怖いんだよぅ!」
「あ、そっか。」
「で、何それ。
壊れてるけど。」
「錬成魔法鉄プロテクター。
想定はしてたのよ、ある程度はね。
ただ……、壊れるとは思わなかったわ。」
「あれ? 1000倍出てないのに?」
「出てはいなかった。
1000倍はね。
単純な力は不足してたの。
でもフェーパとしての爆発力が凄かった。
内部破裂力。
これが無かったら大怪我してたわね。
魔法鉄を爆発させるのと直撃じゃ壊す対象が違うからね。
いくら反応させるものとはいえ。」
「な、何も考えてなかった。
ごめん。」
「逆に、考えてほしくなかったわ。
さっきあなたの魔法は練度が低いって言ったけど
フェーパとしては完璧だった。
すっごく上手。
何て言ったらいいのかな。
本気で助けようとしてくれたのね。
優しい、心のこもった丁寧な感情がある一撃だったわ。
……ありがと。」
「あ、いいやや。」
気のせいかリーフェほっぺた赤くない?
突っ込まないけど。
「もう一発撃てそう?
今度は小細工なしに。」
「無理そ……、うん?
撃てそうだね。
明晰夢までは使ってなかったからね。」
「で、あの威力なの?
信じられないわね……。」
「どう撃つんです?」
「撃ち合ってぶつけましょうか。
……あなたが死なないのが分かってるから言ってるんだからね。」
「ちょっと待って。
それ場合によっては夢から追い出されるんじゃない?」
「本気でやれって言ってるのよ。」
「う、うん。」
深呼吸。
右手を拳にして力を籠める。
地響きがする。
だが、振動の質が違う。
震源地が遠い。
これはリーフェのだね。
「久しぶりにやるわね……。」
冗談がない。
本気の顔をしている。
殺されかねない。
目も何もかも笑ってない。
彼女に出会って28年になるけど本気を見るのは初めてだ。
かもしれない、じゃなくて確実に初めて。
「ご、ごめん。
あと少し時間がかかる。」
「いつでもいいから、行けるときに撃ちなさい。」
声が低い。
全身が鳥肌立つ。
本能では逃げろというわけか。
今のリーフェは怖い。
立ち向かうのは勇気ではなく無謀という理性だね。
「……ふぅん。」
ひとつリーフェが息を吐いたと思ったら、
彼女の右手から紫色の稲妻が走る。
「……悪いけど、マジになるわよ。」
星をも破壊する一撃を僕に向ける気か。
「リーフェェェェッ!」
「来なさい!」
弾けるような大爆発音。
衝撃の逃げ場がないのか地面が半球に凹む。
空気が波紋のように動いているのが見える。
雲が消し飛ぶ。
この空間が危ないかもしれない。
「はっ!」
気付いた。
ベッドの上か?
いや、まだ夢だ。
意識が飛んでいたらしい。
拳はリーフェとぶつかり合ったままだ。
「……ふふっ。」
「うん?」
「一応言っておくわよ。
本気だったからね。」
「うん。」
「周りを見なさいよ。
私ばっかり見ててもしょうがないでしょ。」
「あ……、あぁ!?」
直径数十メートルのクレーター。
太陽がまぶしい。
雲がないからだ。
「よくもまぁ、この程度で済んだわね。
この空間を壊さなかった、褒めてあげる。
受けるわけでなく完全に攻勢に出てた。
正解よ。
緩衝したら絶対に負けていた衝撃。」
「リーフェには結果が見えてたんだね。」
「どうしてそう思うの?」
「リーフェには確かに及ばなかったからクレーターができたんだ。
同等か勝っているならこうはならなかったからね。
嬉しいよ。
本気を出してもいい相手になれたんだね。」
「っ。」
記憶の限りではリーフェが面食らってるのは見たことはあるが
意外性を突かれて驚いているのは初めて見るかもしれない。
「……そういう解釈をするのね。
おもしろいわね、あなた。」
「足りなかったかい?」
「……そっちは相変わらず鈍いのね。」
「うん?」
「あぁ、あなたって昼行燈だっけ。
ウリエル様の……。」
「そういうのは言わないほうがいいんですよ。」
「ふふ、残念ね。
あなたは生まれる世界次第では英雄になれたかもしれないのに。」
「どうして?」
「その力があればこの世界で手に入らないものはないでしょうね。」
「いらないね。」
「って言うでしょうね。
あなた奥さんがいないと嫌だとか言うんでしょう?」
「付き合い長いだけあるね、ご名答。
名声に興味がないわけじゃないよ。
でも前提が間違ってるんだよね。」
「ふふっ。」
「何倍くらい出てた?」
「まぁまぁ頑張ってたわよ?
600倍くらいかしらね。
でも600倍だからね。
通常の人間からしたらこれでも相当な化け物。
あなたパンチ力覚えてる?」
「54キロくらい。」
「32400キロね、32.4トン。
爆発力もあるからフェーパだと軽く殴っても大型トレーラーが潰れて吹っ飛んじゃう。」
「具体例出されると怖いって。
1000倍出てたら結果は違ってた?」
「そう思う?
うふふ、1000倍程度じゃ私のほうが圧倒的に上よ。
精霊魔法とは全然違うんだから。」
「そうでなくちゃ。」
「あー、久々に本気出したから疲れちゃったわ。
紅茶淹れましょ。」
「いただいても?」
「一人で飲んでも美味しくないのよねぇ。」
「お邪魔します。」
もともとリーフェに勝てるとは思ってないけど
最強の小さい女の子ってカッコいいと思わない!?
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