第38会 歌とバイク

奥に薄暗い書斎が見える。

いつものように一人のようだが今日は雰囲気が違う。


「~~♪」


歌っている。

珍しい。

長いこと付き合いがあるけどこんなことはなかった。


「っ。

あら、聞いてたの?

いたら言ってくれればいいのに。」


「何の歌?」


「まぁまぁ、座りなさいな。

お茶でも出すから。」


椅子にかけるとリーフェがいつものように紅茶を淹れてくれる。


「21の世界については話した通り。」


「うんうん。」


「……。」


「続き、続き。」


「すっごいワクワクしてて見てて面白いわ。

じらしたいわね。」


「意地悪はやめよう?」


「あはは。

歌詞は聞こえた?」


「あなたと時を超えて、ほら21の世界。

だけ。」


「歌詞の全容としてはー……。」


「わくわく。」


「なんでそんなに目を輝かせてるの?

いじめたい。」


「やめてくれっちゅーに。」


「あはは、さすがにしつこいわね。

ごめんなさい。

歌しとしては、

果てしない この宇宙に

行く 神なる銀河へと

あなたと時を超えて ほら21の世界。」


「リーフェの作詞?

昔からの伝承?」


「私がなんとなーくでつけただけ。」


「21の世界の雰囲気が伝わってくる。

で、旋律はあるの?」


「~~♪」


とある曲にリーフェが歌詞をのせて歌っている。


「はて、歌に聞き覚えがある。

なんだっけ。」


「思い出せたらクッキーをつけてあげる。」


「あれ?

曲名は言えないけど、ひょっとして僕の好きな曲?」


「……夢なのによくわかったわね。」


「そうかそうか、僕が好きだからリーフェに乗ったんだ。

よく歌詞がついたね?」


「私ということはあなたのセンス?」


「僕じゃ無理そう。」


「ま、私も作詞家じゃないから拙いわね。

技術的にはあなたを超えることはないんだし。」


「魔法は僕より上でしょ。」


「想像がつくからでしょうね。

まぁ無いものって想像豊かになるからね。」


「ほうほう。」


追加でいただいたクッキーをサクサクといただく。


「……いつも美味しそうに食べているけど、

味がしないんじゃない?」


「するよ?

覚えている範囲でだけど。」


「覚えている範囲って?」


「いつもくれるこれって満月光のクッキーでしょ。

僕は味覚えてるもん。」


「美味しかったわねぇ。

奥さんに紹介してもらったんだったわね。」


「最近お酒はリーフェって嗜むの?」


「いいえ?

まぁ私の見た目の年齢は12歳だけども

実年齢で言えばとんでもないからね。」


「お酒飲まないのには訳があるとか?」


「そうね。

あなたに酔い方が凄いって言われたからかしら。」


「覚えてるじゃない。」


「覚えているからこそよ。」


「なるほど。」


「聞いている割にあなたこそお酒飲まないじゃない。」


「運転好きなんで後で運転できなくなるのが嫌で飲まないかな。」


「あぁ。」


すーっと静かに紅茶を飲むリーフェ。


「運転で思い出したわ。」


「なんでしょ。」


「小さいバイクがあるんだけど、乗ってみない?

マイクロコンポって言うんだけど。」


「ひょっとして例の自販機に立てかけてあるあの小さいバイクですか。」


「お値段、驚異の68000円。」


「安すぎて怖いんですけど。」


「50センチ超くらいしかないお遊びのバイクよ。」


「どこで乗るの?

最奥の草原?」


「そうね。」


「……あれって電気?」


「私が小さいバイクに重い機構を乗せると思う?」


「そうなんだよねー。

リーフェってレトロな拘りあるよねー。」


「レトロな拘りじゃなくて……、

あ、レトロな拘りかもしれないわね。」


「なんだいそれは。」


近くに寄ってみると確かに小さなバイク。

バッテリーもついてない。

スタンドもついてない。

小さなフレームだけど夢は大きそう。


「これ、慣らしは済んでるの?」


「飛ばす気?」


「僕、体重結構あるよ。」


「30キロも出ないわよ。

ポコポコ進むのが好きな人向け。

あなたにぴったりだと思わない?」


「なるほどね。」


バイクを持つとバイクというような重量ではないね。

片手では結構重いくらいかな。

押して最奥の草原へ。


「キックスターターとは洒落てますね。」


「好きだと思ってね。」


「これ、クラッチなさそうに見えるんだけど。」


「ないけど?」


「ひねるだけ?」


「スピードも出ないし、1速より上はいらないからね。」


スターターを蹴ってみる。

エンジンがかかった。


「お、一発。

リーフェ乗ってたの?」


「こんなフリフリのスカート着てるのに乗りますか。

想像しなさい。

私が乗ってたら滑稽でしょう?」


「うーん、可愛いと思うけど。」


「そういえばあなたってそういう人だったわね……。」


またがって座り、アクセルをひねってみる。

ブイー……。


「郵便屋さんだ。

1速だけのカブだ。

うへへへ、これ楽しい。」


「気に入ると思ったわ……。」


あちこち走り回ってるとリーフェは

どこからともなくテーブルと椅子を出して紅茶を飲んでいる。


ぷすんぷすん。


「おや、不調。」


「バカ。

ガス欠よ。

どんだけ乗ってたと思ってるのよ。」


「タンクちっちゃー。

リザーブもついていないのかー。

とことん可愛いバイクだね。」


「ある意味実用には向いてないんだけどね。」


「50cc?」


「そんなにないわよ。」


「リーフェが設計したの?」


「魔法でポン。」


「よくこんなこと思いつくね。」


「はて、ここはどこだったかしら。」


「そういうリーフェも変わらないねぇ。」


「私は私よ。」


「あはは。

ろくまんはっせんえーん。」


「……ねぇ。」


「ん?」


「うん、いいわ。

燃料そこにあるから入れてくれない?

乗ってみたいわ。」


「ほいほい。」


タンクのキャップをキュッと開けると、

携行缶から燃料を注ぐ。


「燃料費高そうね。

最近でもガソリン高いからなー。」


「1リットル20円しないけど?」


「何それ。

魔法で錬成でもしてるの?」


「人工石油。」


「ずいぶんリアルな話が出たね……。」


注ぎ終わってタンクの蓋をしめる。


「終わったよー……、お!?」


「なぁに?」


「チャイナドレス……。」


「下はズボンだけどね。」


「めっずらし!

ロングスカートの印象が強いから新鮮。」


「そーぉ?」


苦笑しているリーフェがバイクにまたがる。


ポコポコポコ……。


「自分以外の力で動くって結構新鮮ねぇ。」


そうだそうだ。

そもそも彼女も私も空を飛べるじゃないか。

感想が新鮮だね。


ぷすんぷすん。


「あら、ガス欠だわ。」


しばらく乗っていたリーフェのバイクがガス欠の音を出す。


「結構乗ってたね?」


「自分で言うのもなんだけど、楽しかったわ。」


「やっぱり新鮮?」


「そうねー、便利だわ。」


「電気にして普段の移動をこれにしてみては。」


「いーや。

私、運動は嫌いだけどこういうのに頼るのは好きじゃないの。」


「空間的な?」


「それもあるわね。

壊したりしたら嫌だもの。

あとは何かしらね。

自分の足で動くの好きなのよ。

いつの日かあなた言ってくれたでしょう?

引きずりそうなスカートなのに綺麗に歩くねって。

あれ、結構嬉しかったのよ?」


「あら、そうなの……。」


思ったことを言っただけなんだけれど喜んでくれてたみたい。

でも女性の心ってわっかんないよねぇ。

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