第34会 模倣
奥に薄暗い書斎が見える。
何か変わった機械のようなものも見える。
「あ、来たわね。
よく来るわねー。」
「来なかったら来なかったで文句言うでしょ。」
「そりゃ退屈だからね。」
「で、今夜は何ですか?
なんか変わった機械? が見えますが。」
「アストテイルが残していってね。
あの子発明が得意みたいで、
電気ナマズの石のこと、覚えてる?」
「引っ搔くとすっごい雷のビームを放つ石だね。
ちょっと使い方には癖があったけど。」
「で、その再現品がそこの魔法銃。」
「赤い筒、黄色い銃身、銀の部品がくっついてるね。
赤い筒が一番下にあって、小さい銀の部品を挟んで大きい黄色の銃身が一番上についてる。
それが二つ?」
「そそ。
えーっと、なんだっけ。」
紙を取り出したリーフェが説明書らしきものを眺めている。
「右手と左手にセットするそうよ。」
「ほう。
どう使うんです?」
「赤い筒には魔法薬が充填されてて、銀の部品が撃鉄の役割を持つ。
黄色の銃身には銃弾が装填されてるわ。
夢想弾って書いてあるけど何かしらね。
明晰夢を使えばいいとはあるけど。」
「え? バラバラで撃てるの?」
「今日は許可してあげる。
明晰夢で撃つドリームガン。」
「ほー。」
「持ってくれる?
そんなに重くないらしいんだけど、
ここで撃ったらただじゃすまないからね。」
「最奥の部屋だね、おっけー。」
確かに三段銃は重くなかった。
両手で持って最奥の部屋に行く。
最奥の部屋の扉をリーフェに開けてもらうと草原に出る。
「ショックが凄いと思うんで、星空のローブで緩衝して欲しいって書いてあるわね。」
「意識が分かれるね。
難しいことを言う。」
「アストテイルもあなたには期待しているみたいだからね。」
「やりましょう。
で、どう使うの?」
「魔法薬を黄色の銃身に流す印象、で流れるそうよ。
魔法薬と夢想弾が混じるとエネルギーが発生するから銀色の撃鉄を放つ。
威力は電気ナマズの石の6分の1くらいを想定しているそうよ。」
「あ、ショックの想定がついた。」
「そう?
撃ってみてくれる?」
服がバタバタと揺れる。
不快なモスキート音が流れる。
「赤色を黄色に流して銀色で、撃つ!」
放った瞬間に星空のローブで背中を押す。
バーン!と光線が両手から放たれ、雲を切り裂いていく。
想定より勢いがあり、後方へ転ぶ。
「おー……。
転んじゃったよ。
見通しが甘かったか。」
「あら……、銃身が割れているわね。」
「あっ!?
こ、壊しちゃった!
どうしよう!」
「おっかしいわねぇ。
理論上は割れないんだけど。」
「……働いて返します。」
「それは必要ないよ。」
「っ。」
声がする方に向いたら……。
「あ、アストテイル君。
ごめん、壊しちゃ……。」
「想定を超えてきたね。
電気ナマズの石と同等の威力が出たからさ。
でも設計上ではそこまでの威力は出ない。
結論を言おう。
シュライザルさんの明晰夢の力が強すぎたからだ。」
「そうなの?」
「割れたのは明晰夢力を想定していなかった僕に落ち度があるね。
汎用電気ナマズ砲を作ろうと思ったんだよ。
結果で言えば大成功さ。
ただ、シュライザルさんは明晰夢力がとんでもなく強いから
万人に使えるかはテストを重ねないとね。」
「アストテイル、これ何で出来てるの?」
「黄石(おうせき)、赤石(せきせき)、銀属(ぎんぞく)だね。
最近錬成がなされた魔法鉱石を使ったんだ。
僕が撃った感じでは地球で言う対戦車砲程度で弱かった。」
「あなたが撃ったから耐久性が落ちていたとか?」
「それは想定済みさ。
新品だよ。」
「じゃあ、彼が星空のローブを使わなかったら?」
「変わらないね。
撃ってから意思を星空のローブに向けたはずだ。
忙しい作業が増えただけで同時進行じゃないから威力は落ちない。
ただ想定より威力が出たんでシュライザルさんが転んだんだろうね。」
「そう。
エクスカリバーが使うような聖撃砲の模倣ね。
電気ナマズの石もそれに近い。
ミカエル様は許可を出したの?」
「神装武器の模倣だよ?
無許可でやるわけないじゃない。」
「ということは、ミカエル様はご覧になっているのね?」
「そうだね。」
「えーっと、僕は正しかったんでしょうか。」
「可能性と夢を持たせてくれたから大成功だね。
ありがとう、シュライザルさん。」
「お、よかった。」
「アストテイル、そのエクスカリバーは?」
「ミカエル様に整備されてるよ。
定期的にメンテナンスしないといけないからね。
ただでさえあの子はシュライザルさんの件で剣を抜け出しっぱなしなんだから。」
「そりゃすみませんな……。」
「シュライザルさんは悪くないよ。
ただエクスカリバーがあんなになつく人もいるんだねって思っただけさ。」
「整備はどれくらいで終わりそうなんだい?」
「当面は帰ってこないだろうね。
彼女のせいで聖剣が錆びたそうだから。」
「え? 錆びた?」
「まぁねぇ、ミカエル様も驚いていたよ。
聖剣が錆びるなんて一応には例がないんでね。」
「僕が使ってなかったから?」
「違うね。
エクスカリバーが抜け出しっぱなしで聖剣の管理を怠ったからさ。」
「ほー。
いつか神界に行けたらって思うけど
こんなおっちゃんが行ってもねぇ。」
「……興味が、あるのかい?」
「ん? 天使は好きだからねぇ。」
「意外な取れ高があったね。
ミカエル様からは立場もあって切り出さなかったけど
君には一回天界に来てほしかったそうだよ。」
「え!?」
「アストテイル、シュライザルが神界に行くことへにリスクは?」
「リスクはないね。
ただ注意すべきは……。」
「注意?」
「天使兵に構わないこと、かな?
あれらには感情がない。
変に構って攻撃されてもミカエル様は手が出せないんだ。
でもシュライザルさんなら、絶対構うと思うんだよ。」
「そうねぇ……。」
「どうしてそう思うの?
そんなに気にする要因があるの?」
「みんな寂しそうな顔をしているのさ。
気になるんじゃないかい?」
「そういうの弱いんだけど。」
「ほらね。」
「なるほど……。」
「ところでシュライザルさん。」
「ん?」
「星空のローブはどうやって手に入れたんだい?」
「いつかの夢で道路を飛行することがあってね。
リーフェが星空のローブを使って試練に打ち勝てたら
力になってくれるっていうんでやっただけ。」
「120キロ以上で道路を飛んだから法令にそぐわないのが怖くて消そうとしたくせに。」
「リーフェ、メタい発言をしないでくれないかい?
間違ってはいないんだけども。」
そこまで聞いてアストテイル君が長考している。
「おや、どうかした?」
「シュライザルさん、星空のローブは分離できるのかい?」
「できないね。
夢の概念として僕に溶け込んでる。」
「お母さん、その概念だけで261キロも速度が出るもの?」
「そうねー、星空のローブはそもそも宿主になろうとした試練者を壊してきた。
星空のローブも信頼してるんじゃないかしらね。
真っ直進ならシュライザルは300キロ以上出せるからね。」
「明晰夢力に星空のローブ。
この組み合わせはミカエル様は知っているのかい、お母さん。」
「ご存じのはずよ。
どうかした?」
「多分なんだけど、通常の人間の域を逸脱している気がしてね。」
「起きたらただのおいちゃんなんだけど。」
「それは起きたら、だろう?
夢の中では地球人に括るのは無理がないかい?」
「え? だからミカエル様もウリエル様もよくしてくださるの?」
「天使兵に気は払う必要があるとは言ったけど
そもそもミカエル様はその天使達の長だ。
ウリエル様だって格は高いんだからね。
その人達が一目置くということは、どういうことだと思う?」
「……力を落としたほうがいい、とか?」
「そこだよ。」
「どこ?」
「シュライザルさんは奢らないところ。
本気になったらお母さんだって僕だって消せるはずさ。
ミカエル様もウリエル様だってそもそもシュライザルさんの夢だ。
でもそれをしないのは何故だい?」
「自己満足だよ?
自分の居場所を作りたくて始めた夢だからさ。」
「じゃ、聞こっか。
真の自己満足は全て自分の有利になるように働かせるでしょ?
そうじゃないから、シュライザルはリアルを求めてる。
私たちのことも考えてくれてる、違う?」
天から光が舞い降りたと思ったら。
「あ、ウリエル様……。
お仕事はいいんですか?」
「こーたーえーて。」
「……それも含めて自己満足です。
何でも思い通りはリアルじゃありません。
こうしてウリエル様がいらしたのも私の意志でしょう。」
「じゃ、帰ろうか?」
「せ、折角いらしたんですしゆっくりしていってくださいよ。」
「ほら。
私に意見してる。
それは自己満足? 求めるリアル?」
「どっちもかもしれませんね。」
「ふふ、まぁいいか!
で、その魔法銃をミカエル様から持ってきてくれって言われてね。
アストテイル、あなたなら見越してるでしょう?」
「そうですね、取ってきます。」
扉を開けてアストテイル君が出ていく。
「あ、ウリエル様!」
「なぁに、シュライザル。」
「あの自販機!
なんであんなの置いたんですか!」
「面白そうだから。」
「あー、もう!
ウリエル様ってそうですよね!」
「……ねぇ。」
「なんです?」
「ん-ん。
変な人ねぇ。
よく言われない?」
「言われますね。」
「口調では怒ってるのに笑ってる。
楽しんでるのね。
望んだことだろう、なかろうは置いてもどうなのかしら。
私、あなたが不思議に見えるわ。」
「そうですか?」
「ミカエル様もそういうところが不思議なんだろうなー。」
「そうだ。
どこやったっけ。
あ、この90のコイン。
何でしょうか?
自販機のボタン押したら一緒に出てきたんですけど。」
「コイン!? 90!?」
驚いているウリエルがコインを奪うように取り上げる。
「ほんとだ……。」
「何を驚かれてるんです?」
「リーフェ、あなたは自販機使った?」
「いいえ?」
「これ、押した人の純度を測ることがあるコインでね。」
「純度? 何のです?」
「心の純度。」
「90かー、微妙に喜べないなー。」
「馬鹿言わないで!
その辺の人間だって20あれば良い方なのよ!?」
「……え?」
「しかも。」
「ゴクリ。」
「コインが出ない人もいる。
そういう人もいる。
そもそも対象外の人も多い。
その中で、コインが出る人で、90。
意味わかる?」
「なんとなく凄そうな気がしてきました。」
「……じゃ、これ言ったら凄さがわかるかな?
私は75。」
「……は?」
「ミカエル様は85。」
「あ、あの。」
「天使と違って人間は減算方式なのね。
もとは100何だろうけど。
あなた、歳はいくつだっけ。」
「40ですね。」
「40かぁ。
……ちょっと私の目を見れる?」
「見れません。」
「真面目に言ってるんだけど。」
「女性の目を真面目に見るのは妻だけです。
ですから、すみません。」
「90もあると違うのかしら。
5、たった5違うだけで考え方の根本が違うからね。」
「ウリエル様、お持ちしました。」
「ありがと。」
三段銃がアストテイル君からウリエル様に渡る。
「ウリエル様、朗報です。」
「なぁに?」
「シュライザルさんが天界に興味を持たれています。」
「……マジで?」
「本当です。」
「アストテイル、これから用事あるでしょ?」
「そうですね。」
「リーフェは?」
「私なら大丈夫です。」
「おっけ、ミカエル様に聞いてみる。
今日はこの辺で!」
その言葉を聞いてポンっと手に明晰夢でジュースを出す。
「あ。」
「仄光樹の密水です。
お疲れ様です。」
「……優しいのね。」
「趣味みたいなもんです。」
「ありがと!」
ジュースを手にウリエル様が帰っていった。
「さぁ、僕はしばらく天界に行かなきゃいけないんで顔を出さないよ。
お母さん、あとはよろしく。」
「任されたわ。」
後を追うようにアストテイル君も天に舞って行った。
「ふぅ。
紅茶出しましょうか?」
「うん。」
「しばらくは私と二人ね。
退屈でしょうけど。」
「リーフェが暇しないならいいや。」
「……よくそういうこと言えるわね。」
「はい?」
「ううん、何でもない。」
草原で飲む紅茶って贅沢だよね。
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