第33会 夢の管理者

奥に薄暗い書斎が見える。

何か珍しい人影も見える。


「リーフェ、こんばんは。

ミカエル様にウリエル様はー、今日もご不在。

忙しいね?」


「そそ。

双葉に陽菜も寝てるわ。

あなたが来たって言ったら不満そうだったわよ。」


「昼は寝ないって、昼は。

で、そこに小さい男の子がいるように見えるんだけど。

……おや?アストテイル君?何故に?」


「アストテイルに似せたモノよ。

私の子供は私と一緒で夢の管理者をやってるはずだからね。」


「そっか。

僕は明晰夢の使い手だけど他にもいてもおかしくないんだ。

使い手同士は会うことはないんだろうけどいるよねぇ。

で、お名前は?」


と、アンドロイドの男のが目を開けて口を開く。


「四肆野 悠久だよ。」


「ししの ゆうきゅう?

変わった名前だね。」


「初めまして、レナンダールを救った英雄さん。」


そこまで聞いて胸がギクッと鳴った。


「君は……アストテイル君の記憶を?」


「そこのリーフェ……、お母さんに記憶を授かったんだよ。」


「リーフェ。」


「言いたいことは分かってる。

分かっているけど、ちょっと付き合ってくれない?」


「ふむ。

君は、何歳だい?」


「7歳だよ。」


「……なるほど。」


「英雄らしくないね。

影が見えるよ。」


「英雄なんかじゃない。

レナンダールは僕が見届けたからね。

辛くても苦しくても。

でもエシェンディアを割り切れてもそうじゃないものもある。

君だって命を落とした。」


「僕は生きているよ?」


「生きているね。

でもそれはリーフェの記憶だ。

君だってわかっているんだろう?」


「わかっているよ。

……僕は本当は7歳じゃない。

1歳だったんだ。

僕の存在は虚構だよ。

だけど、シュライザルさん。

あなたが生み出したレナンダールとどれだけの差があるだろうね?」


「痛いところを突くね。

エシェンディアは僕が見送ってきた。

辛いも苦しいもひっくるめて。

でもそれすら僕が自分で生み出したまである。

君だって見送ってきたんだ。

でも二人とも綺麗すぎたんだ。

僕が見たくなかったんだろうね。

わかるよ。

ずるいことを聞くよ。

君はシュライザルを恨んでいるのかい?」


「恨んでいると言ったら?」


「責任を取りようにもすでに取り返しがつかない。

しかしながら責任を取らないと逃げるのもどうなんだろうね。

……申し訳ない、とかしか言えないね。」


「恨んでいるなんて言ってないよ?」


「え?」


「お母さん、そろそろ種明かししてくれないか。

シュライザルさんがかわいそうだよ。」


「ごめんなさいね、その子私の子なのよ。」


「そうでしょうね、その記憶をアンドロイドに……。」


「じゃあなくて。」


「ん?」


「お母さん、勿体つけてどうするのさ。

改めて初めまして。

アストテイル・レナンダール、7歳だよ。

夢の管理者をしてるよ。」


「……ほ?」


「そもそも私がそんな悪趣味なことするわけないでしょ。」


「あぁ、リーフェ。

始めから間違ってるのか!

アンドロイドっぽくしてた、人間か!

いやぁ、アストテイル君とは話してみたいと思ってたんだ……けど。」


「けど?」


「こんな虚構の世界でいいんだろうか?」


「シュライザルさん。

それは僕がシュライザルさんの考えを知りたかっただけだよ。

ごめんね?

お母さんからは聞いていたんだけど自分の生み出した世界についてどう考えているか聞きたくてね。

想像以上に真面目で驚いたよ。

心に傷を負わせてしまったことを謝るよ。」


「でも、君は死んだ。」


「同じくシュライザルさんに送られて2000年超。

僕も再誕したのさ。

なんか7歳の体で止まっちゃったけどね。

まぁでも、お母さんは12歳くらいだし気にしてないさ。

正直な気持ちを言うと、

エルバンタールを滅ぼしてくれたし、お母さん共々送ってくれた。

十分だよ。」


「確かにリーフェの子供だね。」


「そう?」


「よく似てる。」


「シュライザルさん、夢の使い手同士は会わない運命にある。

そう考えているようだけど。」


「袖振り合うも……、が存在するの?」


「詳細を明かさなくてよいのであれば会わせてあげるよ。」


「無理しなくても。」


「というのも、向こうさんがシュライザルさんに会いたがってるんだ。」


「ほう。」


「おいで、シュライザルさんだよ。」


影に向かってアストテイルが呼ぶが、影の奥の人は出てこない。


「何照れてるのさ、嫌われないからおいで。」


そーっと出てきたその人は……。


「やほ、あるじさま。」


「あれ!? エクスカリバー!?」


「そうさ、彼女こそ僕が管理する夢さ。」


「どういう……、じゃない。

聞かない約束だったね。」


「……気にならないはずがないんじゃないかい?

エクスカリバーは今現在シュライザルさんが持ち主なんだからね。」


「詳細を明かさないのであれば、会わせてもらえる話だよ。

会ったなら詳細は聞かない、そういうことだと思うけど。」


「……エクスカリバー、君はいい人についているね。」


「あるじさま優しいもん。」


そこまで話してリーフェが口をはさんだ。


「さて、前回はあなたに魔法を教えるって言ったから魔法よ。

高速飛行訓練。」


「……死なない?」


「夢だから一応はね。」


「とりあえずは奥の部屋に。

扉が光ってるからわかると思うわ。」


最奥は草原の部屋だ。

奥まで歩いていくと最奥近くの部屋の扉がぼんやり光っている。


「ここだね。」


扉を開くと奥が見えない廃墟。

柱、部屋の数々。


立っている場所から柱をくぐるには飛行をしないといけないほどには高い。

離れて見ているが、飛行して柱をすり抜けた先が無数の部屋になっており、

柱にぶつからないようにかわしながらジグザグに飛行するようだ。


「……これ、高速で飛行したらぶつかんない?」


「夢が止まるだけだから大丈夫よ。

汗だくで目が覚めるでしょうけど。」


「嫌すぎる。」


「君の並行はエクスカリバーだよ。」


「おや、アストテイル君。

エクスカリバーと飛ぶのかい?」


「そうだね。」


「よろしく、あるじさま。」


「こちらこそ。

星空のローブがあるから高高度飛行、高速移動はできるけど

エクスカリバーには勝てなさそう。」


「置いて行かれると思いなさい。

エクスカリバーは幼いけど優秀だからね。」


「リーフェは厳しいね。」


「何を、昔っからでしょう?」


「そうだった。」


「アストテイルが旗を下げ切ったらスタートね。」


「ゴールは?」


「私が止めるまで。」


「地獄かいな。」


「グダグダ言わない、ほら準備する!」


「はぁーい……。」


数メートルある高さの建物の床をにらみ、エクスカリバーと並ぶ。

バッとアストテイル君が旗を下げる。


スタートだ。


思いっきり力を発揮して飛翔し、高い場所の床まで上がり柱を抜けるが、

エクスカリバーが既に前にいる。


なんて速度だ。

速すぎる。


全力を出しているので大体は悔しくはないのだが、負けること自体は悔しい。


お腹から引っ張られるような感覚で前に出ている。

しかし、フォームが悪いのかエクスカリバーが小さくなっていく。


そもそも飛翔ってどこに重心を掛けたらいいんだ。


突然何かに引き留められる感覚がして急停止。

前に出ようとするが動かない。


「ほら、待ちなさい。

おしまいだから。」


「あ、リーフェ。」


「アストテイル、エクスカリバーを戻しなさい?」


「わかったよ。」


入口まで全員で戻ってきて結果発表。


「エクスカリバーは時速300キロくらい出てるわね。

ま、ここまでは想定通り。」


「そうだね。」


当然という顔でリーフェとアストテイル君が話している。


「想定外なのはあなたよ、シュライザル……。」


「遅かったでしょ、分かってるよ。」


「速すぎよ!

あんな速度でよく柱に当たらなかったわね!?」


「……はい?」


「確かにシュライザルさんはエクスカリバーほどは速くない。

……けど、忘れてないかい?

エクスカリバーは人間じゃない、聖霊だ。

人間であるシュライザルさんが明晰夢の使い手として、結果は異常だね。」


「何キロ出てたの?」


「261キロよ。」


「……261キロ?」


「もっと早くに終わらせようと思ってたんだけど、思いの他あなたが離されなかった。

エクスカリバーに並行させて正解だったわね。」


「ほぇー……。」


「あるじさま速かった。

びっくりしたよ。

見えてなかったかもしれないけど、出だしはあるじさまが先に前に出てたんだよ?」


「そうなの?」


「ふふふ、見物だったねぇ。

あんなに焦った顔のエクスカリバーはなかなか見られるもんじゃないよ。」


「アストテイル! うるさい!」


「あ、エクスカリバーがむくれてる。

あんな顔もするんだねぇ。」


「近々ミカエル様がエクスカリバーを使いたいそうよ。

今のあるじはあなた。

貸してもいい?」


「ミカエル様だよね?

なんで断るの。」


「それがさー……。」


「あー!

あるじさま、私が他の誰かに使われてもいいんだ!?」


「エクスカリバー、ミカエル様に力を貸してあげてほしいな。」


「ん? いいよ?」


「ずるっ。

いきなり意見を翻さないでくれないかい、エクスカリバー。」


「あるじさまのお願いなら嬉しいもん。

私の意志がそこにあるからね。

アストテイルならわかると思うんだけどなー。」


「君の担当になってまだ浅いからね。

精進するよ。」


「あはは。」


疲れた。

やたらに風景が流れると思ったら261キロか。

頑張ったほうなのかもしれない。

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