第31会 カップクッキーソフトと衝動
ある日の寝た後。
奥に薄暗い書斎が見える。
少女の姿を確認してゆっくりと歩み寄る。
「リーフェ、こんばんは。」
「来たわね。
お客さんよ。」
「はて。」
スポットライトを浴びるように陰になっていた人に光が差す。
「ごきげんよう、シュライザル。」
「ミカエル様!」
終わてて着席する。
小さくリーフェが笑って紅茶の準備をしてくれる。
「電気ナマズの石、あんなに小さいのによく使いましたね。」
「カシウスの槍を貸してくださってありがとうございました。」
「あなたの明晰夢は何でも出来てしまうんですね。
練達者のウリエルにこそ威力は及びませんでしたが、十分です。」
「ウリエル様は槍を短くされませんでしたからねぇ。」
「総合的に見ればあなたの方が化け物ですがね。」
「そうでしょうか。」
「私たち天使が何年生きていると思っているんですか。
あなたはぶっつけ本番だったんですよ。
しかも使いにくいであろう明晰夢まで使って。
そもそも人間族が使いやすいようには作られてはいません。
あれは神族武器ですからね。」
「ウリエル様がおっしゃっていた魂が焼かれ……?」
「ますね。」
「ミカエル様はどうして僕が使えるとご存じだったんですか?」
「リーフェからは貴方の幼少時代から事の顛末を報告いただいております。
比較的心が綺麗です。
人間ですから確かに経験もありましょう。
心を汚したくなるような裏切り、嫉妬、羨望。
しかし、何ですかね。
貴方はもう齢にして40を過ぎておりますが童心を忘れていませんね。
使い分けが上手です。
あなた、過去は天使だったのかもしれませんね。」
「それはないんじゃないですか?
僕にだって人に恨みを持ったりはします。」
「天使も同様です。」
「あれ?
天使には感情がないのでは?」
「恨みは大罪ではありません。
仲間を討たれれば仇は討ちたいものですから。」
「同族は大事ですよね。」
「えぇ。
ですから貴方はカシウス使えなければ逆におかしいということになります。」
「ふぇー。
割と論理的に出された回答だったんですね。」
「ウリエル様も楽しかったんじゃないかしら。
自分の力を出せても凄いと言われることなんてないからね。」
「リーフェ、それウリエル様が仰ってたの?」
「えぇ。」
「普通に凄くないかなぁ……?
あんな数メートルもあるロンギヌスで数センチの物体を突くなんて。」
「シュライザル、天使は常に完璧でなくてはなりません。
それは存在においても忠誠心においても全てです。」
「あ。
ミカエル様、言いましたね?」
「何ですか?」
「狂い酒でどう乱れたか聞いちゃいますよ?」
「ぶっ、けほっ!けほっ!」
飲んでいた紅茶が変なところに入ったのか、むせるミカエル。
「ミカエル様でも飲み違えるんですね……。」
「シュライザルは意地悪ですね。」
「すみません、意地悪が過ぎました。」
「……端的になら話しますが。」
「いいんですか?」
「敬語を使っていても分かります。
あなた、本当に子供みたいに目を輝かせるんですね。」
「あ。」
「まぁ、何といいますか。
……笑い上戸なんですよ、私。」
「薄くしか笑われないのに、意外。」
「そうだ。
杏と紅茶を混ぜた美味しいお酒、作れる?」
「リーフェ、表に出ますか?」
「あ、やば。」
「リーフェの上司でしょ、ミカエル様は。」
「まぁ、私はリーフェの上司ではありますが、
個人的には偉そうにするのは好きではないんです。
なるべくには対等に。
でないと大切なものをこぼしますからね。」
「人間はマイナスを与えられる感情を避けますよね。
怒られるともなれば、ミスなどを隠します。
でもバカにされてもいけない。
ちょっと上なだけ。
ミカエル様はいい上司さんですね。」
「は……。」
少しミカエルに照れの表情が入る。
「……おっと、失礼。
悪い癖なので気を付けていますが、夢では出ちゃいますね。」
「お上手ですね。
口説くつもりはないのが分かっているので私はいいですよ?」
「すみません。」
「現実世界では思っても言わないですからね、シュライザルは。
基本的に静かな人です。」
「あれ、じゃあ僕が普段はどうしているかご存じで?」
「奥様にはよく甘えているようなので、奥様は幸せ者でしょうね。」
「そうですかね。」
「さて、今日は天界のお菓子でも紹介しましょうか。」
「あら、なんでしょうか。」
「リーフェ、出してもいいですか?」
「はい、場所を空けます。」
リーフェがカップを寄せて場所を空けると、ミカエルが指を振る。
お皿に紙コップの口同士を合わせたような、
六角形を伸ばしたようなクッキー生地に絞り出したアイスクリームが乗ったお菓子が出てきた。
「やや、お洒落。」
「そちらで言う、星後退とかいうカフェにあるようなものです。
カップクッキーソフトと言います。
そんなに珍しいものでもありません。
まぁ、なんでしょうね。
ハンバーガーみたいなものでもありますかね。」
「ジャンキッシュに見えないんですが、これ。
どうやって食べるんですか。」
「溶けてふやけるまで待ってもいいですし、
崩して食べてもいいです。」
「ミカエル様のなんかデカくないです?」
「私は慣れていますので3段3個で食べます。」
「めっちゃ難しそう。
だから僕は1段1個なんだ。
いやぁ、お気遣い感謝します。」
「いえいえ。」
今思ったけどリーフェは2段2個なのか。
慣れてるんだろうね。
リーフェは小さいから2段でも大きく見える。
崩しながら食べつつ話題でも振ろうかと気になったことを言ってみる。
「そういや僕、ドライブ依存症なんですよ。」
「どう言ったら話がつながるのよ。」
「リーフェは手厳しいね……。」
「ふむ。」
サクサク山を崩している手を少し止めるミカエル。
「衝動を大きくしているのではありませんか。」
「ん? んん?」
「余計な事を言うもの、ドライブ衝動、買い物依存症。
その他諸々依存したり衝動というものは最初がごくごく小さなものです。
ですが、何かしらの要因を自分で足すことで
ご自身が動くための要因を作っているのではないかと思います。
どうですか?」
「余計な事って結構僕言いますけど……、
あー。
言わなくていいのにそういう衝動って相手のためとか言いながら
結局は自分が満足したいだけだったりで
衝動が大きくなって言っちゃうんですよねぇ。
ありますねー。」
「ドライブ衝動も運転したい衝動はあれど、
目的なしに動くことは危険だと思います。
どこかしらの場所に行きたい。
空気を吸いたい、美味しいものを食べたい。
風景を楽しみたい。
種々の理由と衝動の積み重ねが行動につながっていると思います。」
「ミカエル様、面白いこと言いますね。」
「ま、私もあなたの夢ですがね。
買い物依存症に関しましても気分と気持ちの方向性が変わります。
物に対してアレコレと考えることが変わる精神状態は割と快楽的です。
それを得る衝動ならばやめられなくなるのも仕方ないのではありませんかね。
根本的な原因を取り除かないとそういった衝動は止まりませんから。
購入を止めたら相当なストレスだと思います。」
「ですよねぇ……。」
「その割にあなた余計な事あんまり言わないじゃない。」
「言ってる言ってる。
リーフェ、それは誤解。」
「ドライブ依存症だってやれば引いてるし。」
「車が進むの好きなんだよぅ!」
「買い物依存症だっていつぞやよりは全然だし。」
「お金ないんだもん。」
「真の買い物依存症は借金するのよ。」
「いいよ、そこまでした方が逆にストレス。」
「変な人ねぇ……。」
最近夢が終わるときに明るくならないんだよね。
ふっと闇が差して闇に起きる。
何か変わったのかなー。
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