四半世紀以上前から続く明晰夢のお茶会

第１４会 少女とゲーム

　今日（きょう）も広（ひろ）い屋敷（やしき）から始（はじ）まったが……、明（あか）るいな。

　綺麗（きれい）なレースのカーテンが風（かぜ）で揺（ゆ）れている。

　このまま目（め）でも覚（さ）めてしまうのではないかと思（おも）うほど、明（あか）るい。

　リーフェと二人（ふたり）も呼（よ）んでみようか。

　とても気持（きも）ちがいい場所（ばしょ）だ。

　部屋（へや）には何（なに）にもないけど。

　フローリングの床（ゆか）に綺麗（きれい）にワックスがかけられた何（なに）もない部屋（へや）。

　真（ま）っ白（しろ）な壁紙（かべがみ）。

　「……って、どう呼（よ）んだらいいんだ。

　いつも驚（おどろ）かせられているばっかりじゃないか。

　リーフェー、陽菜（ひな）ー、双葉（ふたば）ー。

　って、来（こ）ないか。」

　「呼（よ）んだー？」

　ふっと目（め）の前（まえ）に現（あらわ）れるリーフェ達（たち）。

　「来（く）るんかい。」

　「何（なに）よ、呼（よ）ばれたから来（き）たのに。」

　「お父（とう）さん、なにー？」

　「パパが武器（ぶき）として呼（よ）ばないなんて珍（めずら）しいわね。」

　「いや、いい場所（ばしょ）だからどうかなって思（おも）って。」

　「良（い）い夢見（ゆめみ）てるわね。

　心情（しんじょう）に変化（へんか）でもあった？」

　「いんや？」

　「あら。

　じゃあゲームでもしましょうか。」

　「ゲーム？」

　「ここに赤（あか）と青（あお）のパネルがあります。」

　「ほぉ。」

　リーフェが下敷（したじ）きくらい大（おお）きめの無地（むじ）の色（いろ）のパネルを取（と）り出（だ）す。

　「例（たと）えば、貴方（あなた）が赤（あか）のパネルを引（ひ）いたら貴方（あなた）に罰（ばつ）ゲーム。

　貴方（あなた）が青色（あおいろ）のパネルを引（ひ）いたら私（わたし）に罰（ばつ）ゲーム。

　反対（はんたい）に私（わたし）が赤（あか）のパネルを引（ひ）いたら私（わたし）に罰（ばつ）ゲーム。

　私（わたし）が青（あお）のパネルを引（ひ）いたら貴方（あなた）に罰（ばつ）ゲーム。」

　「どういった罰（ばつ）ゲームを？」

　「そこは双葉（ふたば）に決（き）めてもらいましょう。

　この罰（ばつ）ゲームパネルで。」

　「変（へん）なの選（えら）ぶかもよー？」

　「構（かま）わないわ。」

　「怖（こわ）くなってきた。」

　「死（し）ぬもんじゃないんだから、まぁ気軽（きがる）に遊（あそ）びましょ。」

　「リーフェの意外（いがい）な一面（いちめん）を見（み）ている気（き）がする。」

　「うるさいなぁ、もう。

　やるの？　やらないの？」

　「もちろん、やりますとも。」

　「双葉（ふたば）はこのパネルをシャッフルして私（わたし）とお父（とう）さんの前（まえ）に一枚（いちまい）ずつ置（お）いて。

　ま、入（い）れ替（か）えるだけだけどね。

　私達（わたしたち）は後（うし）ろでも向（む）いて見（み）ない事（こと）にすると。」

　「はーい。」

　「了解（りょうかい）ー。」

　後（うし）ろを向（む）くとパサパサとパネルがシャッフルされる音（おと）がする。

　「いいよー。」

　振（ふ）り返（かえ）ると茶色（ちゃいろ）のペルシャ絨毯（じゅうたん）のような模様（もよう）が描（えが）かれたパネルが置（お）かれている。

　「さて、罰（ばつ）ゲームは何（なに）かしら。

　陽菜（ひな）、引（ひ）いて？」

　「はーい。」

　引（ひ）き抜（ぬ）かれたパネルに描（えが）かれた罰（ばつ）ゲームは……。

　”渋（しぶ）く出（だ）された紅茶（こうちゃ）”

　「うわ……、私（わたし）こういうのつらい……。」

　「ぼくもつらいんですけど。」

　「さぁ、運命（うんめい）によっては二杯飲（にはいの）むことになるのよ？」

　「え？」

　「私（わたし）が青（あお）を引（ひ）いて、貴方（あなた）が赤（あか）を引（ひ）いたら二回罰（にかいばつ）ゲームだから。」

　「うわぁ。」

　「どっちを引（ひ）くか決（き）めた？」

　「うん。」

　「せーの、で開（ひら）くわよ？」

　「ほい。」

　「せーの！」

　バンッ！と開（ひら）かれたパネル。

　僕は赤（あか）。

　リーフェも赤（あか）。

　結果（けっか）はお互（たが）い自爆（じばく）だ。

　「やだーっ！」

　「あははははっ！

　これ面白（おもしろ）いな！」

　「はい、渋（しぶ）い紅茶（こうちゃ）ー。」

　「いやーっ！」

　「まぁ、一回戦目（いっかいせんめ）は引（ひ）き分（わ）けと言（い）う事（こと）で。」

　「うううぅー……。」

　そっと口（くち）を付（つ）けるリーフェ。

　「うっ！苦（にが）っ……！」

　僕（ぼく）も口（くち）を付（つ）ける。

　「うっひゃー、苦（にが）いや！」

　「明晰夢（めいせきむ）で味覚（みかく）を殺（ころ）したら反則（はんそく）よ！？」

　「しないしない。」

　何（なん）とか飲（の）み切（き）って二回戦目（にかいせんめ）。

　「あー、苦（にが）かった……。

　次（つぎ）よ！」

　「はいな。」

　「双葉（ふたば）！　パネルシャッフル！」

　「はーい。」

　後（うし）ろを向（む）いて見（み）ないようにする僕（ぼく）とリーフェ。

　結構負（けっこうま）けず嫌（ぎら）いなんだなぁ、リーフェ。

　意外（いがい）……でもないか。

　「出来（でき）たよー。」

　パネルが置（お）かれている。

　「陽菜（ひな）、罰（ばつ）ゲームは？」

　「はーい、これでーす。」

　開（ひら）かれたパネルには”激辛（げきから）ラーメン”

　「な、何（なん）でこんなものばかり……。」

　「リーフェが入（い）れたんじゃないの？」

　「そ、そうだけど……、いいの！

　さぁ、開（ひら）くわよ！」

　「ほいさ。」

　「せーの！」

　開（ひら）かれたパネル。

　僕は赤（あか）。

　リーフェは青（あお）。

　あれ？

　「やったー！

　貴方（あなた）、全負（ぜんま）けよ！」

　「あいっちゃー……。」

　激辛（げきから）ラーメンが二杯運（にはいはこ）ばれてくる。

　「真（ま）っ赤（か）ですっげぇ辛（から）そう。」

　「ふっふーん、むせび泣（な）くといいわ！」

　麺（めん）を持（も）ち上（あ）げると太麺（ふとめん）で意外（いがい）にも美味（おい）しそう。

　チャーシューも輪切（わぎ）りねぎも入（はい）ってて僕好（ぼくごの）み。

　「ほいじゃ、いただきます。」

　麺（めん）をすすると、懐（なつ）かしい味（あじ）が。

　「……お父（とう）さん、辛（から）そう。

　大丈夫（だいじょうぶ）？」

　「あ、これ辣椒拉麺（らっしょうラーメン）だ。

　以前（いぜん）に美味（おい）しく食（た）べてたやつだな。」

　「え。

　食（た）べれるの！？

　こんなに真（ま）っ赤（か）なのに！？」

　「二杯（にはい）も頂（いただ）けるのかー、有難（ありがた）いなー。」

　「し、信（しん）じられない……。」

　ペロリと平（たい）らげて第三戦（だいさんせん）。

　「ほ、本当（ほんとう）に食（た）べちゃった……。」

　「ごちそうさまでした。」

　「お父（とう）さんすごーい！」

　「パパ、辛（から）い物（もの）は得意（とくい）なのね……。」

　「では双葉（ふたば）、パネルシャッフルを。」

　「はーい。」

　後（うし）ろを向（む）いてまたパネルがシャッフルされる。

　「陽菜（ひな）は今（いま）のうちに罰（ばつ）ゲーム引（ひ）いといてね。」

　「はーい。」

　「できたよー。」

　「罰（ばつ）ゲームはこれでーす。」

　”ビリビリ！雷電気（かみなりでんき）ショック”

　「いやああああっ！

　何（なん）でこんなのばっかり！」

　「あははははっ！」

　「こ、これは負（ま）けられないわ！」

　「そうですなー。」

　「せーの！」

　開（ひら）かれたパネル。

　僕は青（あお）。

　リーフェは赤（あか）。

　「ちょっと！？

　冗談（じょうだん）でしょ！？」

　「今度はリーフェの全負（ぜんま）けー。」

　「いやああああっ！」

　運（はこ）ばれてくる銀色（ぎんいろ）の球（たま）、と装置（そうち）。

　「よく見（み）るやつだな、これも。」

　「こ、これ何（なに）？」

　「指先（ゆびさき）でちょっと触（さわ）るだけでいいやつ。」

　「へ？　そんなんでいいの？」

　「うん。」

　「なぁんだ、こんなのへっちゃら。」

　ちょい、と指（ゆび）を出（だ）すリーフェ。

　銀（ぎん）の球（たま）に触（ふ）れそうになったところで、

　バチン！

　「痛（いた）っ！」

　弾（はじ）き飛（と）ばされるように腕（うで）ごと手（て）を引（ひ）っ込（こ）めるリーフェ。

　「何（なに）よこれ！？」

　「数万（すうまん）ボルトくらいの雷発生装置（かみなりはっせいそうち）じゃなかったかな。」

　「もう一回（いっかい）なんて嫌（いや）よ！」

　「ルールはルール、もう一回（いっかい）。」

　「あぁあぁ……、こうなったら貴方（あなた）も巻（ま）き添（ぞ）えよ！」

　「へ？」

　ぎゅっと手（て）を握（にぎ）られたと思（おも）ったらリーフェが銀（ぎん）の球（たま）に指（ゆび）を近（ちか）づける。

　「ちょ、ちょー、ちょっと待（ま）ってー！？」

　バチン！

　「痛（いた）っ！」

　「ぎゃーっ！」

　もう滅茶苦茶（めちゃくちゃ）だ。

　陽菜（ひな）に双葉（ふたば）も涙（なみだ）を零（こぼ）しながら笑（わら）い転（ころ）げている。

　リーフェは別（べつ）の意味（いみ）で半泣（はんな）きだ。

　こっちは反則食（はんそくく）らって泣（な）きたいくらいなのに。

　「ゲームの提案者（ていあんしゃ）がこんな事（こと）する？」

　「だって、痛（いた）かったんだもん。」

　「理由（りゆう）になってないって……。

　一応（いちおう）、お互（たが）い１勝（しょう）１分（わけ）だけど、決勝（けっしょう）する？」

　「や、やめておくわ。

　次（つぎ）に出（で）てくるもの次第（しだい）では私（わたし）が持（も）たない。」

　「ちなみに次（つぎ）の罰（ばつ）ゲームはこれでしたー。」

　チラッと笑顔（えがお）で陽菜（ひな）が見（み）せたパネルは”飛翔禁止（ひしょうきんし）、ビルからの落下（らっか）”

　「夢（ゆめ）、強制的（きょうせいてき）に覚（さ）めるやつー！」

　「止（や）めておいてよかったわ……。」

　「一応（いちおう）パネルまでシミュレートしてみる？」

　「いいわよ？」

　双葉（ふたば）がシャッフルして……、振（ふ）り返（かえ）る。

　「せーの！」

　僕は赤（あか）。

　リーフェは青（あお）。

　「あ、やっておけばよかったわ。」

　「ひっでぇ！」

　「あははははっ！」

　外（そと）からの光（ひかり）が強（つよ）く眩（まぶ）しくなってくる。

　「時間（じかん）か、今日（きょう）は楽（たの）しかった！」

　「私（わたし）は痛（いた）かった。」

　「よく言（い）う、反則（はんそく）してからに。」

　「ふーんだ。」

　その言葉（ことば）に陽菜（ひな）と双葉（ふたば）は笑（わら）っていた。

　ふと目（め）が覚（さ）めた。

　珍（めずら）しく心躍（こころおど）る夢（ゆめ）が見（み）られたな。

　そう思えた朝（あさ）だった。