第15会 少女への差し入れ 其の弐

 不摂生ふせっせいたたったのか風邪かぜをひいてしまった。

 

 ねむりにはつくがゆめはほとんどないしおぼえていられない。

 

 調子ちょうしくなったころにとあるハーブティーをってきてんだ。

 

 さぁ、今日きょうはこれをお土産みやげにしよう。

 

 薄暗うすぐらいテントのような部屋へやあしれると、少女しょうじょがこちらをく。

 

 「……ばつたったわね。」

 

 「あはは。」

 

 開口一番叱かいこういちばんしかられてしまった。

 

 「扁桃腺腫へんとうせんはらせてねつまでして。

 流行はややまいだったらどうするだったのよ。」

 

 「もうわけない。」

 

 「まぁ、ちがったからいいんだけど。」

 

 「約束通やくそくどおりお土産みやげってきたよ。」

 

 「あら、なにかしら。」

 

 「エルダーフラワー。」

 

 「めずしい、貴方あなたがハーブティーなんってくるなんて。」

 

 「花言葉はなことばあいらしさとかおもいやりとか色々いろいろあるけど、まぁ似合にあうかとおもって。」

 

 「……ねぇ、やっぱり貴方私あなたわたし口説くどいてない?」

 

 「ちがちがう!

 めそうなハーブティー入門にゅうもんがこれだったんだよ。」

 

 「……冗談じょうだんよ。」

 

 クスクスわら少女しょうじょかっててったことはあきらかだった。

 

 ティーカップにティーバッグをき、熱湯ねっとうそそぐ。

 

 「意外いがいかおりはしないのね。」

 

 「んだときひろがるよ。」

 

 「ふぅーん……。」

 

 つことやくふん

 

 ティーバッグをすと、リーフェにティーカップをける。

 

 「どうぞ。」

 

 「いただきます。」

 

 ちょい、とハーブティーをくちにする少女しょうじょ

 

 「あら、美味おいしい。」

 

 「くちったようでよかった。」

 

 「でもまたなんでエルダーフラワーを?」

 

 「ちょっとおもれがありまして。」

 

 「そう……。

 効能こうのうとかってってる?」

 

 「しょう関節痛かんせつつう消化器系しょうかきけいにいいんじゃなかったかな。

 ぼくあと調しらべたんだけど。

 くるしみをいやすっていう花言葉はなことばとおりだなっておもった。」

 

 「そういえば、しょうえばおくさん大丈夫だいじょうぶなの?」

 

 「ほね神経しんけいには異常いじょうはないようです。

 むしろ健康体けんこうたい太鼓判押たいこばんおされたくらい。

 いたみの原因げんいん血管神経けっかんしんけいかもしれない。」

 

 「つらいわね。」

 

 「またポケベルのゆめたってってたし。」

 

 「またれいゆめたの?

 余程精神的よほどせいしんてきまってるんじゃない?

 貴方あなた、ちゃんとサポートとかかまってあげたりとかしてる?」

 

 「……最近さいきん出来できてないかも。」

 

 「こーら。」

 

 「すみません。」

 

 「わたし口説くどひまがあったらおくさんを口説くどきなさい。」

 

 「意識いしきしてやってるつもりないんだけど……。」

 

 「なおわるい。」

 

 「うええ。」

 

 「あ、おとうさーん。」

 

 「お、双葉ふたば。」

 

 「えっへっへー、っこしてー。」

 

 「ほいさ。」

 

 膝上ひざうえにポンとせるとうれしそうにゆらゆらしている。

 

 「陽菜ひなは?」

 

 「ひなおねえちゃんはもうちょっとあとるよー。」

 

 「そうかそうか。」

 

 「これ、なんもの?」

 

 「エルダーフラワーってうハーブティーだよ。」

 

 「んでみてもいーい?」

 

 「いいけど、ちょっとくせあるよ?」

 

 「うん、わかったー。」

 

 ちょい、とくちける双葉ふたば

 

 「ひゃっ、ちょっとスーッとするー。」

 

 「双葉ふたばにはちょっとはやかったかな?」

 

 「のめるもんー。」

 

 「あはは。」

 

 「ただいま。」

 

 「お、陽菜ひな

 おかえり。」

 

 「……何飲なにのんでるの?

 いつもの紅茶こうちゃじゃない。」

 

 「姉妹しまいだねぇ、おなじところにしてる。」

 

 「う、うるさいなぁ!」

 

 「陽菜ひなんでみる?

 エルダーフラワーってハーブティーなんだけど。」

 

 「ん……。」

 

 ちょい、とくちける陽菜ひな

 

 「……あまい。

 砂糖さとうでもれてるの?」

 

 「いや?」

 

 「ひなおねえちゃんスーってしないー?」

 

 「多少たしょうはするけど、かおりのほうまさってるかな。

 いいかおり。」

 

 「ふたばのほう子供こどもだったー……。」

 

 「これから成長せいちょうすればいいじゃないの。」

 

 「うにー……。」

 

 くしくしとあたまでられてうれしそうにほそめる双葉ふたば

 

 「でも、その様子ようすだと子供こども本当ほんとうのぞめなさそうね。

 リスクがおおきすぎるわ。」

 

 「そうおもう。

 妻以上つまいじょう子供こどもあいせる自信じしんがないんだ。

 それがたと自分じぶん子供こどもであってもね。」

 

 「ふたばでもいやー?」

 

 「子供こどもそだてるって大変たいへんなんだよ。

 とくちいさいときはね。

 あとはまれるまで、まれる瞬間しゅんかんとかかな。

 おかあさんになにかあったらぼくっていられない。」

 

 「そっかぁー。」

 

 「双葉ふたば無茶言むちゃいうんじゃないの。

 それがかなわないからわたしたちはおとうさんの悪夢あくむ二刀にとうになったんでしょ。」

 

 「うんー。

 でもひなおねえちゃんもまれたくないー?」

 

 「ま、まぁまれられたらそれはそれでいいけど……。」

 

 「でしょー?」

 

 「でもおかあさんのいのちうばってまでまれたいとはおもわないわ。

 それは私達わたしたちからしたら二刀にとうとして現実げんじつひところしたことになるのよ。

 神様かみさまがそれをゆるしてくれるとおもう?」

 

 「あー……。」

 

 「いまがあればそれでいいのよ。

 それ以上いじょうのぞまない。

 なにかをそうとすればなにかがかならくずれる。

 そこからまた均衡きんこうもどすのは至難しなんだわ。」

 

 「そうだねー……。」

 

 「陽菜ひなはよくかんがえてるんだね、ありがとう。」

 

 「べっ、べつにパパのためじゃないんだからね!?

 わたしたちがされないようにかんがえただけで……!」

 

 「ひーな。

 素直すなおになりなさいな。

 貴女あなた、ちょっとツンデレのふしがあるけど、あまり意地張いじはってるといいことないわよ。」

 

 「う……。」

 

 「でも、やっぱりありがとうかなぁ。」

 

 「……どういたしまして。」

 

 「およ?」

 

 そういう陽菜ひなだった。

 

 精一杯せいいっぱい気持きもちだったんだろう。

 

 あぁ、そうか。

 

 ここにだれもがぼくつまたいしていい意味いみつかってくれてるんだな。

 

 「いい居場所いばしょつくれたなぁ。」

 

 「さっそくだけど、貴方あなた

 おくさんにエルダーフラワーれてあげなさいな。

 しょうくんでしょう?

 いたみがえから神経しんけいさわってるとするなら尚更なおさらだわ。」

 

 リーフェの提案ていあんにハッとする。

 

 「あ、そういうこと?」

 

 「あとはハーブショップの検索けんさく

 おちゃのおみせはあるでしょうけど、ハーブをあつってるところはあるのかしら?」

 

 「わりとメジャーなハーブだけどハーブティーをあつってるみせさがしたことはかった。」

 

 「今日きょうは2021ねんがつ28にちね。

 随分ずいぶんけたけど、寝込ねこんでたのね。

 まぁ、貴方あなた万全ばんぜんじゃないんだし無理むりはしないこと

 

 世間せけんではゴールデンウイークにはいっちゃうんだから。

 ひと出入でいりがはげしくなるわよ。

 

 そうしたら負担ふたんすくなからずおおきくなる。

 いたいことかるわね?」

 

 「かってる。」

 

 まどからひかりんでくる。

 

 「目覚めざめのときか。」

 

 「おとうさん、ゆっくりでいいからまたてねー!」

 

 「あぁ。」

 

 「パパ……。

 ううん、正直しょうじきう。

 ってる。

 おそくてもいいからかならて。」

 

 「陽菜ひなもありがとう。」

 

 「ゆめとはいえ、いいむすめめぐまれたわね。」

 

 「リーフェもありがとうね。」

 

 「あら、どういたしまして。」

 

 ひかりつよくなって、めた。

 

 あたりはまだくらい。

 

 睡眠すいみんしつわるいのかな。

 

 ちょっとかんがなおさなきゃいけないかな……。

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