第15話変わる季節と秋の空
あぁ〜何で走ってるんだろう……ノノが言うには役者には体力も必要らしくて、毎日ジョギングをしろと言われてる。
隣で走ってる季節は「ダイエットになるから」とか言ってたけど、こいつダイエットしなくても充分細いじゃん。
チラッと季節を見てみるが辛そうには見えない。
「秋斗ー!ラスト1周頑張ってー!」
俺の表情を読み取ったのか、ベンチに座ってパソコンを弄ってるふゆこが応援してくれる。
俺はその応援に右手を挙げて応える。声を出す気力は無い。
正直、もう疲れていた。
毎日毎日、ジョギングをし、演技の練習、休む暇も無い鬼スケジュールだ。
夏火もノノと一緒に秘密の特訓をしてるらしいが、どんな事をしてるのか分からない。
俺達は二つのグループに分かれていた。
一つはノノと夏火。そしてもう一つは俺と季節とふゆこだ。
正確に言えば俺と季節は各自自主練で、ふゆこは俺か季節のどちらかのサポートなんだけど、めんどくさいから一緒にやろうって事になったんだ。
俺達がするのは主に演技の練習。
演技の練習と言っても俺と季節では異なる。
俺の場合は、感情を込める練習だ。
とにかく俺は大根過ぎて台詞が棒読みになる。
そこを克服するには、先ずキャラに感情移入をする事が大事だと言われた。
そして背景だったりキャラの気持ちを想像する力を上げる事。
例えば単語一つとっても、出身地…つまり方言によってはアクセントが違ってくるし、同じ言葉でも喜んでるか、悲しんでるかでニュアンスが変わってくる。
後は、表情の作り方や歩き方とか体の動きとか色々あるんだけど、流石のノノもそこまでは求めなかった。
逆に季節は、キャラの立て方なんかは上手いんだけどカメラを前にすると恥ずかしがる。
それを克服する為に公園で、人に見られたりしながら練習してる。
そしてふゆこは、ノノから太鼓判を押されてるほど演技は完璧らしい。だから俺達のサポートに回ってる。
サポートだけじゃ暇だからと動画の編集を勉強してる。
俺達がやってる事はざっとこんな感じだ。
「2人ともお疲れ〜」
ジョギングが終わり倒れ込む俺とその場に座り込む季節にふゆこが駆け寄る。
水の入ったペットボトルの蓋を開けて渡してくれたので俺は{ゴクゴク}と一気に飲み込む。
その間、ふゆこがタオルで汗を拭いてくれる。
「ぶはー!」
500mlの水を飲み干した俺は呼吸を整える。
もう12月に入り肌寒いって言うのに俺は汗だくで心臓が{ドクンドクン}と脈を打つ。
「秋斗大丈夫?」
ふゆこが心配してくれている。
男として異性にダサい姿を見せ続ける事は出来ない。
俺は汗を拭いてくれてるふゆこからタオルを受け取り
「もう大丈夫だ。ありがとうふゆこ」
と、無理をする。
勿論カッコつけてるだけだから内心は結構ヤバい。
そんな俺の姿を見てふゆこは季節の所に行く。
何となく季節の方を見ると、季節もグロッキーになっていてベンチに倒れ込んでいた。
ーったく、なんでこんな思いしながら頑張ってるんだろうな。ふとそんな事を考えてしまう。
※
学校の授業が終わると、私は公園へ行き公園の中を10周走る、走った後は演技の練習。
そんな事が日課となりつつあった。
「とりあえずお疲れさん!」
秋斗がそう言って帰り支度をする。
もう12月になってるので日が沈むのが早い。辺りは真っ暗だけどスマホの時計には6時32分と表示されている。
「まだ6時なのに真っ暗だよ!」
ふゆこが愚痴る様に呟いた。
「あとめちゃんこ寒いよな!」
ズボンのポッケに手を入れながら秋斗が話に乗る。
「皆、風邪には気をつけてね」
と、私は身を案じる。
私達は荷物を学校のバッグに入れ公園を出るのだった。
「なぁー!俺達って冬休みあんのかな?」
「そうねー流石に休憩したいかも。ふゆこは休憩欲しい?」
「ん〜私はまだまだ編集勉強したいから冬休みがあってもパソコン弄ってると思う」
「ふゆこは真面目だなー!てかさ?2人はクリスマスの予定あんの??」
あくまでも話のネタだと分かる。
でも私もふゆこも黙り込んでしまう。
「お、おいおい、分かりやすく黙り込むなよ」
秋斗は何も悪く無いのに分かりやすい様に動揺する。
チラッとふゆこの方を見ると口を開きそうにない。しょうがない…私から切り出すか。
「なに動揺してんのよ。私はクリスマスの予定なんか無いわよ」
「ふゆこは?」
「わ、私も無いよ」
「はあーぁ、俺達ってさ?顔は良い筈だよな?そんな3人がリア充イベント無いなんてなぁ〜」
「顔は良いって自分で言う?」
「忘れがちな設定を言ってんの!」
「設定と書いてステータスと読むんだよね?」
「さっすがふゆこ〜分かってるぅ〜」
秋斗とふゆこが互いに親指を立てる。
この2人妙な所で相性良いよね…と呆れながら私は2人を見ていた。
そんな会話をしていたら別れ道に辿り着く。
ふゆこと秋斗はもう少し先の所で別れるが、私はここで別れるのだ。
「じゃ、またな季節」
「またね美衣子」
「うん、またね」
手を降り2人に背中を向ける。
クリスマスかぁ…そんな時期なんだね。
空を見上げると点々と星達が輝いていた。
夏火って今何してるんだろ――
――そんな事をふと、考えながら私は家へと向かった。
※
「んじゃまたなー!気をつけて帰れよー!」
そう手を振りながら俺はふゆこと別れた。
ここから家までは歩いて数分だ。
このまま家に帰っても良いが、俺は少し遠回りになるがコンビニに寄る事にした。
本来なら真っ直ぐ行く道を左に曲がる。
曲がってすぐに俺は後悔をする
「うぅ〜さっぶ!」
夜になると冷たい風が更に強くなる。
あぁ、帰ってれば良かったかなぁ……そう思うが来た道を戻るつもりはない。
スマホを見ると時刻は7時になろうとしていた。
「まだ帰るには早いんだよな」
帰る事に早いも遅いもないと思うが、何故かすぐに家に帰りたくない気持ちになる。
辺りは街灯に照らされ思ったより明るい。
「でも早く帰るか…」
俺は早足でコンビニに向かう。
目に見える距離にコンビニの看板を見つけた。
何買おうかな〜と思案するも特別買いたい物もない。
とりあえず小腹空いたから唐揚げでも買うか…後は飲み物…で良いかな。
コンビニの入り口が見えて来たところで後ろから靴音が響いてくる。
{びくっ}とした俺は反射的に足音のした後ろを振り向くと誰かが走っていた。
時折街灯に照らされる誰かに俺は見覚えがあった。
長い金髪が街灯に照らされキラキラと輝くその女性は、全力疾走には似合わない服装をしていた。
真っ白なワンピースで、所謂ロリータファッションと呼ばれる服装だ。
そして――
――俺達はすれ違う
すれ違う時に女性と目が合い長い髪が俺の頬をなぞった。
一瞬にして、俺を通り越して行く女性の後ろ姿を見送ってると少し遅れて男2人が走って来た。
「くそ!あの女早すぎだろ!」
「絶対逃すなよ!」
そんな会話をしながらヤンキー風な2人は俺を追い越して行った。
状況から察するにあの2人から追いかけられてるって感じか…。
このままシカトする事も出来たが、追いかけられてる女性は知り合いだ。
「放っておく訳にはいかないっしょ」
俺は追い掛けるために走り出すのだった――
※
「はぁ…はぁ…はぁ…」
もう無理!これ以上は走れない!
ーったく、アイツら何なのよ!!?
私は走り続けた疲れからその場に立ち止まった。
「ここどこよ…」
どうやら高架下のトンネルに居るみたい。
トンネルの中だけあって電気が点いてて明るい。
どうする?お姉ちゃんには電話したけど場所分かるのかしら?
「何か武器になる物…」
辺りを見渡しても武器になる物はない。
普通こう言う所ってカラーコーンとかそのカラーコーンを繋ぐ棒があるもんじゃないの!?!
ヤンキー漫画とかだと高確率で出てくるのに!!!
「追いついた!!」
馬鹿な事を考えていたら2人組の男に追いつかれた。
「アンタ達何者?!」
「恨むんなら姉を恨むんだな」
その言葉を聞いて私は確信した。
多分お姉ちゃんの……
「お姉ちゃんに勝てないからって私を人質にするって事??」
「まあ、そんな所よ」
「男の癖に卑怯な事しか出来ないのね!」
「あの姉を持つだけはあるな。この状況でもそんな口が叩けるとは!」
バーカ!強がりに決まってんでしょ!
私はお姉ちゃんと違って普通の女の子よ!喧嘩なんか出来ないっつーの!!
「それよりボス…この子めちゃくちゃ可愛いくないですか?」
「へへ、お前も思ったか?あのゴリラの妹にしては超可愛いよな」
「ただ捕まえるだけじゃ面白くないっすよね?」
男2人が私をイヤらしい目で見てくる。
そんな2人に私は嫌悪感しか抱かない。
「キモいんだよ!私に近付くな!」
そう言いながら少しずつ後退りする。
「別に処女って訳じゃないんだろ?あんな事してるんだからさ」
「こっちにだって選ぶ権利はあるっつーの!」
「げへへ、その強気な所もたまんないなぁ〜」
「よし、捕まえるぞ!」
「クソ!」
逃げる気力もない私は捕まる覚悟をした。
その時だった――
「その子から離れろ!!!」
2人組の男達の後ろから声が響いた。
その声の持ち主はさっきすれ違った男性だった。
あの2人から逃げてる時に学生服の男子を見つけた。
助けを求めようとしたが、その男子が振り返ると知ってる顔だったのだ。
なので私は、その場で助けを求めるんじゃなく、すれ違う時に目線を送った。
どうやら作戦は成功した様だ。
夏火が近くに居るか、連絡を取ってくれればそのままお姉ちゃんに連絡が行くはずだ。
そしたらお姉ちゃんが来てくれてコイツらをボコボコにしてくれる……って計算だったんだケド………なんか様子が変?
どう見ても生身。武器も持ってない。それどころか1人?
「あぁ?!なんだおめぇー!!?」
「おい、落ち着け!」
「チッ!」
「なあ兄ちゃんよ?ここは見なかった事にして家に帰るんなら俺達は見逃してやるぜ?」
そうよ、帰りなさいよ。
どう見たって勝てる相手じゃないでしょ?!
「それは断る!」
男はそう言い放った。
「おいおい…誰だって痛い思いはしたくないだろ?もっと利口に生きた方が良いぜ?」
ボスと呼ばれた男が呆れながら言った。
そうだよ、私もその言葉には賛成だ。
他人の為に傷付く事なんてないんだよ…
「だから断ると言ってる!!!」
力強くそう言うも私にはハッキリ見えていた。
恐怖で足が震えているのを、自分を鼓舞しようと自分の腕をつねっているのを。
なんで、何でアンタはそこまで――
「おい、アズマァ!!!やって良いぞ!」
「待ってましたぁボス!」
そう言って下っぱが肩を回しながら気持ち悪い笑みをこぼしながら秋斗に近付く。
「んじゃあ、俺はプリンセスを。」
そしてボスと呼ばれた男が私の所へ歩み寄る
※
「アイちゃんに近付くなぁぁ!!!」
俺はそう言って目の前の男を無視してボスの元へ行こうとする。
「お前の相手は俺だよ」
そう言って俺は腕を掴まれる。
「離せよ!」
振り払おうとしても強い力で掴まれてて振り払う事が出来ない。
「うっせーんだよ!」
ドコォ!!!
「グハッ、、」
い…てぇ……思いっきり腹を殴られて俺は一瞬息を出来なかった。
「ゴホッゴホッ」
殴られるってこんなに痛いのかよ…たった一発なのに……クソ!クソクソ!俺はこんなにも弱いのか
「まだまだ終わりじゃねーぞ!」
そう言って俺は顔面を殴られ吹っ飛ぶ。
「ガッ!…いてぇ…」
我ながら情けない声だ。
腹も顔面も痛いけど、何か痛みが消えてきた。
アドレナリンってやつか??
「ほら、もう一発行くぞ」
倒れてる俺にまたがり更に一発顔面に繰り出そうとするのを見て
「や、やめてくれ」
俺は両腕を上げて顔面をガードする
「そうするとな?こっちがガラ空きになるんだよ」
そう言って[ドカッ]と腹を蹴る
「ガハッ!」
「ほらほら〜」
ドカッ!バキッ!
何度も何度も俺は腹を蹴られて意識が遠のきそうになる。
「アイ…ちゃん……」
自分が声を出しているのかも分からない。
もうこのまま殺されるのかな…そんな事も過った。
自分の弱さが憎い。好きな人も守れない自分が悔しい。
何で俺はこんなにも――
――弱いんだ。
※
「狙いは私なんでしょ!?アイツを止めさせなさいよ!!」
「プリンセスも聞いてただろ?俺は忠告したぜ?それでも逃げなかったアイツが悪いのさ」
嘘でしょ?一般人相手にあそこまでする?これ以上は本当にヤバいんじゃ…
「秋斗!!!アキト!!!」
私は必死に秋斗の名を叫ぶ。
「秋斗!!!アキト!!!アキト!!!」
あぁ、私のせいだ。私が安易に秋斗を巻き込んだから…秋斗が……秋斗が死んじゃう。
「ねえ!何でも言う事聞くからアイツを止めてよ!」
目の前のボスと呼ばれる男に私は懇願する
「へ〜プリンセスでも誰かの為に泣くんだねぇ〜」
自分が泣いてる事に気付いていた。
照れも恥もそんな事関係ない!!!私のせいで誰かが傷付くのは嫌だ!
「いいから早く!これ以上は死んじゃう!!」
「分かった分かった。おいアズマァ!!!」
その声が響くと共に下っぱの執拗な蹴りが止まった。
私は止めさせたと思って{ホッ}とする。
いや、ホッとしてしまったのだ。
「アズマ、遊びはやめろ。そいつを殺せ」
{ハッ}と私は目の前の男に視線を送る。
その男は私の視線に気付くと気持ち悪く{ニヤニヤ}と笑う
「関係ない人を殺すの?」
「プリンセスの絶望した顔が見れるなら殺すさ」
「ふざけんな!簡単に人を殺すなんて言うな!!」
「良いね〜感情的なプリンセス見てると変な性癖が開花しそうだ」
目の前の男は、どこからか折りたたみナイフを出し下っぱの男に向かってそれを投げた。
「げへへ、良いんすか〜ボス?」
「あぁ、未成年の誰かを身代わりにする。国は未成年には甘いからな」
「んじゃ遠慮なく行きますね」
刃の部分を出し、既に意識がなくなってる秋斗の心臓部分に狙いをつける
「秋斗!起きて!アキト!!!」
私の必死な叫びは秋斗には届かない。
もう駄目だと覚悟し目を瞑った――その瞬間―――
ドカアァ!!
強烈な音が響いてナイフを持った男が宙に舞った。
そう思ったと同時に[ドカァ]とまた鈍い音が響き渡る。
「ごめんなぁラブ。遅くなっちまった」
聞き覚えのある優しい声が、トンネルの中に反響する。
私は{ホッ}とすると同時に涙を流す
「あ、秋斗が…」
お姉ちゃんに秋斗の事を伝える。
「大丈夫だ。生きてるよ」
「良かった…」
その言葉を最後に私は意識を失うのだった。
※
「秋斗!!!アキト!!!」
誰かが俺を呼んでいる。
見覚えのある人物だ。
…泣いてるの…??俺の為に涙を流してくれてるの??……ダメだなぁ俺は。
守らなくちゃいけない人を泣かせちまった。
「アイ…ちゃん…」
そう呟くと同時に強烈な痛みに襲われる
「いっ、て…」
身体中が痛い。
何で俺こんな痛い思いしてるんだ…??
……そうだ、思い出した!!
「アイちゃん!!!」
[ガバッ]と起き上がると急に体を動かしたせいか猛烈な痛みに襲われる。
「いててて」
立ち上がるも痛みのせいで倒れそうになる。
「無理すんなよ」
優しい女性の声が聞こえる。
俺は声のした方に振り向くと、そこには赤色のバイクに跨った人物がいた
その人物には見覚えがあった。
第1に目立つ赤色の髪、その次に赤色のトップク。
「練灯さん??」
俺は頭に描いた人物の名を言う。
「おう。悪かったな」
練灯さんの言う言葉の意味が分からなかった。
そんな俺に気付いたのか
「いや、妹が狙われたのは私のせいなんだよ。つまり秋斗が巻き込まれたのも私のせいなんだ」と説明をする。
「アイちゃんは??」
「ん?あぁ、
「そう…ですか」
練灯さんが居るって事は、助かってると思っていたが、ちゃんと無事だと聞けて俺は{ホッ}とする。
それと同時に力が抜けたように倒れそうになる。
「あぶねー!」
そう言って練灯さんは俺を支えてくれた。
俺は弱いな。
何も出来なかった。
「すいません。俺何も出来なかったです…」
練灯さんに肩を貸してもらいながら俺は呟くように言った。
きっと呆れられてるだろうな…男なのに女1人守れなかったんだ。
ダセー奴とか思われてても仕方ないよな…
「秋斗、お前は良くやったよ」
練灯さんからの言葉は思いがけない物だった。
「え?」
「普通出来ないぜ?絶対に勝てないって分かってて、それでも立ち向かうなんてさ」
「でも俺はアイちゃんを泣かせました…守りたい人を泣かせてしまいました」
「私は嬉しいけどな。ラブが誰かの為に泣けるって知れて」
どうしようもなく惨めな俺に、どうしようもなくダサい俺に、練灯さんは優しい言葉をかけてくれる。
それはきっと、色んな苦難を乗り越えてきた人の言葉だからこそ、こんなにも心に響くんだ。
アイちゃんの実の姉だからこそ、こんなにも俺は……心が温かいんだ。
気付けば涙を流していた。
女性の前で泣く事は恥ずかしい事だ。
でも今はただ…俺を肯定してくれた事が嬉しくて…
「悔しいよ!!俺は。こんな思い…苦しい。目の前に居たのに……こんなにも無力で!」
「結果としてはお前が時間を稼いでくれたから私は間に合ったんだし、ラブも無事だった。何を悔しがるんだよ」
「でも何も出来なかったんです!!俺は強くなりたい!!俺を強くしてくれ!!もうこんな思いはしたくないんだ!!」
涙や鼻水で顔面をぐちゃぐちゃにしながら俺は練灯さんに縋りついた。
「いや、それは…」
「頼む!!頼みます!!!俺に力をください!!!」
自分でも無茶な事を言ってる自覚はある。
それでも俺はアイちゃんを守れる男になりたいんだ。
「とりあえず怪我治せ!家まで送って行くから」
遠回しに拒否られたと思った。
これ以上言っても意味ないと俺は練灯さんに誘導されるままバイクの後ろに乗ろうとした。
「家着いたら番号渡す。もし怪我が治っても気持ちが変わらなかったら電話すれば良い」
そう言ってヘルメットを渡される。
「それって…?」
「ほら、行くぞ」
こうして俺の長い1日は幕を閉じようとしていた。
‥と、その前に気になる事があった。
「そう言えば15歳ってバイクの免許取れないですよね?」
「あ?無免に決まってるだろ」
「…デスヨネー」
※
一方その頃、季節美衣子の部屋。
時刻は20時を過ぎていた。
私は何となく夏火の事が気になりスマホを握りしめていた。
「急に電話したら迷惑よね…?」
そんな独り言を言いながら夏火のスマホの番号を表示させていた。
「でも何を話せば良いんだろ」
夏火とは2週間ぐらいまともに話してなかった。
何故なら秘密の特訓と言って夏火はノノと一緒に行動しているからだ。
まさか…こんな遅くまで一緒に居るなんて事無いよね??
そんな不安もあった。
ノノと一緒に居る時の夏火は楽しそうにしている…私と居る時より笑ってる気がする。
ここの所毎日そんなマイナスな事ばかり考えてしまう。だから思い切って電話しよう!と思ったのだが、指が動かない。
「あ、明日で良いかな…」
そうだ!明日学校で話しかければ良い!よし、終わりだ!!
画面を消そうとした指を動かしたら間違えて発信ボタンを押してしまう
「えっ?嘘っ!!」
[ガチャ]と音が鳴り「もしもし」と夏火の声が聞こえてくる。
えっ!?出たの!??ヤバヤバヤバ!!!
と、とりあえず出ないと…
「も、もしもし??」
焦り過ぎて声が裏返ってしまって恥ずかしさのあまり私の心臓が素早く脈を打つ
「どうした?」
「えっと…い、今大丈夫??」
「今丁度ノノの家から出てきたから大丈夫だよ」
{ドクン}と力強く心臓が鳴った。
今…何て言った??ノノの家から出た??今って夜の20時過ぎだよ?それまで家にいたって事??
「え?今まで秘密の特訓してたって事?」
内心とは裏腹に冷静な口調で言葉を繋ぐ。
「今日は早く終わった方かな?いつもは21時過ぎまでいる」
「そ、そっか…どんな特訓してるの?」
「いや〜大した事じゃないよ。それよりそっちは?」
「あ、うん…私達も大丈夫。秋斗やゆきこと合同でやってるんだ」
「なら安心だな!」
「ねえ夏火??」
「うん?」
「私の事……」
どう思ってる?…そう言葉を繋げようとしたけど、声が出なかった。
「ご、ごめん。切るね」
そして強引に通話を切ってしまう。
どんどん夏火が遠くに行ってしまった気がした。
そう言えば夏火言ってたっけ私を誘ったのは、話しかけられる人が私しか居なかったからって。
それってつまり、私が必要だって事じゃないよね?今は秋斗も居るしふゆこも居るしノノも居る。
私って本当に必要なの…???
そんな疑問を抱きながら私の1日は幕を閉じるのだった
エフェクター(仮 @NIAzRON
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