第14話亀裂 

だだっ広い部屋に設置されたテレビから音が鳴り響く。


「今日のゲストは今話題の霧竜疾飛きりゅうはやとさんです」


そう紹介され顔の良い男性がテレビに映しだされた。


女はその映像を鋭い目で見ていた。

アナウンサーの質問に霧竜疾飛は丁寧に、時には冗談を交えつつ答えていた。


女は自分の親指を軽く噛む。

相変わらず目つきは鋭い。



「どうした?ノノ?」


自分の名前を呼ばれ女は我にかえる。


「あ、夏火来たんだね」

そして自分の名前を呼んだ男の名前を呼ぶ。


「いつでも来ていいって合鍵くれたのノノだろ」


「そ、そだね…」

ノノは慌ててテレビを消す。


「すっごい目つきで見てたけど、あの人知り合い?」

流石にスルー出来ず夏火は質問した。


「あ〜…」と気まずそうにするノノだが

「アニキなんだよね…」と質問に答える。


「兄貴!?!…確か今話題の俳優だよな??やっぱお前って凄い所のお嬢さんなんだな」


「家族の話は良いでしょ」

明らかに不機嫌にノノは言う


その態度に夏火は驚きつつ「ごめん」と謝る


「なんで謝るの?」


「いや、、なんとなく…」


微妙な空気が2人を包んだ。

夏火は心の中で後悔していた。


なんか地雷踏んだっぽい…。

そう言えばここ最近ずっと一緒に居るけどノノから家族の話は聞かないな。

 どうやらこの豪邸は別荘らしくて、ノノが一人で住んでるみたいだ。

これほどのお金持ちだから執事とか居ると思うんだけど、そんな人を見かけた事もない。


まあ、人様ん家の事を色々詮索するもんじゃないよな。

けど、全くの他人の俺が合鍵を渡され出入り自由って良いのか?



「何してるの?秘密の部屋行くんでしょ?」


ノノのその言葉を聞いて俺はノノと一緒に秘密の部屋に向かう。

最初は本棚のカラクリに感動すらしたが、今は特に何も思わなくなっていた。

 そりゃそうだ。あれから約3週間ぐらい経っているのだ。

初めて訪れた時に「いつでも来て良いから」と合鍵を渡され、それからはほぼ毎日の様にココに来ている。


流石に思春期真っ只中の男女が2人きりなんてマズイ…そんな事は分かっているが、そんな事を考える暇も無いほど俺はドラマに夢中になっていた。


秘密の部屋に入ると一緒に持ってきていたお茶をテーブルに置く。

さて、今日は何を見ようかな〜と周りの棚を見渡していると

「今日は座学をしよう!」とノノが言い出す。


「座学??」


「ちょっとしたテストみたいなものだよ!」

そう答えてノノは、長くて綺麗な黒髪を後ろで縛ってポニーテールを作る。


最近分かった事だが、ノノはヤル気を出す時に自分の髪をポニーテールにするみたいだ。

こっちのイメージが強く、普段の髪を下ろしてる姿は今だに慣れない。


「じゃあ、今まで見てきて面白くないと思った作品は何かある?」


テストと言っていたので身構えていたが、思いがけない事を聞かれ虚をつかれる。


「面白くないと思ったやつか…」

俺はそう呟いて思案する。


色んな作品を見てきた。

恋愛物からサスペンス、ホラーやファンタジー…どれも素晴らしい作品だったが、面白くなかったと言われれば一つ思い当たる。


「狩人のやつは面白くなかったかも」


タイトルも忘れたほどの駄作だ。

これは狩人が罠にかかったキツネを助けるとそのキツネが恩返しにくると言う話なのだが……何と言うか……


「あぁ〜あれね。例えばどこが面白くなかった?」


「なんて言うかさ…キツネが人間に化けてやってくるんだけど、その時に出されたのがキツネ鍋だったじゃん?それをキツネが美味しいって言って食べてるの凄い違和感あった」


俺は思った事をそのまま口に出した


「確かにね〜他は?」


「あとは最初に罠にかかったキツネを助けた所も、その罠を仕掛けたの主人公の狩人じゃん?元々は猪狙いだったからって事でキツネを助けたけど、狩人が罠仕掛けたのにそれで恩返しって言われてもなぁ」



「あれはね?ただの恩返しの物語じゃないの」


「え?どう言う事?」


「我々日本人は動物が恩返しするって言われたら自然と鶴の恩返しをイメージするでしょ?先ずそこから間違いなのよ」


「うんうん」


「アレは世の中の風刺がテーマなのよ」


「と言うと?」


「罠の件だと、人間は自分に不都合な事は何も言わないで利用する。キツネ鍋は、人から出された物は警戒しましょう…とかさ?そう言う事を言いたいのよ」


「ほ〜なるほど」


ノノの説明に納得する。

つまりあの物語を鶴の恩返しみたいなほのぼのとした作品だと決め付けた時点で俺の負けだったって事か。

 先程挙げた事以外にも色々と引っかかった事があったが、見方を変えたら{なるほど}と納得する。


「もう一度みたいかも」

その言葉に嘘はなかった。


俺のその言葉を聞いたノノは{ニヤ}と笑い「この様に制作側の意図が視聴者側に伝わらない事もあるわ」と満足そうな顔で言う。


「あ、それと【あふれる光の中で】はどうだった?」


ノノの言った【あふれる光の中で】とは【ありふれた光の中で…】の続編の事だ。

俺は【ありふれた光の中で…】を見て、とても感動した。

所謂ありひかロスを経験したのだ。

この後、主人公達はどうなったのか?幸せになれたのか?様々な事を妄想した。

そんな中

「あの作品、続編の声が大きくて映画で続編やったんだよ」と、言われ【あふれる光の中で】を見た。


見てから後悔した。

あれは続編なんか作っちゃダメだったと思った。



「あれは微妙だったよ。何でもかんでも続編を作れば良いってもんじゃないだな」


「そこよ!!当時も続編は微妙だったと酷評されてたわ」


「結局さ、物語の続きを妄想してる時が一番楽しいんだよな」


「そう言う事。夏火はこの3週間で色んな事を体験して学んだんじゃない?」


「レベルアップしたって感じはある」


「ところで来週は冬休みね?丁度クリスマスイブから」


「そうだな」


「冬休みはメンバー皆を呼んで合宿よ!」


「へ?合宿??」


「まだまだエフェクターのレベルは低いわ。冬休み中には形にしないと」



ノノの提案は有難い。

だが、どこか急ぎ過ぎてる気がする


「俺はエフェクターの活動を来年から始めようと思ってるんだよ。ノノは何か焦ってるって言うかさ?急ぎ過ぎてるキライがあるんだけど、何かあるのか?」


俺がそう言うとノノは俯き黙り込む。

思い返してもそうだ。

ノノは何か焦ってるんだよ。


確かにレベルアップはしてる。

それはメンバー皆感じてる事だ。

でもそれは決して楽な事じゃない。

 ノノには必死さがあった。その必死さに付いていけない事もある。

まだ俺たちには来年があるにも関わらず、僅か数週間で皆をレベルアップさせた。


秋斗が愚痴ってたのを思い出す

「なんかちょっとなぁーきついんだよなぁ」


それに同調するふゆこの言葉を思い出す

「最近は寝る暇もないよ」


みぃもこんな事を言っていた

「ノノは違う所を見てる感じがする」


この上、合宿だなんて皆の不満が爆発するのは目に見えてる。

メンバーだけじゃない、俺だってそうだ。

普通合鍵を渡してまでドラマを見ろなんて言うか?

俺は奇跡的にドラマにハマってるからキツいとか思わないが、これは普通じゃないぞ??



「でもネオエイターで成功したいんでしょ?」

そう言うノノの視線は真っ直ぐに俺を見ていた


「そりゃあ…な」


俺にはネオエイターとして成功しないといけない理由がある。

お金を貯めないといけないんだ。


「だったらもっと頑張らないと」


ノノは正しい。

努力もしないで成功するなんて、そんな甘い事はない。

でも、行き過ぎた努力は身を滅ぼす事もある。


「合宿は、ちょっと厳しいんじゃないか?」


「なんで?」


「皆疲れてる。冬休み丸々休ませたいとは言わない。けど何日かぐらいは休憩させたいんだ」


「冬休みは短いわよ?休憩なんてしてる暇無いと思うけど」


「分かった。明日皆に聞いてみよう」


「そうね。2人で揉めても意味ないし」


こうして俺は微妙な空気の中、ノノの家を出るのだった。

そして次の日――



「悪いがもう付いていけない!!!」

秋斗が背を向け階段を降りていく。


「私もちょっと…ね…整理したい」

みぃも秋斗に続く様に階段を降りていく


「これじゃ私が悪者みたいね」

ノノも階段を降りていく


「夏火どうするの?」

不安そうにふゆこが俺に話しかける


「まあ、こうなるだろうな…今日は一先ず解散だ」

そう言って俺も階段を降りていく



――俺達はヤバい状況に陥ってしまった。

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