第13話5人目

「ノノ…って言ったっけ?」


俺は何故かあの女の所に居た。


「そう言う貴方は夏火だよね?」


彼女……ノノは何故か台詞口調で言う。


「あぁ、そうだ。俺の名前は戰刃夏火。エフェクターと言うグループを作り将来はネオエイターを目指してる夢見る少年サ」


俺もノノに合わせる様に台詞口調で言った。

それを聞いたノノは僅かに{ニヤリ}と笑う。

そして今度は腕を大きく動かしながら

「夢見る事は大事だワ…でも夢ってのは追いかければ追いかける程逃げていく物ヨ〜」

 まるでミュージカルの様に動きながら歌いながら言葉を紡ぐ。


「ラララ〜だからこそ人は〜必死になれる〜」


こんなやり取りをしていると知ってる奴の声がした

「朝っぱらから何やってんだ?」


「うげ!秋斗!?」

思わず相手の名前を叫んでしまう。


「夏火ってアレだな…意外とノリ良いよな」

若干引き気味に秋斗が言った。


「いや、まあ、そう言うんじゃないけどよ?!」

と、必死に言い訳するも上手い事言えない。


「それよりも季節とふゆこ以外の女子と話してるの意外だな?学校にも居たんだな女の友達」


「いや!違う!…てか!秋斗丁度良い!!!お前も一緒に居てくれ!」


「は?どー言う訳ぇ??」


「この女の名前はノノ!友達って訳じゃない!」


「じゃあどー言う関係よ?朝からミュージカルやるぐらいだろ?」


「だから!それは!忘れろ!!」


「それよりも俺も話があるんだけど…」


「え?話??」


「春野って子を探してるんだよ」


「春野?誰?…え?どう言う事??」


「いや、それがさーー」



「もう良いかな!!?」

俺と秋斗の会話を遮る様にノノが大きな声を出す。


俺達2人は急な事に驚きノノの方を見て固まった。


「三浦秋斗君…だよね?君が私の事探してたのは知ってるよ」


「は?…え??」

何の事か分からず困惑する秋斗。


「改めて自己紹介するよ。私の名前は春野ノノ。単刀直入に言うね?私をエフェクターに入れて!」



前置きはかなり長くなったと思う。

だが、俺の朝はこうして始まった――




中学生編、最終章―開幕―




キーンコーンカーンコーン

今日一日の終わりを告げる鐘が鳴る。

俺達は、その鐘の音を聞いたと同時に屋上へと続く階段の踊り場に集まる。

 今日の集会はとても大事な話をする。

本来なら4人なのだが、今日は5人がその場に集まった。


「あれ?あなたは!?」

開口一番、ふゆこの声が響き渡る。


「ちゃお⭐︎」

ノノが軽く挨拶をした


「え?2人顔見知り??」

秋斗が質問をする


「えっと…」

ふゆこは、どう説明すれば良いのか分からないのか困惑した表情をしながら口噤んだ。


「私が一方的に話しかけただけだよ!ね?先守冬子さん??」

困惑したふゆこをフォローしたのか、ノノがそう説明した。


「でわ、本題に入ろうか」

一通り会話も済んだと思ったから俺は本題に入る


「昼休みに説明した通り、エフェクターに新メンバーが入る事になった」

そう言ってノノの顔を見る


「って事で!よろしくね〜。私の名前は春野ノノ、ノノって呼んでね!」



こうしてノノを新メンバーに加えエフェクターは無事5人が揃ったのだった。

ノノの参入はエフェクターにとって、とても価値のある事だった。

 ノノは演技に詳しかったので、演技指導をしてくれたり、何故かドラマにも詳しく脚本やカメラ関係の事も色々と教えてくれた。


それから約1週間が経った。

どうしようもないほどアマチュアだった俺達は、ある程度はマシと言える程の成長をした。

 そしてノノの性格だろうか。距離を詰めるのが上手かったのでノノはすぐにメンバーとも仲良くなって行った。


そんなある日、俺はノノに話があると呼び出された。


「どうした?」


「皆凄いね…演技の方は大丈夫だと思うよ。特にふゆこ。あの子は女優としての才能があるよ」


「へ〜そう言うのも分かるんだな?」


「秋斗も美衣子も役を考えるの。勿論それは夏火にも言えるんだけど。でもね?ふゆこは役を考えないの」


「それって凄い事なのか?」


「えぇ、凄い事よ。ふゆこは感覚的に役を演じるの。…いや、演じるんじゃない、役そのものになるのよ」


その説明だけで、どう凄いのかは俺には分からなかった。でもノノが凄いって言うんなら凄いって事だろう。


「と、まあ、そんな話は置いといて…」

{コホン}と一つ咳払いをする

「夏火、今日の放課後、時間ある?」


「ん?まあ、遅くならない程度なら。」


俺には門限はない。

つっても流石に遅過ぎるのは嫌だからそう言った。


「じゃあ、私の家に来てよ」


これが人生で初めて女子からのお誘いだった。

え?みぃとは幼馴染だから家に誘われた事ぐらいあるだろって?…そりゃあるけど、小学生の時だからノーカンだろ?


そして放課後を迎えるとエフェクターの溜まり場にはメンバー皆が揃っていた。


「秋斗は、この前教えた感情を乗っける練習を。美衣子は、まだ照れがあるから公園とかで台詞を声出ししながら練習!冬子ふゆねは秋斗か美衣子のお手伝いをしてあげて」


集まって早々にノノがメンバーに指示を出す。

これだけ見ればリーダーとしての面目丸潰れだろうが、俺は何をするにも適材適所だと思ってるから気にしない。


「そして夏火は私と秘密の特訓ね!」

俺の方を向きウインクをするノノ


「秘密の特訓って?」

ごもっともな質問を秋斗がする


「それは内緒よ!…でも必ず成長させるわ!」

自信満々に言うノノは、どこか説得力があるのでこれ以上は誰も何も言わなかった。


「じゃあ、各自頑張ってくれ!」

最後の締めに俺がそう言って皆は解散した。



皆と別れて俺はノノと学校を出た。

普段行かない道を行く事に躊躇いがあったが、知らない道を開拓していくワクワク感もあった。

見るもの一つ一つが新しかった。

ここにコンビニ、ここには書店、ここはカラオケ…地元と呼べる場所の知らない景色に俺は夢中になる。


「そんなに珍しい?この道」


辺りをキョロキョロと見回してる俺に不思議そうにノノが聞いてきた。


「あぁ、俺ん家逆方向だからコッチには来た事なくてね」


「私はいつもの道だから見飽きてるわよ」


「でもさ?こっち方面って割と静かだよな?」


「そうね、向こうだと大通りとかあったり騒がしいもんね」


そんな他愛のない会話を数分していたらノノが立ち止まり「ここよ」と言った。

ノノが「ここ」と言った所には豪華な家が立っていた。

立派な門があり、左右に開くタイプのやつでその先には庭があったり…正に豪邸と呼べる家だった。


「凄い立派な家だな」

俺は思わずそう呟いた。


「そう?別荘なんだけどね。さ、入って」

そう言ってノノはリモコンみたいなのを押し門を開ける


「え??ここノノの家!?」


さも当然の様に入っていくノノに驚きつつ俺は後を追う。


「ねえ?最幻児良さいげんじりょうって知ってる?」


最幻児良と言えば有名な役者だったんじゃなかったか?正直そのぐらいしか知らないけど、めちゃくちゃ有名な人だ。


「確か俳優さんだよな?」


「そーそーあれね、私のパパなの」

ノノは{ガチャ}と玄関の鍵を開け扉を開く


「えっ!?パパ!!?」

驚く俺を無視して「さあ、入って」とノノが促す


玄関は我々庶民が想像する様なチャチなもんじゃなく、人が住める程の広い物だった。

でも最幻児良の家だと思ったら納得出来る。


ノノが用意してくれたスリッパに履き俺はまたノノについていく。

あれ?待てよ…最幻児良って確か同じく女優の美星茜みほしあかねが妻だったよな…??……って事は…


そんな俺の思考を読み取ったのか

「そうだよ、美星茜はママだよ」とノノが告げた。


「おまっ!!凄い所のお嬢さんじゃねーか!!!」

俺は思わず声を荒げてしまった。


美星茜は美魔女と呼ばれこの前テレビで特集みたいなのがやってた。

若い頃は勿論、今でもかなりの美人で年齢的にはオバサンになるんだろうが、10代の俺から見ても全然若い容姿で子供が2人居るって言ってて驚いた記憶がある。

 そう言われてみればノノと美星茜はどこか似てる感じがする。つかノノって良く見たら美人だ!!


出会いが出会いだったし、コイツの性格的に変な奴のイメージがあってちゃんと意識しなかったけど、あぁ、、駄目だ、、意識しだした途端心臓の鼓動が速くなる。


今俺、、ノノと2人きりだ……


って!馬鹿野郎!!!変な事考えるな!!!

くっそー!思春期真っ只中の男の子にはキツい現実だぜ…


そんな風に俺が自分自身と戦っていると「着いたよ」とノノが言った。

ただ後ろから付いてきてただけだけど、階段を登ったり長い廊下を歩いたりして辿り着いたのが書庫だった。


ちょっとした図書館みたいな感じに沢山の本棚が並んであった。


「こっちこっち」

そう言ってノノは奥の方の本棚の所へ俺を誘導する


「見てて」

ノノはそう言うと目の前の本棚に並べてある一冊の本を取り出す。

それは分厚い本の形をしているが、中身はくり抜かれてありボタンが付けられていた。

 そしてノノがそのボタンを押すと{ガガガ}と機械の様な音が鳴り目の前の本棚が左右に動く。


ガガガガガ…ガチャン

機械音が止んだ時には隠されていた扉が姿を現した。


「リアルで初めて見た」

俺はそう呟く。


「えへへ〜凄いでしょ?パパの秘密の部屋なんだよ」

そう言ってノノは{ガチャ}と扉を開け中に入って行く。

俺もそれに釣られる様に中に入るのだった。



秘密の部屋の中は10畳ぐらい?の広さで周りには棚が円形に設置されていた。

その棚の円の中には、大きな液晶テレビが置いてあり、テーブルと座椅子が置かれてあった。


「秘密の部屋って言ったけど、この部屋はなんだよね」


「こんな所で勉強してるの?」

俺はつい、思った事を口に出してしまう


すると{クスクス}とノノが笑い

「勉強って学校の勉強じゃないからね?」と訂正をする。


「じゃあ何の勉強??」


「周り見てよ」


ノノのその言葉を聞いて周りの棚を見ると、びっしりとDVDが並べてあった。


「これは全部ドラマや映画だよ。ミュージカルとかも少しあるかな」

そう言ってノノは棚から一枚のDVDケースを取り出す


「ありふれた光の中で…って知ってる?」


「いや?」


「10年…もうちょい前かな?の作品だから知らなくて当然だよね。でもこれ恋愛物のドラマの中では神作と呼ばれてる作品だよ」


そう言いながらノノはケースからディスクを取り出しセットする。

セットが完了するとノノは俺の方を向き


「って事で!これから夏火にはここでドラマを学んでもらいます!」

と、高らかに宣言する。



――こうして俺の秘密の特訓が幕を開けるのだった。








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