第12話乙女の姉と悪魔の妹と。
ヒトメボレだった。
あんな可愛い子そうそう居ない…だから俺はこの日に賭けていた!
…なのに!夏火どこ行ったんだよ!?この人混みの中で見事にハグれた。
だが、夏火を待ってる暇はない。
{どくんどくん}と心臓が脈を打つ。
そりゃそうだ、ナンパなんてした事ないんだから緊張しない方がおかしい。
でも不思議と脳は{フワフワ}していて、まるで夢の様な感覚に陥り、怖いものなど無い気分になる。
大丈夫だ!今ならいける!!
「すいませんちょっと良いですか?」
そう声をかけてロリータファッションの女性の肩を叩く。
「私、、ですか?」
俺に声をかけられ振り向いた彼女は、メチャクチャ可愛いかった。
長くて綺麗な金髪、目はクリクリっと二重でまつ毛も長い。身長も小さめで肌は白く、本当に人形が動いてる様だった。
「えっと…」
言葉が詰まる、でもここまで来てビビってる訳にはいかない!俺は自分を鼓舞し
「一緒にご飯でもどーですか?」
よし!誘った!!!言ったぞ!!!
普段の俺は異性にモテる。
異性と話すのなんて簡単だと思っていた、でもそんな俺がこんなにも緊張してる。
相手はそれほどの人だ。
「はい、私で良ければお願いします」
相手の女性はそう言って{ニコ}っと笑う。
はあぁぁ…なんて可愛いんだ。
…って!これってナンパ成功したって事!?!うへっ!やれば出来るじゃん俺!!!
「俺は
「私の事はアイ…と呼んでください」
「じゃ、じゃあ、アイちゃん行こうか!」
俺は何となく右手を差し伸ばす。
するとアイちゃんは左手で俺の腕を掴む、
こうして俺たちは一緒に歩き出した。
一緒に歩いてると周りの男達の視線が俺に向いてる事に気づく。
どいつもこいつも「先に声掛ければ良かった」と言った顔をしている。
おいおい冗談だろ?そんな勇気無かった癖によ、、ほら見ろよ、お前らに出来なかった事を俺はした!そしてそれを掴み取ったんだ!!……そんな惨めな優越感に浸っていたら気付くと人気のない路地裏に来ていた。
あれ?何でこんな所に??
そんな疑問が頭から離れない。
「秋斗くんは、どうして私に声をかけてくれたの?」
隣からそんな可愛らしい声が聞こえてきた。
「えっ?…それは、アイちゃんが可愛いから……声をかけたんだよ」
そう言うとアイちゃんは「ほんと?嬉しい」と俺の顔を覗いてくる。
うわぁ、メチャクチャ可愛い…。
目はクリクリっとしてて、まつ毛も長い。
ぷにっと柔らかそうな唇……あぁ、ダメだ。2人っきりの空間で、こんなにも至近距離に顔があったら……キスしたくなる。
いやいやいや、何を考えてる!流石にそれは…それは……
「ねえ?良いんだよ?」
アイちゃんがそう言い目を瞑る。
え?良いって……き、キスしても良いって事!?
{どくんどくん}と心臓の鼓動が速くなる。
ま、マジかよ…き、キスするぞ…するからな!
俺はアイちゃんの唇に自分の唇を重ねようとする
あと3cm…2cm……いけ!俺!!
「そのぐらいにしとけよラブ」
男の声が聞こえてきた。
その途端、アイちゃんは{ハッ}と後ろを向く。
「なんでアンタが居るのよ…」
さっきまでの雰囲気とは一転して、鋭い視線で相手を射抜くアイちゃん。
「悪りぃなラブ、秋斗は俺のダチなんだよ」
そう、声の主は夏火だったのだ。
え?夏火と知り合いなの?俺は頭が?で埋め尽くされていた。
「ラブって言うのやめて!分かってるでしょ私がその名前嫌いなの!!」
「何が不満なんだよ?可愛い名前じゃんか!」
「てかさぁー!ダチって言った?アンタ友達0のボッチじゃなかった?」
「うるせぇー!こっちにも色々事情があんだよ!」
夏火とアイちゃんの言葉のラリーが続く。
俺はそれを黙って……いや、入る隙間もないから見守るしかない。
それにアイちゃん…さっきとはキャラが全然違くない??
「と、言う事で今回の狩りは中止だラブ」
夏火ともアイちゃんとも違う女性の声が聞こえてきた。
その声がした方を見ると赤いトップク?を着たマジもんのヤンキーな女性が立っていた。
「お姉ちゃん!」
そう言ってアイちゃんは赤いヤンキーの女性の元に駆け寄る。
…え?お姉ちゃんって言った???情報量多過ぎて頭がパンクしそうだ。
「まあ、つまりそう言う事だよ秋斗。ほら帰るぞ」
夏火が状況を理解出来てない俺の腕を引っ張る。
「おい、ちょっと待てよ夏火」
と、引き止めたのは俺じゃなく赤いヤンキーだ。
「なんだよ?」
「私らの狩りを邪魔したんだ…礼ぐらいしていけよ」
「は?俺金ねーよ??」
「夏火が無くても……なあ??」
3人が一斉に俺を見る。
「お、お金?俺が払うの?…い、幾ら??」
※
「てか夏火、改めて説明してくれよ」
丁度ご飯を食べ終わったタイミングで秋斗が話を切り出した。
俺達は綾愛の提案でファミレスに来ていた。
4人用のテーブルで椅子はソファ椅子だ。
綾愛とラブが一緒に座り対面する様に俺と秋斗が座っていた。
「説明っつってもなぁ…コイツら姉妹で俺の知り合いなんだよ。んで狩りの対象になってた所を助けたって…これ以上何か言う事ある?」
「いや、あるだろ!!!何でお前が
「あーそれ私も気になってた〜」
横からラブが入ってくる
「べ、別に私と夏火の出会いは関係ないだろ!」
焦りながら綾愛が割って入る。
その態度からして俺との出会いは、言いたくないんだろうな。だから俺も空気を察す。
「色々あんだよ!てか、これでもうラブの事はスッキリ忘れられるな?」
「だぁーかぁーらぁー!!!ラブって言うなっての!!アイって呼べよ〜」
明らかに機嫌を悪くするラブ
「そ、そのラブってのは…?」
ラブの本性を見て動転してるのか、秋斗が引き気味に聞いてくる
「
「アイで良いから!」
どこまでも自分の名前が気に入らないみたいだ。
「腹も膨れたし、私らは帰るかな」
急に綾愛が話を切り上げた。
「え?もう解散なの?」
流石のラブも困惑していた。
「あぁ、そうだ。秋斗だっけ?夏火と一緒にラブを家まで送ってやってくれよ」
「えぇっ!?俺が?何で??」
「ラブの事好きなんだろ?近付くチャンスだぞ」
「ちょっとお姉ちゃん!何言ってるの?」
「まあ、とりあえず頼むわ。私はちょっと用事があるからさ。んじゃ、ごちそーさん!」
そう言って綾愛はそそくさと席を立ち店を出る。
明らかに態度がおかしい。
そう思ったのは俺だけじゃなかったらしくラブと目が合う。
お互い言葉は発しないが、思っている事は伝わったみたいだ。
「んじゃ秋斗、ラブの事頼んだぞ」
そう言って俺は綾愛を追う。
後ろから「へ?ちょ、ちょっと待てよ」と秋斗の情けない声を聞きながら。
※
「綾愛!」
塀で囲まれた今時こんな空き地があったのか、と驚く場所に綾愛は立っていた。
その周りには男共が数人倒れていて何が起きたのか一目瞭然だった。
俺の声に気付いた綾愛が「夏火ついて来たのか?」と声をかける。
綾愛を見つけるのに数分かかっていた。どこに行ったのかは分からなかったが、予想は出来た。
あのファミレスの近くに空き地は3ヶ所ある。3ヶ所行く覚悟をしていたが、たまたま勘が当たり1発目で綾愛を見つける事が出来たのだ。
なので、綾愛を見つけるのに数分しかかからなかった。…って事は、この倒れてる男達は僅か数分でノされた事になる。
なのに綾愛は息一つ吐いてなく元気な姿を見せていた。
「流石――
そんな事をつい呟いてしまう。
ワンショットキルと言うのは綾愛に付けられたあだ名で、その名の通り綾愛は一撃で相手を倒すのだ。
「こんな奴ら屁でもないぜ」
親指を立ててドヤる綾愛。そのまま綾愛は俺の所に来るのだった。
「てか、来なくて良かったのに」
口ではそう言いながらも少し嬉しそうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。
「あんな風に出て行かれたら気になるだろ」
俺はそう言って綾愛と一緒にファミレスの方に戻る道を歩き出す。
歩きながら「ところでアイツら何なんだ?」と質問する。
「あぁ――
やれやれ…と言った仕草をする綾愛。
「お前も大変だな」俺はそう返すしか出来なかった。
「まあ、慣れたよ。」へへっと笑う綾愛。
そんな会話をしながら歩いていると急に綾愛が立ち止まる。
「夏火…下がってろ」そう言って俺の前に右腕を出し通せんぼの形をする。
前を見るとバットとかで武装した集団がいた。
「竹垣中の奴らだ」
綾愛は静かに呟きメンチを切る。
俺は邪魔にならないように後ろに下がった。
「さっすがワンショットキル言うだけはあるんやなぁ」
集団の中心に居る金髪のピアスの男が前に出てくる。
どうやらリーダーみたいだが……リーダーと呼ぶには少し頼りない感じがした。
と、言うのも漫画とかに出てくる強い奴の金魚のフンみたいな感じのやつだからだ。
まあ、要するに大して強くもないのにイキってるその辺のヤンキーみたいな奴なのだ。
それは綾愛も感じたみたいで「お前が竹垣中のリーダーか?」と質問していた。
「そや!俺ッチが新しい竹垣中のリーダーや!
崎新と名乗った男はケラケラと笑う。
「崎新??…竹垣中のリーダーは
綾愛は更に質問した。
「あぁ、真中はんには退場してもろたんや。どうせ3年やしなぁ、世代交代っちゅー奴や!」
「それで?お前みたいなのがリーダーに?」
「せやで?…つってもなぁ、俺ッチは喧嘩が得意なわけちゃう。」
「はぁ?そんな奴がリーダーやってるのか?」
「まあ、まあ、そう言いなさんなって!ジャック!出番や」
崎新が、そう言うと先程から存在感を放っていたデカイ黒人の男が「ウス!」と言って前に出てくる。
身長は多分2m近く?身体はゴツくて明らかに日本人とは身体の作りが違うと言った感じだ。
「ジャックとタイマンしてもらうで?」
崎新は絶対的な自信があるのか堂々とした口調で告げる
「タイマンだぁ?別に私は構わないけどなぁ!」
拳と拳をぶつけ綾愛も自信満々に言う。
「おで、女でも手加減しない。」
ジャックと呼ばれる黒人は、そう言って綾愛の前に立つ。
そして2人の戦いが始まったのだ。
※時は少し戻りファミレス
「秋斗くん、今日はありがとね」
満面の笑みでそう言うアイちゃんに俺はメロメロだった。
「あ、アイちゃんの家まで送るんだよね?」
それは、家を俺に教えて良いのか?と言う最終確認でもあった。
「うん!」そう言って俺の右腕にしがみつくアイちゃん。
な、なんか柔らかい物が当たってるんですケドオオォォォォォオオオ!!?
そう思いながらも冷静な表情を崩さない。
しかし心臓が{どくどく}と鼓動を早める…この音聞こえてないよな?…なんて思いながら俺はアイちゃんと一緒に歩くのだった
※
お互い睨み合ったまま数秒が経った。
お互い相手の出方を探っているのだろう。
「こうやって対峙するとデカイなぁ!」
綾愛はそう呟いた。
「日本人とは身体の出来チガイマス」
ジャックはそう返す。
「そうかよ!いくぞっ!!」
綾愛はそう言って右手で殴りかかる
ガッ!
ジャックは左腕でそれをガードする
今度は逆にジャックが右ストレートを放つ
それを見切った綾愛がしゃがんで避ける。
そして右ストレートが外れた事により体重が前に乗ったせいでジャックは少し前屈みになる。
綾愛はそれを狙ってたのか、立ち上がるのと同時に右アッパーを狙う
「どりゃあああああ!!」
ガシッ!!
だが、無惨にも綾愛の攻撃はジャックの左手に受け止められる。
それとほぼ同時にジャックの渾身の右膝蹴りが綾愛の腹に直撃する
「がっ!!」
ドザアァァァと軽く吹っ飛ばされる綾愛。
「綾愛!!」
綾愛は俺の足元近くに吹き飛ばされた。
「カァァァ!効いた、効いた」
そう軽口を叩きながらスッと立ち上がる。
「大丈夫か?」俺はそう聞くも「余裕余裕」と綾愛は本当に余裕そうだ。
「どうやら本気でいけそうだな」
そう言って綾愛は特攻服を脱ぎ捨てる。
「ひゅーひゅー!良い身体してんねぇ!」
特攻服を脱いだ綾愛は胸をサラシで巻いた格好になり、それを見た竹垣中の男達が茶化す。
だが、そんな言葉は無視して綾愛はその場で軽くジャンプを始める。
ジャンプしながら腕を構えるとジャックが「ボクシングでぃすかぁ?」と聞く
「あぁ、我流だけどな」
ピョンピョンと跳ねながら答える綾愛。
それからは一瞬だった――
――その場で跳ねていた筈の綾愛の姿が消えていて気付けば[バコオォォォン]と言う激しい音が響いていた。
「なっ!?」
後ろで余裕を見せていた竹垣中の奴らも何が起きたのか理解できずに空いた口が塞がらないと言った状況だった。
だが、事実は一つだ。
一瞬でジャックの元に移動した綾愛は右ストレートをジャックの顔面にブチ当てていた。
周りは誰一人何が起きたのか理解出来ていなかった。
しかしただ一人、この状況を理解していた人物がいた。
そう、それはジャック本人だ。
元々ジャックは日本人の事を下に見ていた。そりゃそうだ、身体つきが圧倒的に違うのだ。
それに加え相手の練灯綾愛は女だ。余裕だと思っても仕方ないだろう。
でも油断は禁物、ジャックは念の為相手の拳をガードし、どれほどの物か測る事にした。
日本人にしては、かなりの攻撃力。ワンショットキルと呼ばれるだけはある…だが、それはあくまでも日本人の、、それも中学生の間の話。
ジャックからしたら勝てないほどでは無かった。言い訳になるのかもしれないが、そんな思いが少しあったからこそ右膝蹴りは手を抜いてしまった。
それでもすぐに立ち上がるのは厳しいと思っていたが、練灯綾愛はすぐに立ち上がる。
手を抜いてしまったが、かなりの威力はあった筈だ……ジャックは、そう思いながら練灯綾愛の動きに注意した。
そして――その場で跳ねていた練灯綾愛が、まっすぐ突撃してきた。
だからジャックは、カウンター狙いの右ストレートを構えていた。
手の届く距離に来た!…腕のリーチはこちらがある、確実に先に当たる!…そう思っていたのだが、その瞬間練灯綾愛が視界から消える。
「左でぃーす」いや、消えてない。まっすぐ来て左に動いたんだ。
そう思い左を向いた瞬間、練灯綾愛は左に飛んだ反動を利用しすぐにまた右に飛ぶ。
しまった!!!…そう思っても後の祭り。
綾愛は右に飛びながら回転をする――そしてそのまま回転の力を利用しながら右拳を真っ直ぐに伸ばす
バコオォォォン!!!
そんな轟音が鳴り響きジャックは吹き飛ばされる。
「おい!ジャック!」
呆然とする中で、一人だけ状況を理解出来ていたのか崎新が飛ばされたジャックに近付く。
「嘘やろ…ジャックがワンパンされた??」
ガクッと膝から崩れ落ちる崎新。
「私の勝ちだな」
頭上からそんな言葉がかけられる。
「く、くそ!!おい!お前ら!ジャック持つん手伝え!」
呆然としていた崎新の部下達は崎新の言葉で我に戻る
「もう2度と来るんじゃねーぞ!」
そんな綾愛の言葉が届いたのかは分からないが、竹垣中の面々はそそくさと去っていく。
「おっしゃ!帰ろうぜ!」
と、綾愛が振り向いた瞬間、胸から何かが落ちる。
それは白い物で…てか!サラシが解けたんだ!!綺麗な形の柔らかそうな物が俺の視界に映る
「きゃあああああ!!」
それに気付いた綾愛が悲鳴を上げすぐさま腕で胸を隠す。
俺は思ってもない反応につい赤面をしつつ、予め拾っておいた赤い特攻服を渡す
すぐさま特攻服を着り「み、見た?」とめちゃくちゃ恥ずかしそうに聞く綾愛。
俺は正直に答えるのが怖くなって「ぎ、ギリギリ見えなかった!」と答えた。本当はガッツリ見えたのに。
「そ、そうか、、み、見てないなら…いい…」
先程まで自分より強そうな男と殴り合いしていた女とは思えない態度に俺は困惑する。
「ゴホン!」わざとらしく咳払いをし「か、帰るぞ夏火!」と、普段の調子に戻る綾愛。
俺はそんな綾愛を見て、不覚にも可愛いと思ってしまうのだった。
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