第9話季節は夏?それとも…(後編)
「ねえ!何やってるの?」
お姉ちゃんの協力の元、ノートパソコンを入手した私は家でも学校でも動画の編集を勉強していた。
とある日、私は朝早くに学校へ登校し、校舎の裏の日陰でパソコンを弄っていた。
そしたらいつの間にか横に座っていたポニーテールの女の子に話しかけられたんだ。
「えっ、えっと…」
夏火達とは自然と話せる様になったが、所詮インキャの私は急に話しかけられ吃ってしまう。
そんな私の事等気にしてないのか「動画編集??何の動画なの?」と更に質問を続けられる。
「こ、これは…」
自分でも情けないと思う。
私はこれほど他人と話すのが苦手になっていたのか…昔はもっと話せてた筈なのになぁ…
流石にそんな私を不憫と思ったのか
「ごめんね?急に話しかけて」と、気を使われる。
「私とアナタ同年だから気軽に話してよ」
「う、うん…」
「これってドラマ??」
「一応…そのつもり…」
「そっかぁ!これ以上は邪魔だよね?ごめんね?ちゃお!」
まさに嵐の様な人だった。
急に現れすぐに立ち去る…あれが誰なのか私は分からない、、でも、、また会えそうな気がしていた。
そんな出会いをして数日が経ったある日、教室がザワザワしていた。
どうやら美衣子に告白をする男子がいるらしい。
美衣子と言うのは同じ仲間の
世の中何が起きるか分かりませんな。
そんな美衣子が告白されると聞いたら気にならない訳がない。
それはきっと他のメンバーの夏火や秋斗も同じ気持ちの筈だ。
昼休みになり私は教室を出る。
教室を出て、とりあえずエフェクターの集合場所に行こうと思ってたら夏火を発見した。
「なつ――」
夏火と呼ぼうとしたが、夏火の様子が変なので声をかけるのを辞めて尾行する事にした。
どうやら夏火は誰かを探しているみたいだ。
エフェクターの集合場所に行ったり、ふらふらと廊下を歩いたり…明らかに誰かを探している。
誰を探してるんだろ?美衣子かな??でも美衣子なら渡り廊下にいる筈だよね??何でそこ行かないんだろ??
そんな事を考えていたら夏火が階段を降り始めたので私も後を追った。
1階に着いたので、渡り廊下に行くんだと思ったら真逆の下駄箱の方へ向かった。
何でそんな所に??
とりあえず着いていくと夏火が曲がり角の所に立ち止まり身を潜めた。
誰かを見つけたのかな?とりあえず私もその場に立ち止まり様子見する事に。
それから数秒後…いや数分は経ってるかもしれないぐらいの時に女の子が走ってきて階段を登って行く、良く見えなかったが泣いてた気がした。
え?何が起こってるの?
そんな疑問を抱いてると夏火が喋り出した。
誰と話してるんだろう?
と、疑問に思いながらゆっくりゆっくり近付くと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
どうやら秋斗と話しているらしい。
2人の会話が良く聞こえないので更に近付くとどうやら私のお姉ちゃんの話をしているみたいだ。
丁度いい!!そう思い、私は2人の会話に入る事にした。
「それ私がトイレ行ってた時じゃない?」
すると夏火が奇声をあげる。
どうやら急に現れた私に驚いたみたいだ。
「そんなに驚かなくても…」
実際私からしたらずっと夏火の後ろを付いて来てたのだから急に現れたなんて感覚がないのだ。
3人揃った事だし、私は美衣子の所へ行こうと提案するも
「なんか今日苛々するんだよ」
と、夏火はその場を去って行く。
私はその発言の意図が良く分からなかったが、秋斗は分かったみたいで
「それ季節の事好きって事だろ…」とつぶやく様に言った。
「え?夏火って美衣子の事好きなの?」
私は思わず秋斗に聞いてしまった。
「さあね。ごめんけどふゆこ、俺も1人になるわ」
そう言って秋斗は、どこかへ行った。
1人残された私は、思いがけない事に動揺していた。
え?夏火が美衣子の事を…??
このエフェクターと言う集まりは仲間である以上、そう言ったメンバー間の恋愛とか無いと勝手に思っていた。
でも確か夏火と美衣子は幼馴染だって聞いた。それに夏火が最初に誘ったのは美衣子だ…。
そう言う感情が全く無いって事あるかな??美衣子は、とても美人さんだし、夏火の信頼もあるみたいだし…
だから美衣子が告白されてるのが気に入らなくて苛々してるって事??
全部繋がった気がした――
※
「ずっと前から好きでした!付き合ってください!!!」
あぁ…何で私はこんな所に居るんだろ。
こんなに沢山の人が見てる中、私は松岡君に告白されていた。
思い返せばあの日…夏火をファミレスで見かけた日、私は1人公園のブランコに座っていた。
悲しいのか怒っているのか、自分でも分からない感情が渦巻いていて自分が自分じゃないかの様な感覚に陥っていた。
夏火が話しかけても私は無視したり嘘ついたりして、その度に自己嫌悪。
もうどうしたら良いのか分からず泣いてみたり物に当たってみたり…そんな事しても何も変わらないと分かっていたのに。
「ごめんなさい。」
私はそう言って渡り廊下を去るのだった。
※
「全然ダメだよ」
1人でパンを食べながらスマホと睨めっこしていたら後ろから声が聞こえてきた。
この声は聞き覚えがある。
「またお前か…」
予想通り朝ちょっかいをかけてきたポニーテールの女だった。
「それよりさ、その脚本面白くないよ?」
俺はスマホのメモ帳にドラマの内容を書いていて、全然思い付かず睨めっこしていたんだ。
「るっさいな!お前には関係ないだろ」
明らかな拒絶を言葉に表す。
そうする事で、ここから去ってくれると思ったからだ。
「せっかく助言してあげてるのに。あ、隣座っていい?」
俺の返事を待たずして段差に腰をかける。
そんな行動を見て、こいつはこう言う奴なんだろうな、と俺は諦める。
この際だハッキリしてやろう。
「じゃあ聞くが何がダメなんだよ」
「色々あるけどぉ〜1番は間かな?」
「間?」
「ドラマは人と人との掛け合いで成立するものなの。だからこそ間ってのは必要でね。例えばその主人公がヒロインに告白するシーンなんだけど」
そう言って俺のスマホの画面を指を指す
「この主人公は前から好きだったんでしょ?だったらもっと葛藤がある筈でしょ?告白する事によって関係が悪化したら?とか仲良いと思ってたのは自分だけで、めちゃくちゃ気持ち悪がられてクラス中に広まったら?とか……でもその脚本には、そんなのが一切無くてリアリティが感じられないのよ」
この女が言うのは妙に説得力がある。
だが、ドラマと言うのは
「ドラマはフィクションだろ?リアリティなんて意味ないじゃん?」
そう言うと女は「はぁぁ…」と深いため息を吐いて言葉を繋いだ。
「あのねぇ?絶対こんな恋って無いよね、でも万が一こう言う恋があったら素敵だよねって夢を見せるのがドラマじゃないの??フィクションだからって適当して良い理由にはならないんだよ?」
この女に対しての印象は最悪だ。
でも勉強になる事を言ってくれてるのは事実だ。
正直俺はドラマを簡単な物だと思っていた。
適当な帳尻を合わせた話を書いてそれを人が演じカメラで撮る…そんな作業の様な物だと思っていた。
しかしこの女の言葉で俺は考えを改める必要があると実感した。
「てか、何でそんなに口を出してくるんだ?お前何者だよ」今更ながらの疑問をぶつけた。
すると女は驚いた様に「えっ?私は…」と口つぐむ。
「おい、黙るなよ…」
さっきまで流暢に喋ってた奴が黙り込むもんだから俺は心配になり声をかける。
「あ、ごめん…」
そう言うと女は立ち上がり「私はノノ。またね夏火。ちゃお」
そして走り去るのだった。
ん?今夏火って呼んだ?
何で俺の名前知ってるんだ??
※
俺は、ふゆこと分かれた後、5組に来ていた。
…と、言うのも夏火と季節の事を考えていたのだが、どうにもめんどくさくなって演劇部で教えてもらった春野って生徒を探す事にしたんだ。
{ガララ}と5組の教室を開ける
「あ、三浦くんどうしたの?」と、見覚えある女生徒が近付いて来てくれた。
「あのさ〜5組に春野って居る?」
「え?春野さん?…今は教室に居ないみたいよ」
「じゃあ春野の特徴教えてくれる?探してるんだよね」
俺がそう言うと目の前の女生徒は、不思議そうな顔をするも「う〜ん、髪が長いかな?」と答えてくれる
髪が長いって…殆ど皆そうじゃん…と心の中でツッコミながら「髪は結んでないの?」と更に探りを入れる
「えー?結んではないかな?でも独特の空気はあるかな?結構ズバズバ言っちゃう人」
これ以上の情報は得られないと思ったので
「そっか、ありがとう!別の所探してみるよ」
と、話を切り上げその場から離れた。
しっかし、得られた情報が髪が長いと性格面の2つか…全然分からん。
名札を見るって手もあるが、ウチの学校の名札はピンで刺すタイプのやつで基本的に3年生は外してる奴が多い。
事実すれ違う同級生を見ても皆名札を外している。
春野探しは諦めるか…と階段を降りていたら見覚えのある女と出会う。
「秋斗丁度良かった」
「俺になんか用か?季節」
「場所移さない?付いて来て」
俺は季節に言われるまま付いていくことにした。
※
俺は季節に連れられ屋上に来ていた。
下から生徒達の声が響き渡る。
屋上なので強い風も吹いていて帽子なんか被ってたら吹き飛ばされるだろうなぁ…なんて事を考えていた。
「単刀直入に言うわ。私と付き合って!」
思いがけない言葉に脳が止まる。
付き合う?これは告白なのか?…だんまりな俺に気付いたのか季節は更に言葉を繋ぐ。
「聞いたわよ…私が告白されてる裏で秋斗も告白されたんでしょ?」
「あ、あぁ…どうやら2人はグルみたいだな」
「もうお互いめんどくさくない?…秋斗だって恋人とか、そー言うの作る気無いんでしょ?」
「いや、俺は作る気がない訳じゃ無いよ」
その言葉は本心だった。
そりゃ俺も性に興味がある年頃さ…彼女だって欲しいとは思ってる。
ただ、俺はどうやら追われるより追いたいタイプの様なんだ。
つまり、俺の事を好きだって言ってくれるのは嬉しいが
俺から告白したいって、、思うんだよ。
「私は今日確信したの。あんな風に動物園の檻の中に居るレッサーパンダみたいな扱いを受けて心底確信した!…もううんざり。私はただ学生として楽しく青春をしたいだけなのに、男とか女とか…めんどくさいのよ!」
それは季節の本心なのだろう。
確かにあんな沢山の人に見られて告白されるなんて、腹が立つ案件だ。俺だって嫌だ。
「つまり偽の恋人を作れば変な告白はされないって事か?」
季節は{パチン}と指を鳴らし「秋斗にしては鋭いわね」と、若干のディスを交えながら正解だと伝えた。
なるほどなぁ…エフェクターのメンバーとして繋がったからこそ、お互いを隠れ蓑に出来るって訳か。
確かにそれは名案だ。
でもそれにはハッキリさせないといけない事がある―――
「夏火は良いのか?」
―――俺は静かに質問した。
「なんで……夏火の名前が出るの?」
「そりゃさ、恋人のフリするって事は、夏火達の前でもそれを続けなきゃいけないんだぞ?…それが出来るのかって事だよ」
んな訳ねーだろ!
夏火達には恋人のフリしてるって説明すればそれで良い。
でもその事に気付かず動揺してるって事は、間違いない…季節は夏火の事を…。
季節には悪いが、この提案は受けれないな。どうにか季節の方から折れる様に持っていくか。
「色々とめんどくさいぞ?登校も下校も俺達一緒に居ないといけないし、ましてや夏火と2人きりにもなれないぞ。あらぬ疑いかけられるからな」
「そうね…そうよね……ごめん忘れて…」
そう呟く様に言って季節は屋上を出て行った。
季節の後ろ姿を確認した俺は誰も居ない屋上で独り言を呟いた。
「もっと素直になれよ…」
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