第7話そして彼女は歩き出す

「ぼく、みぃちゃんの事好きだよ。一緒に居て楽しいしずーっと一緒にいたい。これが好きって事なんだよね?」


「わたしも――



―――なつくんの事好きだよ」




何で、こんな古い記憶が思い起こされたんだろう。分かってる、、原因は分かってる。

今もなお胸の鼓動は収まらない。



あの女性は誰???

その疑問が胸に引っかかっていた。






数時間前



「じゃ、明日からもお願いします!」


私は、ひょんな事から演劇部に入る事になった。時間も時間だったので、沢山の練習は出来なかったけど、とてもタメになった初日だった。


「いやいや、季節さんに三浦くんが入ってくれるなんて光栄だよ。我が部も盛り上がるよ」

部長の高橋くんはそう言って手を出してきた。

私は隣にいる秋斗に目で合図を送り、一緒に高橋くんの手を握る。


こうして私と秋斗の演劇部初日は終わった。


「夏火達帰るってラインきてたな。どーする?俺達も帰るか?」

学校の廊下を歩きながら秋斗が質問する


「どっか寄る〜?お腹空かない?」


「おっ!良いな!ファミレスでも行くか?」



そんな感じで私と秋斗はファミレスへ向かった。

でもそれが私の心を揺さぶる事になるなんて、この時の私は想像すらしていなかった。









「今…なんて言った?」

俺は目の前の女性に突拍子もない事を言われたので、聞き間違いだと思いたく質問していた。


「だからね?…お姉ちゃんにエフェクターの事説明したら夏火に会いたいって言ってるんだけど…」


聞き間違いだと思いたかったが、一字一句先程聞いた事と同じ事を言われた。


「え?なんで?」


「さ、、さぁ??」


「しかもね?会わせないと協力しないって…」



拒否権などなく、俺は仕方なしに会う事にした。

「みぃ達には先に帰るってラインしとくか」

こうして俺はふゆこと一緒にファミレスへ向かった。


ファミレスに入ると「あ、お姉ちゃん!」とふゆこが窓際のソファの席に向かう。

俺はふゆこの後を追いかける。

追いかけると1人の女性が座っていた。


冬子ふゆね、早かったのね」


「そう?お姉ちゃん待ったんじゃない?」

ふゆこはそう言いながら先に座っていた女性の横に座る。


「君が…戰刃いくさばくんだな?」

その女性は俺を見ながらそう言った。


「はい…えっと…」

俺は返事を返しながら2人と向かいの席へ座る


「すまないな自己紹介がまだだった。私は先守秋子さきもりあきねだ。君の2年先輩になるのかな?」


そう自己紹介した女性は、長い髪を後ろに縛り綺麗な顔立ちをしているが、鋭い目をしていて、空気的に圧を感じる女性だった。

ふゆことは真逆の感じで、女王様と言うか…そう言う雰囲気を感じた。


ふと制服を見る

東全高校トーゼンなんですね?」


「うむ。2年だが生徒会長を任されている」


「えっ!?生徒会長!!?」



今更ながら軽く学校について説明しよう。

学校は地域によって色々な学校がある。

その中には小中高と一貫した学校もあるだろう。ウチの東央中学校トーチュウは、東全高校トーゼン東全大学トーダイを繋ぐ学校だ。


トーチュウの卒業生は基本的にトーゼンへと入れる。何で入れるのかってのは割愛する。

そんでトーゼンからトーダイへとエスカレーター式に上がるのだ。

まあ、早い話が名門校と言うか進学校と言うか…そんな学校なんだ。


んで、そんな学校の生徒会長と言うのは1番優秀な人が選ばれる。

つまり2年で生徒会長となれる事はメチャクチャ凄い事なんだ。


「パフェお持ちしました〜」


ウエイトレスさんのそんな声が聞こえたと同時に先守先輩の目の前にイチゴのパフェが置かれた。


「えっ!?パフェ!!?」

俺は驚きのあまり声を出してしまう。


「む…すまないな先に注文していた。冬子も戰刃くんも好きな物を頼むと良い。私の奢りだ」


「えっ!お姉ちゃんいいの!?じゃあ私は〜」

と、嬉しそうにメニューのデザートの欄を吟味するふゆこ


「いや、流石に奢りは…」

そう丁重に断ろうとすると「なに、年上の見栄と言うやつだ」と先守先輩は言う。


「夏火〜ここは好きな物頼みなよ〜」と言うふゆこの後押しもあり、言葉に甘える事にした。



「では、、いただきます!」

先守先輩はパフェスプーンを握りどこから食べようかと目を輝かせていた。

そして一口{パク}と食べ

「んんんまああぁぁぁぁああい」と、先程とは全く違う可愛い表情を見せる。


そんな切り替えに驚いてる俺に気付いたのか「お姉ちゃんは甘い物に目がないのよ」とふゆこが、フォローを入れる。

 そしていつの間にか呼んでいたウエイトレスさんに「チョコアイス1つください」と注文していた。

それに気付いた俺はすぐさま「アイスココア1つください」と注文する。


ウエイトレスさんが去った後

「あれ?ココアで良いの?」

と、ふゆこが聞いてきた。


「うん」



ぶっちゃけ先守先輩の豹変に驚いてメニュー見る暇なかっただけなんだけどな…

 とは、到底言えない。


「お待たせしました〜」


意外と早くにウエイトレスさんがアイスとココアを持ってきた。

ふゆこも待ちきれなかったのか、すぐさまスプーンをアイスに刺す。


「んんまああぁぁぁい」


アイスを一口食べ幸せそうな表情をするふゆこ。

冬子ふゆね、一口交換しよう」

先守先輩が、そう言いながらイチゴパフェをスプーンで掬いふゆこの口に入れる


「んん!?まあぁぁぁい」

パフェを口に入れてもらったふゆこは、とても満足そうにしている。

「次お姉ちゃんね」

そう言って自身のチョコアイスを一口掬い先守先輩の口に入れる


「んっまああぁぁぁい!」

姉妹揃って同じリアクションをとる。


俺はそんな2人を見ながら目の前に置かれたココアを口に運ぶ。

甘過ぎずにが過ぎず…丁度いい美味しさだ。


ふと自分の置かれた状況を俯瞰してみる。

目の前には美女が2人…いや、美人姉妹が2人。これは俗に言う両手に花と言うやつか?

いや、そうにしか見えないだろう。


先守先輩は、とても美人だ。

キリッとしていて普段は人を寄せ付けない感じなんだろう。

しかし今はどうだ?年相応の甘い物好きな女の子じゃないか。

 そしてその先輩の妹のふゆこも両サイドの三つ編みと眼鏡と言った地味な感じだが、髪を解いて眼鏡を取れば先守先輩並みの美少女だ。

何となく周りを見ると男共の視線を感じる。


やべー、やべーな、、とりあえずココアを一口飲み冷静を装う。

周りからはどう思われてるんだろうな?

羨ましがられてる?妬まれてる?…どっちでも良い!!俺は今!気分が良い!!!

さいっこうにハイ!って気分だぜえぇ!!!


おっと、我ながらキャラがブレたな。でも許してくれ俺だって中3男子なんだ…異性でテンションが上がる事もある。


「とても美味だった」

気付くとそう言って紙ナプキンで口を拭う先守先輩。

隣のふゆこもどうやら食べ終わったみたいだ。


「私トイレ行くね」

そう言ってふゆこは席を立ちそそくさとトイレへ向かう。

先守先輩と2人きりになり、とりあえずココアを口に運ぶ。隠キャあるあるとか言うなよ?



「ふむ、戰刃夏火くん」


「は、ハイッ!?!」

急に呼ばれて俺は変な声を出してしまう。


{ズズッ}とお冷やを一口飲んで先守先輩は言葉を繋げる。


「急に呼び出してすまない」


「いえ…」


「冬子は、どうだ?」


「どうって?」


「そうだな…」

ポツリと呟き言葉を言おうか思案する先守先輩。

俺は先守先輩の言葉を待つ事にしたが、その時は割とすぐにきた。


「私は姉として頑張ってきた。いや、頑張り過ぎたのかもしれない…気付けば成績優秀で生徒会長にまで上り詰めてしまった。」


自慢と言うよりは後悔してる様な、今も迷ってる様な、、そんな感じがした。


「冬子は昔は良く誰とでも遊ぶ子でな。そんなあの子は中学生になるとと言う事で注目を浴びてしまった」


「姉であり生徒会長の私の機嫌を取ろうと浅はかにも考えた奴等のせいで冬子は人を信じられなくなった――


――そんなあの子が登校拒否をする様になったのも無理はない」


「えっ?登校拒否??」

俺は思わず呟いてしまった。


「1年の頃は殆ど学校へ行ってない。私が卒業して、、登校するようになった」


先守先輩の表情を見ると、とても悔しそうな悲しそうな…そんな表情をしていた。


「学校に行くようになったのは良かったが、どうも人との接し方が分からなくなってしまったようでな……友達と呼べる子は多分居なかったと思う」


「――だが――」


{ふふっ}と先守先輩は笑った。

笑ったと言うか嬉しそうに口を開いた。


「そんな冬子が、男子の名前を言うではないか。私は驚いた。あの子が、あんなにも楽しそうにしてるのを見れて――


――だから君に会いたいと思った。そして一言、そう一言言いたかったんだ――――



―――ありがとう、、と」



そして先守先輩は、真っ直ぐに俺を見て「本当にありがとう。あの子の友達になってくれて」そう感謝を述べた。


俺は何て答えるべきか迷った。

でもすぐに迷う必要は無いと理解する。

だってこう言えば良いんだから――



「――ふゆこには感謝してます。だから俺の方こそありがとう、なんですよ」


「そうか、、ふふふ」


照れ臭くなったからか、お互い目の前の飲み物を口に運ぶ。

そんな2人の会話はきっと側から見る分には楽しげな会話をしている様に見えただろう。

そう、まるでデートでもしてるかの様な――


――そんな風に勘違いしても仕方のない事だろう







俺はちょっと浮かれていたのかもしれない。

同じエフェクターのメンバーになった、、そうメンバーだ!メンバー同士の軽い食事だ。

 でもあの季節美衣子と2人で食事って考えるとニヤけてしまう。


だからだ――

――俺は季節の異変にすぐには気付けなかった。


この信号さえ渡ればファミレスに着く、そんな距離にまで来ていた。

なのに季節はいきなり立ち止まった。


「どうした?青になったぞ?」


信号が赤から青に変わったにも関わらず動こうとしない季節を俺は見る。

季節の表情は固まっていて腹痛とか頭痛とかには見えなかった。


「おーい?季節〜?」


そう声をかけても何も反応がない。

そのうちに信号が赤になり目の前を車達が闊歩する。

触って良いのか戸惑いながらも俺は季節の肩を揺らす。


「あ、、な、なに?」


肩を揺らすと俺の事に気付いたのか季節が返事をする


「いきなり動かなくなったからビックリしたよ」


「あ、あぁ…ご、ごめんね…」

季節はそうやって返事を返すも心ここに在らずって感じだ。


「どうした?何かあったか?」


「えっと…そ、そうね。そうだと思う」


は?と思うほどの適当な返事を返される。

流石の俺も何か異変を感じた…その時だった

「ごめん。急用思い出したから帰るね」

そう言い残し季節は、そそくさと歩き出す。


「あ、おい!待てよ!」

と追いかけようとした時に信号が青に変わり俺は一つの光景を見る事になった


「え?あれって…夏火?」


その光景は、帰るとラインをした筈の夏火が見た事ない美人と2人でファミレスに居る光景だ。

あの人誰だ?…ま、まさか彼女っ!?!あんな美人が??!夏火の彼女!?!


おいおいまぢかよ…アイツ彼女居たのかよ。

しかも制服見るに東全高校トーゼンの先輩じゃん!

うわぁ〜年上美人とか、やるなぁ夏火。

季節もこの光景見たんかな?


ん??



待てよ…季節が、この光景を見て急変したんだとしたら…え?季節ってもしかして……



「夏火の事…好きって訳ぇ??」


俺はとんでもない事に気付いてしまったのかもしれない。







「ところで、、ふゆこと言うのは?」


「あだ名ですよ!冬子って、ふゆこって読めるでしょ?」


「ほぅ、なるほど。なら私はになるのか」


「さ、流石に先輩をそんな風に呼ぶわけには…」


「いや、ぜひ呼んでほしい。私には変なあだ名しかないからな」


「変なあだ名??」


「悪口の様なものだ。だから真っ当なあだ名が欲しい。どうだ?呼んでくれるか?」


「先輩がそう言うのなら…」


「ふふ、君がトーゼンに来るのが楽しみだよ」


あきこ先輩は、とても嬉しそうに言った。



「お姉ちゃんがここまで気が緩んでるの初めて見たかも」

いつの間にかトイレから戻ってきたふゆこが、そう言いながらあきこ先輩の隣に座った。


「そうだな…夏火くんと居ると気が緩んでしまう。これが恋…かな?」


「ゴホッ!!ゴホゴホ!!」

ココアを飲んでる時に変な事を言われ俺はむせてしまう。


「もう!お姉ちゃん!変な事言い過ぎ!!」


「す、すまん。冗談が過ぎた」


「だ、大丈夫です」

すぐさまそう返事を返すが冗談か…と憂える


「あぁ、そうだ。パソコンが必要だったな?」


「え?あ、はい!」


「今日の夜に後輩がノートパソコンを持ってきてくれる手筈になってる。だからその件は安心して良い」


「それは心強いです」


「では、ここいらで解散としよう」


あきこ先輩はそう言って伝票をレジに持っていく。

その後をふゆこと一緒についていく。



からんからん

扉に付いた鐘が陽気な音を奏でて俺達が店を出た事を知らせる。

店から出て

「今日はごちそうさまでした」とお礼を言って俺達はそれぞれの家に帰る為に別れるのだった。

別れ際に

「夏火!また明日ね!」

と、ふゆこが笑顔で手を振ってきたから

「またな!」

と、俺も同じ様に手を振り返した。



これで皆それぞれ役割が出来た。

明日からは本格的に動かないとな――



――絶対に妹を助ける――



――そんなヴィジョンを確実な物にする為に。




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