第4話迷い

2037年某日


「なんと言ってもメンバーの人気も凄いですよね〜」

テレビのアナウンサーの声が響く


「エフェクターの絶対的なリーダーと言えばアッキー君。イケメンですよね〜」



「だってよアッキー君」

茶髪の美女がテレビを見ながら嫌味っぽく男性に話を振る


「困った困った。イケメンのリーダーだってよ?」

ふざけた感じで返事をする秋斗



「ただ!イケメンもですが!なんと言ってもアッキー君に並ぶ美女!みぃちゃんも人気が高いですよ!」


「いやいや、ふゆこさんもかなりの人気ですよ。某アニメのアスカ派かレイ派か並に綺麗に人気が二分されてます!」

テレビの声が流れる



「良かったな〜みぃもふゆこも。美女だってよ」

ソファに座った男性が、ニヤニヤとしながら女性2人に話を振る


「私は美女ってタイプじゃないのになぁ…」

と、綺麗な長い髪をした眼鏡の美女は呟く。


「おいおい何言ってんだよ!我が東央とうおう中の影のマドンナが弱気な事言うなよ」

秋斗がすぐさま口を挟む


「そもそも影って何よ?」

呆れながら美衣子は突っ込む


「表がお前で影がふゆこだ」

と説明する秋斗



「そして何と言ってもハル君の人気も凄いです!」



「あれ?夏火の紹介聞きそびれた!」

美衣子が残念そうに言う


「いいよ俺の事は」

ソファに座って皆の会話を聞いていた夏火が言った










2031年某日、東央中学校昼休み



「なあ!戰刃いくさば!!」

学年一のイケメンが俺に話しかけてくる。


その光景を見た女達は

「えっ!三浦みうら君と戰刃って仲良かったっけ?」

「この前、季節きせつさんとも話してたよ?!」

「何で三浦君と季節さんとあの隠キャが仲良いの!?」

と、本人に聴こえる様に文句を言う。



「あのなぁ三浦…教室で話しかけるなよ…」

俺は嫌がりながら言った。


「なんでだよ!?俺達エフェクターだろ?」

と、周りを気にしない音量で三浦が言うもんだから

「ちょ!ちょっと待て待て!」

と俺は動揺しながら三浦の声をかき消す。


そして三浦の耳に口を近付けて

「エフェクターの事はまだ内緒だ!!」

と小声で言う


「何でだよ?」

一応俺に合わせてくれてるのか、三浦も小声になってくれる


「そりゃそうだろ!?まだ何も決まってないんだぞ!」

「は?何か色々撮ってただろ?台詞とか言ったぜ?」

「ばっか!あれは練習だ!本番じゃない!」

「はぁ?聞いてねーぞ!!」


そんな会話のラリーをしていると

「夏火居る〜??」

と、もう1人馬鹿がやってきた。



「あっ、季節さん来た!もう1人は誰?」

「あれ先守さきもりさんじゃない?」

そんな女子達の会話を遮る様に

「えっ!季節さんと先守さん!?うおおぉぉぉやべー!!」

「先守さんってアレだろ?裏ミスコンで1位の…」

「そうそう!あの三つ編み解いて眼鏡取ったらめちゃくちゃ可愛いんだよ!」

男達も盛り上がる。


「はぁ……」

俺はため息を付き三浦の腕を引っ張り教室を出る。

そしてみぃとふゆこも連れ出す。


着いた場所は屋上へと続く階段の踊り場だ。


「今度から昼休みはここに集合な!!」

と、俺は強く言う


「何でよ!一緒に行けば良いじゃん!」

みぃがそう言った。


「お前と三浦!…あとふゆこ!ってかお前等!!変に目立つんだよ!!」


「人間目立ってナンボじゃね?」

三浦が言う


「あ、でも私も美衣子が来た時注目されて変な感じだったなぁ…」

ふゆこが呟く様に言った


「ほら!隠キャとしては目立つの嫌なんだよ!」


「はぁぁ?んな事知らないわよ!」


「知れよ!隠キャの気持ち分かれ!!」


「なぁ?所でさ?一つ良いか?」

俺とみぃの会話を遮るように三浦が口を挟む


「なんだよ!」

「なに!」

俺とみぃは同時に聞き返す。


「俺の事名字で呼ぶのやめね?」


その瞬間、俺達は黙り込む。

そー言えば三浦だけ名字呼びだ。

俺は{ハッ}とした、他の2人を見ると同じ様な顔をしている。


「黙り込むのやめてくんない!!?」

と焦りながら三浦が言う。

更に

「いや、だってよ?季節と先守は戰刃の事、夏火なつかって呼んでるじゃん?んで、先守の事はふゆこだろ?みぃ呼びは置いといて先守は季節の事、美衣子みいこって呼んでるじゃん!!?なのに俺はさっっ!!?」

と、言葉を繋ぐ。



そー言えばふゆこの時は「冬子ふゆねってふゆこって読むからふゆこって呼んで良い?俺たちの事も呼び捨てで良いから」と、すぐに呼び方を決めたっけ。

その点三浦は……考えてなかったな。



「じゃあ何て呼ばれたいの?」

冷めた感じにみぃが言った


「おいおい!その言い方やめろよ!まるであだ名をつけて欲しいって駄々こねてるみたいになるだろ!」


「そうにしか見えてないよ?」

更にみぃは畳み掛ける


「ぐほっ!」

見事にクリティカルヒットしたのか三浦はその場に倒れ込む

そして

「だってよ〜何か俺だけハブられてるみたいじゃん〜」

泣いてるのか涙声で三浦は言った


そんな三浦を慰めてるのか?分からないが、ふゆこがしゃがんで指でツンツンしてる。


しょーがねえか…

「はぁ…」と一つため息をついて俺は口を開いた。

「本当は5人集まってからと思ったが、丁度いい!あだ名決めるぞ」


それを聞いた三浦は待ってました!と言わんばかりに立ち直る


「先に言っとくけど、あだ名はあだ名でもネオエイターとしての名前だからな?」


「え?それってどう言う事?」

みぃが疑問を投げかける


「芸名みたいなもんだよ!本名で活動する気だったのか?」

俺がそう言うと他の3人は声を合わせた様に「あぁ〜」と納得する。


「因みに俺は『くさ』で行こうと思う」


「くさ?戰刃だから?」


「うん」


「たんっじゅん〜」


「そんなもんで良いんだよ!」


「ハイ!ハイ!」

と言いながらふゆこが右手を挙げる


「はいふゆこさん」

と俺は教師の真似をしながらふゆこに話を振る


「私は『ふゆこ』で良いよ」


「まんまじゃん!!?」

みぃがツッコむ


「意外と気に入ってるの!」

{ふんす}と両手で拳を握り軽く両手を下に振るふゆこ


「じゃあ私も『みぃ』で良いよ」

適当な感じにみぃは言った


「いや、流石にみぃは呼びにくいよ!」

と三浦が言う


「メンバー間では美衣子でも何でも良いわよ」

とみぃは言い放つ


「そ、そか…じゃあ俺は『アッキー』だ!!」

どうだ!と言わんばかりのドヤ顔をして両手を腰に付けふん反り返る三浦……いや、アッキーか



「もしかしてそうやって呼ばれたかったの?」

と、みぃがゴミを見る様な冷めた目でアッキーに言う


「め、メンバー間では秋斗で良いんだぜ!」

しまった!と思った様な顔をしてすぐさま訂正する秋斗


「てかメンバー間なら好きなように呼べば良いさ。なぁ?三浦」

俺は意地悪な笑みを浮かべながらそう言いながらみぃとふゆこの目線を合わせる


「そうだね夏火。じゃあ宜しくね三浦君!」

俺の意図を汲み取ったのか、みぃも同じ様に意地悪な感じで言う


「も〜2人とも意地悪だな〜。三浦君が可哀想だよ!」

と、こちらは天然なのかフォローになってないフォローをするふゆこ


「もうやめて、俺のライフは0よ…」

今にも泣きそうな感じに落ち込む秋斗


「それより夏火、もう、4人も集まったんだからそろそろ今後の方針について話してよ」

グダグダになりそうな空気を察してか、みぃが話題を振る


「あー!そうそう!その辺気になってたんだよ!」

さっきまで落ち込んでいた秋斗も立ち直りながら話に乗る。



良い機会だ。ここいらで、お遊びは良い加減にしろって所を見せてやるか。

俺は{ゴホン}と軽く咳払いをして口を開いた。


「最初説明した通り俺達は動画配信者ネオエイターを目指す事になる。tubeNEOを見る限り今ネオエイター達がやってるのはゲーム実況や何かの実験や商品紹介となっている。そんな中に他の皆がやってる事をやったって人気になる訳がない!と俺なりに分析した結果、本格的なドラマを配信すると言う結論になった」


3人は黙って{うんうん}と頷きながら聞いていた。


「エフェクターのメンバーは5人を目標にしてるが、5人目は追々って事で良いとして!俺達にはまだまだ問題が山ほどある」

俺も言葉を繋ぎながら頭を整理する


「先ずドラマ作成に欠かせない"脚本"だ。これは俺がする。んで次に"カメラ"。これは今ふゆこに任せてある。次に"編集"だが、これも俺が練習中だ。そんで"役者"になるんだが、これは皆だ」


「まだ他にもあるんだが……とりあえず皆には演技とカメラ撮影を覚えてほしい。」


こんな所だよな?と話を終える


「な、な……夏火、一つ良いか?」

気持ち悪いぐらい照れながら秋斗が言った


「名前呼ぶのに照れるなよ気持ち悪い」


「うっせーな!それより教室で言ってたろ?今まだ練習だって!その辺の話聞きたいんだけど」



ふぅ…そう言えばまだ説明してない事があったっけ。

この辺はまだ説明しなくても良い様な気がするが、軽く言っといた方が良いのかな。


「本格的な活動は来年からと思ってる。今、演技を撮ったりしてるがこれらは練習に過ぎない。人がどう映るか、カメラの前で緊張しなくなるか、とか色んな事を試してる」

 なるべく簡潔に俺は伝えた。


「じゃあ今撮ってる【未練華みれんげ】は?」

みぃが質問する


「あぁ、それは練習用の台本。最終的にこれを見て皆が納得出来たら本番を撮る……って言っても今年一杯は使うだろうけど。」


「本格的な活動は来年ってそー言う訳?」

秋斗が言う


「ま、そんな感じ」

本当は場面の繋ぎとか色々な理由があるんだけどな。でも長くなるし早々に話を切り上げる。


「それで5人目はどーするの?」

みぃが質問する


「実際問題私達はシロウトだから演技上手い人が居ると良いと思うんだけど」

ふゆこが確信を突く


「確かにそうだよな〜演技練習って言っても何が悪いのかとか良く分かんねーし」

秋斗が話に乗っかる


「だったらさぁ?演劇部の誰かスカウトしない??」

みぃが提案する


「演劇部かぁ〜行ってみる?」

秋斗が言う


「よし!行こう!」

みぃがふゆこの手を取って階段を下る


「夏火行かねーの?」

階段を下りながら秋斗が振り向きざまに言う


「俺はちょっと考え事する」

階段に座り俺はそう言った


「分かった!良い知らせ期待しとけ!」

ドタバタと足音が響き、そして静かになった。



「はぁ…」

俺はため息をつく


練習用として書いた【未練華】はカメラとスマホで撮った。これはカメラで見る場合とスマホで見る場合を比較する実験の為でもある。

なのでスマホに【未練華】のデータが入っている。


俺はスマホを取り出し撮った動画を見る。

シロウトでも分かるぐらいお粗末だ。

俺ら4人の演技力もだが、カメラワークや編集もチャチな物。

簡単にドラマを撮ろうと言ったもののそう簡単な事では無い。


どうしようもない焦りが俺を支配する。

このまま売れなかったら妹は死ぬ。

妹は成人を迎えられない……今は薬と週一の通院で何とか誤魔化し誤魔化しやっているが、最近は21時ぐらいになると体力が無くなったかの様に眠りに入る。

僅か2〜3年でコレだぞ!?


普通に中学卒業して働いた方が現実的じゃないか?

いや、中卒なんてドカタぐらいしか無理だろ……1年頑張っても100万貯まらないかもしれない。

それなら宝くじよりもまだ現実味があるネオエイターの方が可能性はある筈だ。

狙いだって悪くない。


だが、このままで良いのか?

もう一つぐらい道を考えた方が良いんじゃないか?

最悪の場合、みぃとふゆこを使って視聴率を稼げば……い、いや駄目だ!そんなんで視聴率稼いだって良い事ない。

だってそれじゃ、みぃもふゆこも身体しか価値がないって言ってる様なもんじゃないか。

2人は色々な可能性を持ってるしその分価値もある。


俺は――




――どうしたら良いんだ?



――このまま進んで良いのか?――




俺は迷っていた。

全く見えない未来みちに。




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