第3話4人目

秋斗あきと任せた!」


そう言うと少年は秋斗と呼んだ少年にボールを蹴り上げる。

秋斗は自分にめがけてやってくるボールを胸で受けそのまま落下するボールを蹴る。


バコオォォン


「ゴール!!!」


その歓声とともにホイッスルが鳴り試合が終わる。

秋斗の入れた点でチームは勝利を得るのだ。


「さっすが秋斗!!」

「やったなー!」


チームメイトは思い思いに声を掛け秋斗の背中を叩いたりしていた。

更には


「秋斗くんカッコいいー!!!」

「きゃー!秋斗く〜ん!!」


ギャラリーの女の子達の声も響き渡る。

それを聞いた秋斗は{シュッ}と右腕を上げ応える。


「かっこいいわー秋斗くーん!」

「きゃー!今、目が合っちゃったぁ」



俺の名前は三浦秋斗みうらあきと。見ての通りのイケメンだ。

ハッキリ言って俺の人生は勝ち組だ。

こうして異性にモテて同性にも頼りにされる…これが勝ち組と言わなくて何と言う??


遡る事小5の時、俺は自分がイケメンだと気付いた。

そして人生をより楽しむ為に努力をした。

元々運動は得意な方じゃなかったけど、ランニングを始める事にして体力を付けた。


勉強もぶっちゃけ嫌いだけど、中1から塾に通い始めた。

そうすると周りは気付くのだ。イケメンで運動も出来て勉強も出来る王子様が居る事に。


それから俺は毎日が楽しい。

部活には入ってないけど、助っ人として色んなスポーツをやってきた。

先程のサッカーもカッコ良かっただろ?



「んでさぁ、来週の日曜だけど合コン出てよ!向こうの女の子秋斗に会いたがってるんだよね〜」


サッカーの試合の終わりに仲の良い男2人とファミレスに来ていた。

飯を食ってると合コンに誘われる。


「まあ、どうせ暇だし良いよ!」


「よっしゃー!狙ってる子居るからホント助かる!」


「じゃあさ今週の土曜は秋斗空いてる?」


先程合コンに誘ってきた奴とは違う奴が予定を聞いてきた。


「空いてるけどどうした?」


「隣のクラスの前川佑月まえかわゆづき知ってるだろ?一緒に遊び行こうって誘ったら秋斗を誘ってくれって言われてさぁ〜」


「じゃあ俺とお前と前川の3人で遊ぶの?」


「いや、クラスメートの鈴野すずの香月こうづきも来るよ」


「なるほど。分かった!良いよ」


「よっしゃ!前川を口説くチャンスゲット!」



こんな感じに休日は遊びに誘われ世界で一番学生生活を楽しんでる自信があった。

――そうあの日までは――



それはすぐにやってきた。

次の日の事だ。

学校の昼休みの時間に昨日合コンに誘ってきた田中が電話してるのを聞いた。



「うん!無事秋斗捕まえたよ!これでそっちの女の子来てくれるんだよね??…ん?親友?俺と秋斗が??…そんなわけないだろwアイツと仲良くしてたら色々都合良いから仲良くしてるだけw」


この後も何か言ってた気がするが覚えてない。

振り返ってみると田中とは2人で遊んだりした事はなかった。

いつも合コンや女の子の居る遊びに誘ってくるだけで、アイツの家とか知らない。


そー言えば土曜日に遊びに誘ってきた鈴木も同じだ。

この2人だけじゃない男の仲良いと思ってた奴等皆友達と呼べるか微妙だ。



「はは…なんだこれ…」

そう呟いた。



その日の放課後、田中と鈴木から一緒に帰ろうと誘われる。

肩に腕を回し親友だろ?と言わんばかりの顔をしながら誘ってくるのを見て気持ち悪くなった。


「わりぃ!この後職員室に呼ばれてるんだよ」


そう嘘をつき誘いを断る。

俺は自分の席に座り{ぼ〜}っとしていた。

まだ明るかった教室も気付けばオレンジ色に染まっていた。

周りを見ても誰も居ない。


「帰るか…」

そう呟いて立ち上がろうとした時



「あっ!夏火なつか、ここ良いんじゃない??」


女の声が響いてきた。


「みぃ!良いところ見つけたな!もう残ってる人なんて居ないよな?」


「私見てくるよ!」


その声が聞こえてきたと同時に{ガララ}と教室のドアが開いた。


「あっ、三浦君居たんだ」


俺は声の主を見て驚いた。

なんとそこには、我が学年1の美女と言われる季節美衣子きせつみいこが居たのだ。


「みぃ、誰か居たのか?」


そして俺は更に驚く。

季節美衣子の後ろから顔を出したのは、戰刃夏火いくさばなつかだったのだ。


「へぇ〜放課後に2人で何やってるの?」

俺は嫌味っぽく聞く。


「三浦には関係ないだろ。それに2人じゃねーよ!」

戰刃がそう言うともう1人の存在を明かした。



「えっ?先守さきもり??」

驚きのあまり思わず名前を呼んでしまう。


先守冬子さきもりふゆねと言えば季節美衣子の影に隠れてるが、もう1人のマドンナと言われてる程の美女だ。

何より中3にしては目立ち過ぎる胸が特徴で、男子からは人気が高い。



「お前等どう言う集まりなの?」

頭に出た疑問をぶつけた。


「俺達ドラマ撮ってんだよ」


「ドラマァ?!」


「ネオエイター目指してるんだ!」


そう説明する戰刃の手には確かにビデオカメラや三脚が握られていた。


「へ〜面白そうじゃん。出てあげようか?俺が出たら視聴回数うなぎ上りだぞ」

皮肉でも何でもなく、自信を持ってそう言った。



「俺達結構ガチでやってるんだよ。遊び感覚の奴は要らない」


「ちょっと夏火!言い方悪いよ!」


「それより別の所探そうぜ!みぃ!ふゆこ!行くぞ!」


「あ、何かごめんね三浦君」


バタバタと3人は去っていく。



そしてまた1人になった。


「俺の誘いを断る?…ふふっ」


俺を誘いたくて近付いてくる奴も居るのに俺は笑いが止まらなかった。


そーだよな。今までが可笑しかったんだ。

普通仲良くもない奴と遊びに行かない。

結局皆俺の事、利用してただけなんだ。


「ははは…あれ?なんだこれ?涙?なんでだ??」


馬鹿馬鹿しくて笑ってた筈なのに目からは涙が溢れてくる。


楽しかった!それは事実だ。

だからこそあれら全てが偽りなのが辛い。


「なんだよ…なんなんだよ!」


言葉と共に感情を巻き込んで涙が止まらない。

俺の人生幻だったって訳か?!

くそっ!くそっ!!


これが俺の魔法が解けた瞬間だ―――




次の日、俺は学校の昼休みに田中を呼び出した。


「合コンの件だけどさ、、ごめん!急用が入って行けなくなった!」


「は?急用??ちょっと待てよ!今更キャンセルは無いって!」


「ほんとごめん!」


「はぁ?マジふざけんな!もう良いよお前とは絶交だ!」


そう言って田中は去っていく。

次は鈴木を呼び出した。


「明日の遊びだけどさ、急用が入った!ごめん!」


「えっ?急用!?なに?ドタキャン??マジで言ってる?」


「ごめん」


「いやいや、謝って済んだら警察要らないっての!んだよ!ドタキャンって最低だな!!ちっ!もう良いやお前とは絶交な」


そして鈴木も去っていく。



「絶交…か」

絶つ程の交友も無いのに絶交って言葉が通るのか??


「ははは」

そんな矛盾に笑いが出る。


これで良かったんだ。

こんなあっさり絶交するなんて、元々そんな仲だったって訳。



「夏火〜美衣子〜ここ人居ないよ!」


そんな声が聞こえてきた。

またあの3人か…



「ふゆこ良い場所見つけたなー!」


「じゃあここで次のシーン撮ろうか!」


「旧校舎の裏口に続く階段をバックにってエモいよね?」


「またすぐ覚えた言葉使いたがるなみぃは」


「良いじゃん!ね!ふゆこも使ってこ!」


「そうだね!!エモい!エモいよー!」


「はははは」



その旧校舎の裏口に続く階段から下の3人を見下ろす。

おかしいな…俺も普通ならあんな風に楽しく笑ってた筈なのに…



「あれ?三浦君?」


季節美衣子が俺に気づいて話しかけてくる


「なんか悪いな。誰も居ないと思ってただろ?」


「あぁーいや、良いよ〜」


「しょうがない!違う場所探すか!」


そうやってまた去って行こうとする3人を

「ちょっと待った!」

と引き止める。


「ん?どうしたの?三浦君」


「ドラマ撮影見学して良い?」


「別に良いけどそこ居られると邪魔だから向こう側に行ってくれる?」


「あー!もう!言い方悪いよ夏火!」


「あ、あの、ご、ごめんね三浦くん。夏火ってあれが普通の口調だから…」


「良いよ先守さん。なんとなく慣れたよ戰刃には。」

そう言って指を刺された場所に移動する。


丁度よく座れるサイズの石があったからそこに座る。



「んじゃ撮るぞ〜」


戰刃の合図で撮影が始まる。


正直ドラマ撮影なんてどうでもいい。

けど、1人になるのも何か嫌だった。

だから見学を希望した。

…と言っても撮影風景は見てない。


今は色々と考えたいんだ。

どこから間違えたんだ??

俺はイケメンで運動も出来て勉強も出来る…いや、違うな。ここから間違ってたんだ。


運動は出来る!だが、人並みぐらいだ。

サッカーも野球もバスケもバレーもリレーだって普通にこなせる。

だが、サッカー部の奴には勝てないし割と得意なバスケもバスケ部には勝てない。

平均より少し出来るってだけの器用貧乏だ。

裏を返せば代わりは幾らでも居る。


勉強だって、ぶっちゃけ付いていくのでやっとだ。

高校生になったら付いていけないかもしれない。


もうダメだな。

自分に魔法をかけるのは辞めよう。

そんな時


ピコン、ピコン、ピコン

と数回携帯が鳴る。


何だ?と思って携帯を見たらグループラインのメンバーが一斉に退室していた。

一つだけじゃない、何個かのグループがそうやって解散していた。


「田中と鈴木だな…」

そう呟いて、俺もグループを退会する。


これで男の友達は皆消えた。

女のラインは元々入れてなかったから友達0だ。


「はぁ…」


まあ、良いか。

そう諦めが付いた時、ふと戰刃を見る。

戰刃は隠キャで有名だ。

何度も教室の端でつまらなそうに外を見てるのを目撃した。

その都度、あぁ、コイツと俺は全然違うなって優越感に浸っていた。


それがどうした?今では立場が逆転してるじゃないか。


あんなに楽しそうに笑ってる。

その点俺はどうだ?全てを失い、つまらなさそうに3人を見てる。


「クソっ!!!」

そう声を荒げ座ってる石を殴る


人ってこんなにもいきなり落ちるのか?

あんな底辺な奴より更に下に落ちるのかよ!?


「クソっ!クソっ!!!」

{ガンガン}と石を殴る。

手からは血が出てるが痛みはない。

それ以上に自分に対して腹が立つ!!!


そう怒りに燃えてる時に視線を感じた。


すぐ隣でカメラを構えた戰刃と目が合う。


「お前…何撮ってんだよ」


「いやー怒るシーンが欲しかったから今だなって思って!良いよ?続けて?」


こんな状況で続けられる訳ないし何より…


「なぁ?戰刃?」


「ん?何だよ?」


「俺はお前が嫌いだ。何もせず只、つまらないと言いたげに席に座って外を見てる。そんなお前を心の底で見下してた」


戰刃は黙ってカメラを回す。


「なのに!何で今は楽しそうにしてる?俺とお前は天と地程の違いがあった筈だ!!なのに何で今は俺の上に立ってる!?」


言葉が溢れた。

八つ当たりなのは分かってる。

でも感情のまま言葉が出てきた。


「お前は隠キャで!俺はパリピの陽キャだ!!その筈だろ!?!それがっ!何でっ!!」


悲惨な俺の声だけが響く。

涙が出そうになるが、我慢する。

そして深呼吸をし


「すまん、今のは忘れてくれ」


そう言ってその場を去ろうと立ち上がる。


すると構えていたカメラを下に向け

「教えてやるよ」

と戰刃が口を開く。


その言葉に俺は足を止める。


「俺は今、目的があって行動してる。俺だけじゃないみぃもふゆこも自分の目的があってドラマを撮ってるんだ!」


「目的?」


「人生において目的は必要だ。目的さえあれば後はそれに向かって走るだけ!」


「その目的を失った人間はどうしたら良い?」


「別の目的を見つければ良いだろ?」



別の目的…か。

俺にとって人生の目的は勝ち組になる事だ。

異性だけじゃない、同性にも信用され期待される事だ。

だが、その目的はもう無くなった…。


言葉に詰まる俺を見て戰刃が言葉を繋ぐ。


「三浦!俺達とドラマ撮ろう!」


「俺を誘ってるのか?」


「あぁ!今のお前なら戦力になる!」



ドラマか…正直興味ない事もない。

俺の人生で、ドラマに出るなんてそんなプランは無かった。

だからドラマを撮ってると知った時は、参加したいと思った。

素直じゃないからあんな言い方をしてしまったが、本当はめちゃくちゃ興味あったんだ。


もう自分に嘘をつくのはやめよう。

魔法は必ず解ける。大事なのは解けた後だ。



「分かった!俺を仲間に入れてくれ!!」


こうして俺はネオエイターを目指すグループ『エフェクター』に入った。

ここまでなら美談とも思えるが、この話は夏火のこの一言で台無しになる。


「まあ、怒りのシーンをお前で撮ってるから入って貰わないと困るんだけどね」



そして最大のオチは―――



「じゃあ次は秋斗の台詞!」

パチンと手を叩いて夏火が合図をする。


「オレハアノコニコイヲシタ…」



「カァァーット!!!やり直し!」



―――俺が大根過ぎたって訳。。。





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