第3章 その4
そして、国立大学の二次試験の日が来た。
臨死体験をしたわけでもないのに、氷川塾へ入った時からのことが走馬灯のように頭に浮かぶ。一〇か月にも満たない期間で、俺のものの見方というか、思考がθもビックリな関数になるくらいに変わった。
配られた問題冊子を開く。綴られている文字。設問。これを仕上げて、一点他の人より良くて合格して、他の人より一点少なくて不合格になる。その後の人生が変わる。それがこんなもんで決まってしまう。だから思う。これはなんなんだ? 解答欄に「これは試験ではない」とでも書いてやろうか。
青海さんには夢があった。本当は童話を書きたい。でも、家のことがあるからずっと勉強していた。それが点数だけで決まってしまう。内申点? 生徒の人物像を考慮に入れる? 笑わせんな。青海さんの何が分かるってんだ? 四六時中青海さんの人となりを見てたってか? それは合否判定じゃなくてストーカーだ。こんな受験のシステムを誰もおかしいとは思わないんだろうか。
いや、いるんだろう。俺みたいなアホでも思うんだから。俺よりもずっと頭のいい連中がそう思わないわけがない。でも何か理由があって言わないんだ、きっと。それはこのままのシステムの方が、メリットがあると踏んでいるからかもしれない。変えるのは無理だと思っているのかもしれない。
で、俺だ。俺はどうする? 現代教育システムがおかしいと叫んで、実際にここから退場したら、それこそ元の木阿弥だ。
そう、志望校を変えようと思った時、そしてハシビクロウに吸収された青海さんへの絶叫があふれた時、訳が分からなかった思考が今言葉になる。
制度も法も税も、それこそ教育だって補足品で、主要なのは社会を、世界を作っているのは人で、その人たちがどんな社会にしたいのかの方が重要なはずだ。
ならば、今ここでできることはなんだ? よし、男赤崎元の本気を見せてやろうじゃないか。
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