第3章 その3

 朝目覚めると、なんてことはない、いつもの見慣れた自室にいた。室長も冬雪先生もいない。あの爪がもし一センチ長かったら、歴史(俺の人生)は変わっていただろう。

 午後から塾へ行くと、青海さんが実に爽快そうに回復していた。マスクも外れていたし。声色も良い。が、それで問題な点が、

「ビルくらいの大きさのハシビクロウが、街を壊して回っててね」

 という夢を見たらしい。しかも、

「巻き込まれちゃった私を、赤崎君が助けてくれたんだよ」

 俺の心臓がダブルドリブルを始め、その心拍数は降べきの順にならない高次方程式状態となり、つまりは大根役者丸出しの返答しかできなかったのは、きっと青海さんの抜群のスマイルに俺だけ常夏ハワイ状態になったからだろう。

 しかしである。よもやあれを覚えていると言うのならばだ、俺はどうやって青海さんを助けたと、青海さんは夢の中で見たのだろう。まさか山吹色の古式な服着て登場じゃないだろうな。どんな夢を見たのか詳細を後で聞いて……いや、何か怖いから聞くのは止めておこう。それよりも何よりも、青海さんが元気になってくれたのは変えがたくうれしいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る