第2章 その9
「室長。今、空いてますか?」
俺の決断を室長はどう言うだろうか。授業はなかったが、思い立ったが仏滅も何も、そんなの関係ない。
「ええ、いいですよ。面談ルームに行きますか」
幸い小学生が授業のようで、担当の先生が当たっている分、室長と冬雪先生が受付カウンターにいる。場所なんてどこだっていい。
「志望学部変える」
それを聞いても、眉一つ動かさない講師たち。俺は鞄からパンフレットを出し、志望変更をした学部学科のページを開いた。顔を見合わせる室長と冬雪先生。
教育学部教育システム専攻。
「そうですか。分かりました」
「それだけ? 突然変えて困らないの? 授業内容とか」
室長は自席に座り、俺の前には冬雪先生。予想外の反応に狼狽するのは俺の方。
「困ることは困るけれど、焦ることでもないわ。センター試験が良かった分、貯金は出来てるし。むしろ、焦るのはあなたのほうだから。今から理系になりますというわけでもないし。そういうムチャクチャなことを言うのが、受験を全く考えてこなかった浅はかな生徒がやることってのは重々承知しているから。言っておくけど、今まで以上にハードになるからね」
ニヤニヤとSっ気を匂わせながら冬雪先生も自席に座る。氷も微笑するんだな。
「赤崎君、その専攻は二次試験は総合科目です。総合科目と名のついている場合は、各大学の特色が色濃くなります。その大学の場合は、簡単に言えば英語と小論文の合体です。しかも量が多い。冬雪先生が言った『焦るのは君』というのはそういう意味です。覚悟はできていますよね?」
でなきゃ授業ねえのに、言いに来ないだろ。
「確認したまでです」
「それに、どうあっても合格させてくれるんだろ?」
俺の一言に室長と冬雪先生がもう一度顔を見合わせた。それから
「もちろん」
自信のある笑みだった。
で、このことを青海さんに言わないわけにはいかない。夜、電話をすると、その声色から青海さんが目を白黒させているのが手に取るように分かったが、
『じゃあ、お互い頑張ろうね』
だとさ。モチベーションを上げてくれるのは、こういうのだよね、やっぱり。
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