第2章 その4

 翌日、青海さんは登校してきたのだが、朝のうちに保健室に行き、教室へ戻って来たものの、また次の時限に早退してしまったのだ。ということは症状が悪化しているのか? 親が見過ごしているという説は却下できるとすれば、相当にやっかいな風邪なのかもしれない。入院などとならなければいいのだが。

 と気がかりになりながら塾に行ってみると、案の定、室長は青海さんの欠席を告げた。

 予想はしていたとはいえ、無力である自分が腹立たしい。青海さんといる時の俺の気分の高揚感を不本意ながら取り除いていたとしても、同じ塾で夏から切磋琢磨してきたクラスメートが目的地直前で、しかも本人の気持ちとは裏腹に立ち往生しているのを見て見ぬふりはさすがにできない。

「目的地ではなく、戦場ですよ」

 室長は俺の心情を見透かしているのか。

「君の苛立ちの根幹は己の無力さから来るものです。ですから、君にできることはありません」

「じゃあ、室長ならできるのかよ。医学部出身なら処置できるんでしょ?」

 ここぞとばかりに言ってやったさ。DNAの二重らせんが二度見する位のひねくれ方で。

「青海さんの保護者は優秀なドクターです。その方が処置にあたっているのです。改善がみられるのは個人差があります。ですから……」

「特効薬。とかはないのかよ?」

「今の私はドクターではありませんから。君がドクターでないように」

 たぶん口で室長に勝つには、それこそ俺が妖怪にでもなって長寿にならないと、今生では無理だろう。しかし、それを飲みこまなければならないということも分かっていたのだ。そう、室長の言うように俺は受験生でしかないのだから。

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