第175話 猛省


ドラゴネットの動く右目を見た瞬間俺の全身に鳥肌がたち、あるのかどうかもわからない、サバイバーとしての俺の本能が最大限のサイレンを鳴らす。


『瞬光』


やばい。やばい。やばい。

咄嗟にスキルを発動させるのとほぼ同時に、倒れていたドラゴネットがその四肢に力を込め、爆ぜるかの如く急激に距離を詰めてきた。

『瞬光』がなければ対応できないほどのスピード。

どこか、その風貌からドラゴネットにそれほどのスピードはないと思い込んでいた節はあるが、最下級とはいえ竜種。

目の前に迫ってくるドラゴネットのスピードは今までのモンスターとは一線を画している。

警戒していたとはいえ、ドラゴネットの突然のスピードに葵は反応が遅れている。

俺が倒すしかない。

俺は必死に脚を動かし葵とドラゴネットの対角線上へと身体をねじ込み、迫るドラゴネットに向けスキルを発動する。


『アイスブラスト』 『アイスブラスト』 『アイスブラスト』


「ガアアアアアアアア」


迫るドラゴネットに向け俺は残されたスキルを矢継ぎ早に発動し浴びせていくが、雄叫びをあげながらドラゴネットは更に俺との距離を詰めてくる。

その迫力に気圧され、脚が震えてくるが必死にその場へと踏みと止まる。

これで倒し切る。

俺の後ろには葵がいる。このドラゴネットの勢いはおそらく葵の火力では止まらない。


『アイスブラスト』


『瞬光』より発動スピードの上がったスキルを全弾頭部へと集中する。


「これで終わってくれ!!」


俺は最後の『アイスブラスト』を発動しドラゴネットを押し留める。

『アイスブラスト』の爆発でドラゴネットの動きは止まった。

もしこれでダメならサバイバルナイフで戦うしかないが、ドラゴネット相手にしてさすがにそれは無理だ。

俺が囮となって葵にしとめてもらうしかない。

祈るような気持ちでドラゴネットに意識を集中するが、それから程なくして頭部を大きく損壊させたドラゴネットはその場へと倒れ込み、そのまま消失した。


「終わった……」


目の前の光景に緊張が緩み、全身の力が抜けるが心臓の音だけが大きく響いている。

Cランクのドラゴネットを倒した悦びよりも、緊張と恐怖の方が遥かにまさる。

ドラゴネットを舐めていたわけではないが、途中まで上手く立ち回れていたので、余力を残した状態でも倒すことができると錯覚してしまった。

瀕死の状態からの最後の攻撃は、完全に想定していなかった。

やはり格上のモンスターを甘く見てはいけない。

下手を打つと命に関わる。今回のドラゴネットとの当たり前の事を強く再認識させられた。


「凛くん、やりましたね」

「ああ、どうにか倒せたけど、結局『瞬光』も使ったし、もう完全に使い切ったよ」

「いえ、相手は格上のCランクのモンスターです。本来私たち二人で相手取ることの出来ないモンスターです。それをほぼ完封したのですから凛くんはさすがです」

「葵の助けがあってこそだよ」

「凛くんの助けになれたなら良かったです」

「もちろんだよ。それじゃあ、今度こそ帰ろうか。さすがに疲れたよ」


身体が重い。今回は俺のわがままでやらせてもらったけど、俺の敗北は葵の生命にも関わる。

今後はもう少し考えて行動するべきだと猛省しながらロードサイクルへと跨った。


お知らせ

1年ぶりとなりますが今週176話を投稿予定です。

モブからが忙しく続くかどうかわかりませんがよろしくお願いします。

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